第15話 盲目な竜と饒舌な少女

 私の目の前には竜が居る。

 何故こうなったのか、偶然の悪戯だろうか?


 私は所謂ひとりで活動している冒険者で、旅をしている最中だった。

 とある森でのんびりと狩りをしつつ休んでいた。

 そこで変な音を聞きつけ、少し様子を見に行くと深い谷のようなものを見つけた。

 本能が、今までの経験がここは不味いと口を揃えるものだから急いで離れようとしたさ。

 でも、そこで足場が崩れ、丁度踏み込んだ所が崩れたせいで焦った私は何も掴めず転がり落ちて行ったのさ。

 何とか生きていたが、ふと見上げれば竜が私を見下ろしていた。


 とまぁ、こんな感じさ……笑えないな!

 どうしよう、本当にやばいぞこれ、必死に思考を巡らしていると徐ろに竜が口を開く。


「そこに誰かいるのか?」


 完全に目が合っている、白濁とした目で私を見つめている。

 きっと、こいつは目が見えないんだ……何とかなるかもしれない。


「あぁ、デカイ仲間がいたもんでビックリしたよ。」


「ふむ、お前さんも竜なのか?それにしては随分と美味そうな匂いがするが。」


「そ、それは、落ちる前に狩りをしていたからな!」


「なるほど、思わず食べそうになるほど美味しそうだった、危ない危ない。」


 本当に危なかったよ!ガタガタ膝が震えている。

 目は見えないと言っても、その分嗅覚や聴覚は優れているのだろう、私の位置を正確に見詰めてくる。

 何も言わずに逃げようとしていたら、後ろからパクリと逝っただろうか。

 それから私はこの盲目竜と色々話し始めた。

 随分と長いこと居るようで、寂しかったのだろうか、落ち着いた雰囲気ながら嬉しそうに話していた。

 商団を襲った話とかはしなくていいけどね!


「なぁ、ひとつ聞いてもいいか?」


「何かな?お嬢さん。」


 体は小さいし、声も高い方だからか雌の小竜とでも思われてるらしい。


「アンタは何時からここに住んでるんだ?」


「ふむ……目が見えなくなって少しして、数百年程前だろうか。」


「数、、随分と長生きなんだな。」


「カカカッお嬢さんもそれくらいの長ささはあっという間に過ぎるさ。」


「それまで生きてられればなぁ……ここからも出られないし……」


「出られない?……あぁ、羽が無ければ確かにここからは出られんな。」


 全くだよ、私は遠い空を見上げる。

 食料も長くは持たないし、何時までも騙せる訳がない。

 できる事と言えば死ぬまでにこの巨竜と話したことを書き残す位だろうか。


「よし、久々の運動がてらに上まで載せてってやろう。」


「あー、確かにそれなら……へ?」


 その瞬間、私は竜に咥えられ、強烈な重力を感じる事になった。

 あまりに一瞬の事だったが、一生忘れられない様な刺激的で苦しい体験だった。

ね。

「よし、着いたぞ……大丈夫か?」


「どごがだいじょうぶにみべるんれ、オエェ、、、」


「カカカッ、人間にはちと刺激が強すぎたみたいだなぁ」


「あだりまぇ、、、へ?」


 思わず竜を見上げると、薄ら笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「さ、最初から分かって、、、?」


「当たり前だ、そんな子供騙し通用すると思うな。だが、お前の事は友人として見ていた、それだけだ。」


 ついに食われるかと身構えていたが、彼がドスンと伏せた所で腰が抜ける。


「ところで、もう行ってしまうのか?」


「あ、あぁ、そろそろ帰還しないと行けなくてね。」


「ふむぅ……寂しくなるのぉ……」


「………………良かったらまた来るよ。」


「本当か!礼に何時だって一緒に飛んでやるぞ!」


「あれはもう勘弁してくれ。」


 こうして、人間と老竜は別れを告げる。

 後に、彼らは交流を続け色んな出会いをする事になるのだが、それはまた別の機会に話そう。

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