第11話 7人の刻(上)
酷い嵐だ。
視界もまともに取れず、体が飛ばされないように必死に歩く。
何処か休める場所は無いかと辺りを見回しながら進んでいると、微かな灯りが遠目に見えた気がした。
藁にもすがる思いでそこを目指していく。
そしてすぐに、幻覚ではなかったことが分かる。
「誰か、誰か助けてください!入れて貰えませんか!」
少し乱暴ながらドアを叩く。
灯りがついてるなら人もいるはず,,,すぐに返事は返ってきた。
「お、お母さんじゃない人は入れちゃダメって言われたんです!」
それは怯えた様な少女の声だった。
親はいないんだろうか、これは不味いことになったと必死に考える。
「嵐が治まるまでで良いから頼む,,,君達には絶対に危害を加えない、我が主神へと誓ってみせる。」
その結果、頼み込むことしか出来なかった。
次第に何人かの子供の声が聞こえてくる。
一人じゃ無かったのかと驚いていると再び返事が来る。
「分かりました,,,でもお母さんが来るまでに出ていって下さいね?本当は入れちゃダメなんですから,,,」
その声と共にドアロックが解かれ、やっとの思いで避難する事が出来た。
あまりの寒さに意識が朦朧としていた私へ、子供達はシーツや暖かいお茶を出してくれるが、落ち着いてきた頃に子供達を見ると再び驚く事になった。
見事な程に種族がバラバラだったのだ。
人間や獣人、エルフやドワーフ、ハーピィと魔族ノームの子まで居た。
流石にお母さんとやらが全員産んだわけではないだろうが,,,孤児院なのだろうか。
物珍しさに誘拐しようとする輩もいるかもしれない、お母さんとやらは随分と警戒心が強いようだな。
とはいえ、見知らぬ俺に扉を開けてしまったが。
「大丈夫ですか?」
「大分楽になった,,,本当にありがとう。」
「でも、早く出ていって下さいね。」
そう言うと子供達は各々動き始めた。
気になったのは、子供にしては全員大人びてるのだ。
不気味な程に落ち着きがあり、何処か顔に暗さを残している。
そんな不安を感じていたが、旅の疲れも相まってふと眠りに落ちてしまった。
,,,,,て,,,,,,さい,,,
何かが聞こえる。
体がとても痛い。
,,,起きて,,,,下さい,,,
何処か切羽詰まった声で。
必死に訴えるような声に目を覚ます。
「直ぐに起きて!隠れてください!!」
泣きそうな顔で揺さぶり起こすのは先程の少女。
家事でも起こったのかと慌てて起きるが、辺りは静かだった。
いや、静かすぎた。
「旅人さん、静かに!」
そう言われ引っ張られて、大きな時計の置物へ連れていかれる。
少女が何かの細工を弄ると表面が開き、空洞の中に押し込まれる。
「絶対に開けないで!音も出さないで!」
静かに、有無を言わさぬように告げ、扉を締められる。
用意されていた覗き穴から表の様子を見る。
その時、1人の先程見かけたハーピィの少年が走っており、目の前で転けた。
絶対に開けるな、そう言われたがあんな悲痛な顔をして逃げる子供を前にじっとしていられない。
しかし、俺が動く前に、その結末はすぐに訪れた。
転けてしまった子供は痛みに蹲っていたが、何かを思い出したかのようにすぐに立ち上がろうとする。
そして毛むくじゃらの何かに掴まれ上に持ち上げられた。
悲鳴がすぐ側で聞こえる。助けに行きたいが少女を巻き込む訳にはいかず待つことしか出来ない。
そして、あの少年の悲鳴は何かを飲み込む音と共に消えた。
あれから数時間、大きな時計の音が鳴る。
同時にあの怪物の気配も無くなってることに気づいた。
このまま俺はずっと居るべきなのか、そう迷っている内に誰かが開けた。
「旅人さん、お願いがあるの。」
扉を開けた少女が、泣きそうな顔で俺に伝える。
「皆が居なくなる前に、助けを呼んで。」
俺が来たからあの子は犠牲になったのか、たまたま俺はこの場に居合わせる事が出来たのか。
何も分からないが、ただ、あの少女を泣かせたままにはしたくは無い。
その思いで俺はこの屋敷から走り出ていった。
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