第10話 紅き狩人

「あら、親子で旅でもしてるのかい?」

「そんな所だ。干し肉は売ってないか?」

「勿論あるよ、お子さんの分もサービスさせてもらうよ。」

「助かる。」

 銃と剣を背負った狩人が商人と話している。

 その傍らには深くフードを被った子供が1人、つまらなそうに岩へ腰掛けていた。


「それにしても、何か悪い人に自分は見えるんかねぇ。」

「恥ずかしがり屋なんだ、干し肉ありがとうな。」

「こちらこそ毎度あり、また会ったらよろしく頼むよ!」

 そして商人は馬車を走らせ向こうへ消えていった。

 それに気づくと子供はせかせかと狩人に近ずいてくる。


「終わった?」

「あぁ、大人しくできて偉いな。」

 子供がフードを外すと、頭には獣のような耳が着いており、顔も狼を彷彿させる特徴が浮かんでいた。

「僕偉いでしょ、褒めて。」

「よしよし、次も良い子にな。」

 ぐしぐしと頭を撫でると、気持ち良さげに目を細める。

 「に撫でられるの嬉しい!」

「,,,お父さんもお前といられて嬉しいよ。」

 嘘だ。俺はこいつの父では無い。


 こいつの家族を、村を狩り滅ぼした悪魔なんだ。

 村を守ろうとした父を撃ち殺し、父を助けようとした母を斬り殺し、家族を逃がそうとした兄弟を絞め殺したのが俺なんだ。

 そして、最後に残った赤ん坊を人間と勘違いし拾って、育ててしまった。

 コイツも彼奴らと同じ化け物だと分かった瞬間剣を振りおろそうとした。

 だというのに、純粋な信頼した目で見つめられ、育てて来た情が移ったのか突き立てる事は叶わなかった。


「なぁ、お前は俺が怖くないのか?」

「どうしてー?お父さんは強くてカッコイイよ!」

 近くに座り、ため息を着く

 もし、コイツに真実を伝えたら復讐心に満ちた目で俺を殺そうとするのだろうか。

 それとも、自分が俺の子供でないと分かって絶望するのだろうか。

 そして、コイツが牙を向いた時、俺は銃を抜けるのか?剣を振れるのか?

 その細い首を掴んでへし折る事は出来るのだろうか?


 「?、どうしたのー」

 ずっと化け物だと言い聞かせ、只管【狩り】をしてきた。

 だと言うのに、子供はこうも純粋無垢で、人間と変わらない平和な暮らしをしている。

 怪物なんだと言いながら奴らを虐殺する俺達が間違っているんじゃないか?

 それなら俺が今までやってきた事は全て間違ー


「お父さん、良い子良い子。」


 突然の柔らかな感触に我に返る。

 俯いた頭を上げれば心配そうに覗き込むアイツが居た。

「僕が怖い時、撫でてくれたでしょ?お父さんが怖い時は撫でて上げるから、怖くないよ!」

 

 その笑顔を見てすっかり毒気が抜かれてしまった。

 これからも悩んで、悔やんで、罪を背負う。

 でも今は、コイツが俺を父と認めてる間は狩人では無く、お父さんとやらである事にしよう。

「ありがとう、お前も強い子になるだろうな。」

「うん、お父さんより強くなる!」

 せめて、俺に出来るのは、出来る限りの愛と力を与え、俺に殺されないようにする事だけだろう。

 少なくとも、今はそれしか思いつかなかった。

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