第9話 合成獣の魔女

 この森にはキメラ制作を趣味にしている魔女がいる。

 数百年前から目撃され、進んで人里に降りてくることは少ない。

 容姿も声も、年齢すらも変わってないのでは無いかと言われる中、大きな変化が近年見られた。


「合獣の魔女さんや、本当に良いのかい?」

「何が?」

「人間が欲しいって昔はボヤいていたじゃないか?それなのに今は献血を募集したり、死人を買うのを辞めたりさ。」

「他にやりたい事が出来ただけ。」

「はぁ、そうかい。今度は何を見せてくれるんだろうね?」

 そして、魔女は商人に微笑んだ。

「私の本当の自信作だ。」


 その後、街を出た魔女は森に向かい、自分の家へと帰る。

 深く奥の、外壁には蔦が絡み、人が住んでいないような館。

 その扉を押し開き、荷降ろしをする。

 ふと暗くなる視界に気づき、見上げると怪物が佇んで居た。

 獅子や狼や猿やら蛇、挙句には竜など様々な生物の特徴が混在し、細められた瞳孔を魔女に向ける。

 そして、鋭い歯が並び立つ口を開け

「お帰り、セーラ」

「ただいま」

 出迎えの言葉を紡いだ。


「新しく作った声帯の調子は?」

「とっても良いよ、今回のは爆発しないし。」

「あれはただの設計ミスだ,,,火を吹こうとしたお前が悪い。」

 無愛想にカバンなどを投げる魔女と、苦笑しつつも嬉しげにそれを受け取る合成獣。

「あ、ご飯は作っておいたよ。野菜のスープと塩焼きステーキにしたんだ。」

「,,,,ネギは入れてない?」

「食べてみるまではナイショだよー」

 魔女の倍ほどの背丈がある合成獣は身を屈めながら、柔らかな笑顔を浮かべている。


「それにしても、結局僕は自我を失わなかったね。」

「十中八九失う予定だったんだがな。全く、大誤算だ。」

「でも家事とか実験のお手伝いをしてあげてるでしょ?自我が残るのは嫌だったの?」

「,,,,良い誤算だった事にしておく。」

 恥ずかしそうに帽子を深く被る魔女へ、嬉しげな笑みを浮かべつつ合成獣は机に誘導する。

 魔女が席に着き、合成獣も向かいに寛ぐように座る。

 作られたばかりの暖かな食事を並べていき、他愛の無い話をしながら食べ進めていく。


 最近あった事、出かけ先で何かあったか、家でこんなものがあった。

 色んな話しをするうちに、魔女は本題に入る事にした。

「、、、1つ話がある。」

「どうしたの?」

「近々、お前を連れて街に行こうと思う。人間が苦手なのは分かるが、嫌なら断ってもいい。」

 突然の言葉に驚いて固まるが、すぐに返事を出す。

「行く!嫌じゃないよ!」

「でもトラウマがあったんじゃないのか、、?」

「この姿になってからは気にする事でもないって分かったし、何より2人でお出かけ出来るようになる方が凄く嬉しいんだもん!」


 食い気味に全身を動かし、全力で喜んでいる。

 それを見て心配も杞憂だったかと魔女も笑い出す。

 「あ、でも外では何て名乗ろうかな、、」

「ふむ、、、私が付けてもいいか?」

「もちろんいいよ!」

 そして少し考えた後、

「シェイル、私の名前から考えたが、、、どうだ?」

「シェイル,,,うん、凄くいいよ!」

 2人は笑いあった。

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