第7話 汚れた実験体

[ 第7話 汚れた使い魔 ]

 月が射し込む森の中、1人の少年が倒れていた。

 奴隷商が魔物に襲われ、逃げ出してきたは良いものの迷ってしまい。

 何も飲まず食わずで限界が来たのだ。

 

「,,,このまま死んじゃうのかな」

 折角手に入れた自由も活かせないまま死んでしまう。

 とても悔しくて、情けない自分に涙が出る。

 疲労と空腹からゆっくり目を閉じ、奇跡が起きる事を信じて死へと向かう。

 そんな彼を神様は見捨てなかったのかもしれない。

 意識が途切れる直前、声が聞こえた。

「人間?せっかくだし連れていこうかしら。」



 混濁とした意識の中、鼻をつくような薬品の匂いで目が覚める。

「,,,ここは何処?」

「私の家よ。」

 独り言の様に呟いた言葉へ答える声に、驚いて振り向く。

 そこには煤けたローブを着た女性がいた。

 彼女は退屈そうに本を読み、その本には血の跡が幾つか残っている。


「早速だけど、アンタには実験体となってもらうわ。」

「じ、実験体?」

「そ、私のキメラ制作のね。

人間の素材は使える機会が無くてラッキーだったわ。」

 何でも無いように呟く彼女の恐怖を覚える。

 しかし、そんな彼に差し出されたのはスープとパンだった。


「欲しい物はある程度用意してあげる。実験体にしても世話くらいはするわ。」

「死んだりとか、しないですか?」

「貴方次第ね。」

 その後も色んな事を質問し、淡々とではあるが答えてくれた。

 スープのおかわりも、暇潰しの本もくれた。

 そして、暫くして注射器を持ってきた。


「さて、実験開始するから、逃げないでね。」

「何ですか、それ?」

「キメラの実験に使うサンプル。貴方を主軸にしたキメラを作るから。」

 彼は怖気付いたが、少しの間でも自分を人として扱ってくれた彼女に、そして命を助けてくれた事への恩返しとして報いるように腕を差し出す。


「案外素直ね。」

「死ぬまで、捨てないでください,,,」

「死んだ後も捨てないわよ。」

 そして注射器が刺され、中身が流し込まれる。

 体が食い荒らされるような熱さに襲われ、視界の色が次々に変わる。

 何分?何時間?長い苦しみを味わい、強烈な胸の痛みと共に反応は治まる。


「あんた、生きてる?」

「生きてますス,,,あレ?」

 喉が可笑しい、バランスも取りにくい。

 そう思ってると鏡を見せられる。

 そこに映っていたのは、所々に生えた鱗、一回り大きくやった身体、別人となった自分が居た。

 でも不思議と嫌な気持ちでは無い、何故だろうかと思った時、実験前と変わらず接してくれる彼女が居たからだと気づいた。


「落ち着いたら血とか取らせてね、数日は私がご飯用意するけど,,,何?」

 「,,,もシ、僕が僕で無くなったら使い魔にしてくれませんカ?あト、、、それまで友達でいてくれませんカ?」

「別に構わないけど、それなら最後までアンタも付き合いなさいよ。」

 そんな事かと言わんばかりにため息をつかれたが、これで本当に安心した。

 実験を重ねる毎に僕は僕でなくなっていくだろう。

 でも、彼女が覚えていてくれる。【僕】として接してくれるなら、最後まで【僕】として彼女の実験に付き合えるかもしれない。

 それにしてもまずは、この体を慣らして行かないと。


いつの日か、あの森には恐ろしい魔女がいると噂になる。

そして傍らには何時も心優しき怪物が居たとか。

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