第5話 生贄を噛む

「私の、この身、この心、全て捧げます。この愚かな贄と引き換えに私の村をお救い下さい,,,」

「断る」

 

 時は遡り、私は【贄の一族】に生まれた。

 この村では代々神様へ捧げ者をして、加護と恵みを授かりながら生きていた。

 10年に一度、生娘を選ぶのだが、それは何時も【贄の一族】から選ばれる。

 村で1番優雅な暮らしをして、周りから感謝される。

 そして10年に1度、娘を生贄にするのだ。


「では、行ってまいります。」

「村神様の機嫌を損ねるんじゃないぞ。」

「怪我のないようにね!」

「お姉ちゃん頑張ってねー!」

 他から見れば狂ってるのかもしれない。

 でも私からすれば、幼い頃からこれが役目と育てられ、これがなのだ。

 武芸を学び身を鍛え、知識を学び知恵を付け、身も心も潔白にして今日まで生きてきた。

 感情に動かされず、ただ、役目を果たす為に。

 だが、村神様を目の前にして、それは覆された。

 そして現在へと戻る。


 「ど、どうしてですか!何か私は間違えてしまったのでしょうか!」

「あーいや、そういう事では無い。」

「それならば,,,どうして,,,」

「簡単な話、味に飽きたんだ。」

「、、、、、、はい?」

 どうやらこの神様は人間の味に食傷気味なのだそうだ。

 今までの努力を気分で一掃されたような気がしてショックのあまりに膝から崩れ落ちる。

 私はそのまま気を失ってしまった。


 目が覚めると祠の中で、近くには村神様が休んでいた。

「おぉ、目覚めたか。」

「先程はお見苦しい所をお見せしました。ですが味に変わりは無いはずですので、どうか私を,,,」

「あー、要らないんだがなぁ,,,わかった、頂こう。」

 その言葉を聞いて安心する。

 今度こそ使命を果たし、この命を全う出来るのだと。

 粘液のような体をこちらに近ずけ、竜のような頭部を近ずける。

 そして、私の頭を咥え込み,,,

「,,,オ゛エ゛エ゛エ゛」

 そっと離して盛大に吐いた。


「どうしてですか!?ど、毒などは一切仕込んで居ませんのに!?」

「落ち着け落ち着け、オエ、食傷気味だと言ったろ。

味そのものを受け付けなくなったんだ。」

 ここまでの問題だったとは思わなかった。

 これまで通り加護を行うから安心して欲しいと言われたが、私はこれからどうすれば良いのだろうか。

「,,,これでは家族に顔向けも出来ません。」

「何か悪い事した気になるな!?」

 そこで何かを思いついたようで。


「分かった、我の食傷が治るまでそばに居ると良い。身も心も捧げるつもりなら、少しづつで良いから身の回りの世話を頼みたいのだ。」

 その言葉にハッとする。

 確かに無理やり食して貰うよりは、十分に満足してもらい、最高の気持ちで戴いて貰うのが1番だ。


「分かりました!私にお任せ下さい!」

 そして私は全力で名乗り出た。

 神様から血を分けてもらい寿命を伸ばし、毎日祠の掃除や食事の準備。

 狩りに行ったり街に行ったり、出来る限り尽くしてきた。

 そして、次の贄が選ばれた。


「あら、新しい贄でしょうか?」

「み、巫女様?」

 相変わらず選ばれるのは無駄の無い綺麗な姿の生娘だ。

 最近疑問に思ってきた自分がいる。

 これはおかしい事では無いかと、間違っていてもいまさら変わることは出来ないのだが。

 事情を掻い摘んで説明し、もう贄が要らないことを村に伝えに行かせる。

 これで私は目的についてゆっくり考えられる。

 最近料理が美味しいと言われ、益々人間を食べたがらなくなった村神様を何とかしなければならないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る