第3話 憑き神

「お、オオカミだああ!?」

 とある村に旅人が逃げ込んでくる

 化け物がいた、早く逃げないとと慌てて騒いでいる。


「化け物が出たって?」

「そうだよ!デッケェオオカミのバケモンがさ!」

「あぁー、それはうちの村の守り神様だ」

「え?……て事は危なくないのか?」

「決まりさえ守れば危なくないさ、旅人や狩人を見守ってくれるのさ」

 笑って彼らはそう言った。

 この町の守り神、オオカミ様。

 狩りする我らを見守ってくれる、有難い神様。

 だけど、時々牙を剥く。


「決まりってなんだよ」

「簡単な事さ、オオカミ様の前では転んじゃ行けねぇ」

「転ぶ?」

「そう、目の前で転んじまったら、、、まっ、気をつけな」

「ど、どうなるんだよ!?」

「俺の口からはとても言えねぇ!ただ気をつければ平気なだけだ!」

 そそくさと村人は逃げてゆく。

 旅人は不思議に思いながら安心した。少なくとも転ばなければ襲われないのだから。


 その夜、視線を感じた。

 寝苦しさに目が覚め、窓を覗いてみる。

 すると遠くに、けど確かにあのオオカミがこちらを見つめていた。

 この時俺はあいつが笑ってるような気がしたんだ。

 まるで【見つけた】と言わんばかりに。


 それから俺は軽く狩りをする事にしていた。

 しばらくこの村で狩りをしながら休んでまた旅をするつもりだ。

 「今日も大量だったな,,,,ん?」

 血抜きを済ませた獲物を担ぎ、山を降りていくとふと違和感を感じる。まるで何かに見られているかの様な。

 その視線は俺の緊張感を、焦燥感を煽る様な鋭さがあった。

 走り出さないと行けない。

 そう考えた。いや、俺は山を必死に駆け下りていく。

 

 そして村が見え、安心したその時

 僅かに伸びた木の根に気付かず、躓いて転んでしまった。

 「うわああああああああ!?」

 そのまま山を滑り落ち、数秒後に止まる。

 何とか骨折などが見受けられる無いのは不幸中の幸いた。

 そしてホッとした時、ふと周りが暗くなる。

 この時俺は思い出してしまった。

 湿った風が俺の首を舐め、視線の主がすぐ背後に居る。

 (オオカミ様の前では転んじゃいけねぇ)

 転ぶとどうなるのだろうか、その答えが聞けていたら、オオカミ様は転ぶ様に促すのか。

 その答えが聞けていたら違った結果だったのかもしれない。

 そして、ゆっくりと俺は振り返る。

 

 目の前にオオカミ様、あの夜と同じ様に笑い、免罪符を得たかの様な嬉しげな様子で俺を見つめる。

 それからオオカミ様はゆっくりと口を開き。

 そこで私の意識は途切れた。



 「これで私がとある村で体験した奇妙な話は終わりだ」

「はぁ?その後どうなったんだよ」

「それは自分達で体験してみてくれ、無理だろうけどな」

「気になる所で終わりやがってよ〜」

 酒場で飲み交わしながら昔の事を語り合う。

 そしてお開きになり、私は再び旅に戻る。

 この街ともそろそろおさらばしないと行けないそう思い路地裏を歩いていた時、酔っぱらいが目の前を歩いていた。


 「危ないぞ?しっかり前を見て歩け」

 しかし泥酔しているようで、その足は覚束ず出っ張りに躓いてしまう。

 その瞬間、思わず身震いしてしまう。

 あの時の感情が思い出し、嬉しさを感じる。

 

 案の定、酔っぱらいは転んだ。

 私も当然、後ろに行く。

 「転んじまったな?」

 後日、その酔っぱらいと旅人は人知れず街から消えていた。

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