第2話 出会い
「はじめまして、総一朗っていいます―」
初めて出会った日の挨拶はこんな堅苦しいものだった。昔になぞらえるならば、お見合いに少しは似ているだろうか。
現代では「マッチングアプリ」と呼ばれる異性との出会いを提供するシステムがある。スマートフォン一台で、相手の容姿や趣味、連絡を取り合うまで可能にさせてくれる。とても便利な世の中になったものだ。
相手自身の情報は開示されているものの、全てが本当のことかは分からない。だから初対面ではお互いのことを何も知らない。直接会うまでは会話すらできないため、ほとんどが想像と妄想でしかない。
どうやって話しかければいいのか、何をすれば相手が喜んでもらえるのか、全てが初めからなわけである。
よくある出会いのパターンとしては、「友人からの紹介」「中高生時代の同級生」「社内恋愛」などがあると思う。どれも事前に情報が与えられている上、共通の友人や、助言をくれる知人など困ったときにサポートしてもらえることが多いだろう。
そんな出会い方が多様化した現代で、総一朗は妻と前者で知り合った。
初めてのデートからしばらくは、緊張や興奮、不安が入り交じりいつも本当の自分ではなかった。
「ここのしゃぶしゃぶ、すごく美味しいんだよ―」
大した収入もない一介のサラリーマンが、高級割烹料理店へ彼女を連れていき、ただ何かして気を惹きたい一心でプレゼントを贈る。
それは愛情や好意などではなく、ただの見栄だと彼女に気付かされた。
「別に無理しなくていいよ。私あんまりこういったお店とか好きじゃないし」
報われなかったことや、一生懸命になるあまり稚拙な行動をとっていたことへの恥が総一朗を襲った。大したお金もないのに無理をしていたにも関わらず、いざ相手に言われると悲しくなるほどに。
しかしそれが結果として、総一朗の心に火をつけた。年齢だってもう若くはない。親に孫を見せてあげたい。そんなことが込み上げてきたと同時に、頭より体が先に動いていた。
「よかったら、僕と付き合ってください」
猪のように、勢いだけであっただろう。ほぼ初対面の相手に軽々しく言える言葉ではない。ただ、自分の心の中にある何かが叫んでいた―。
同時に、大きな不安が襲ってきた。まず断られるだろうと思ったからだ。ほぼ一目惚れで男性の言葉を、世の中の女性がどれだけ信じることはないと知っていたからだ。
「いいよ。こちらこそよろしくお願いします」
だからこんな返事がくるとは思わず、総一朗は頭が真っ白になった。
それがちょっと変わった不思議な二人の出会いだった。
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