第5話

「何だっ、貴様らはっ!!」


 馬車の進みが遅くなり、小休憩をとるのかと思っていたところに騎士様の怒鳴り声が聞こえました。

 それに合わせるように、兵士の方たちが私の乗る場所の近くを固めます。

 けれど、より近くなった距離で見る兵士の方たちのお顔は先ほど見たときよりも悪くなっているようです。

 騎士様のお声的に誰何しているお相手は友好的とは思えませんので、これはどうやらかなり悪い状況のようです。


「何だとはご挨拶だな。

 俺様たちは泣く子も黙る大盗賊ハイエナ盗賊団よ。

 無駄な抵抗をせず、素直に馬車を差し出しな。

 そうすりゃあ、苦しまずに死なせてやるぜ?」


 そう答えるのはハイエナ盗賊団のリーダーでしょうか?

 その言葉を聞いた瞬間、周りの兵士の方たちが身じろいだのがわかります。

 恐怖を覚えるほど有名な盗賊団なのでしょうか?あるいは今の体調に不安を覚えているせいかもしれませんが。


「ふんっ、盗賊風情の言いなりになるような我らではないわっ!!

 貴様らごとき、我が剣の錆にしてくれるっ!!」


 けれど、続く騎士様の言葉に覚悟を決めたのでしょう。

 兵士の方たちはいっせいに腰の剣を抜き、盗賊へと身構えました。


「なんだ、せっかくの俺様達の慈悲を無下にするとは。

 ならば構わん、精々無駄な抵抗をしながら死んでいくんだなっ!!」


 そう盗賊団のリーダーが叫んだ瞬間、小さく風を切る音が聞こえ、馬車の右手にいた兵士の頭に矢が突き刺さっていました。






 最初の矢が飛んできて以降は、まさに一方的でした。

 どこからこれだけの数をというような数の矢が周囲の兵士たちに飛び、体調も万全ではない兵士たちは瞬く間にハリネズミのごとき姿へと変わりました。


「はっ、他愛もねえ。

 王都からの兵だと聞いていたが、とんだ腑抜けじゃねえか。

 ま、俺たちからすりゃ仕事が楽でいいんだがよ」


 戦闘とも呼べない蹂躙が終わった後、静かになったその場に盗賊団のリーダーの声が響きます。

 やはりというべきでしょうか、どうやら向こうはこちらの素性を知っているようです。



「んじゃまあ、馬車から降りてきてもらおうかね、お嬢さん?」


 やや乱暴に開かれた馬車の扉から顔を見せたその男は、にやけた顔を隠しもせずにそう告げました。

 先ほど外から聞こえてきた声と同じでしたので、この男が盗賊団のリーダーなのでしょう。

 仮にリーダーではなくても、少なくともこの場を仕切る立場の人間であることは間違いないはずです。


「下がりなさい。

 貴方のような汚らわしい者の手を借りずとも降りれますわ」


「おっと、これは失礼」


 相変わらずにやけたままの顔で後ろに下がった男を横目に馬車を降ります。

 その姿はしばらく前の私の近くにはいなかったような、いかにも盗賊然とした大柄で髭面のやや薄汚れた装備の男でした。


 馬車を降り、周囲に倒れ伏す兵士の方たちの亡骸に心の中で祈りをささげつつ、盗賊団を観察します。

 馬車を囲むように2、30人の男たちがおり、手前には薄汚れた盗賊風の男たちが剣を手に並び、奥にはフード付きのマントで人相を隠した男たちが弓を手に並んでいます。

 恐らく奥にいる男たちが、兵士の方たちに矢を射かけていたのでしょう。


「ボス、後ろの馬車から女を連れてきましたぜ」


 その声に振り向くと、後ろから気を失ったアンナを肩に担いだ男がこちらに向かてくるのが見えます。


「おう、荷はどうだった?」


「思ったより大したことはなかったですね。

 全部見たわけじゃないですが、ほとんどが衣服であとは宝飾類が少しってところです。

 しかも衣服は、ほとんどが平民向けの物でしたよ」


 どうやら、この短時間のうちに積み荷の確認までやっていたようです。

 さすがは盗賊といったところでしょうか。


 そんなことを考えている間に男がボスの近くにアンナを放り投げます。


「なっ!?」


 あまりにも酷い扱いに驚きの声が出てしまいます。

 けれど、そんな扱いを受けたにも関わらずアンナが目を覚ます様子はありません。


「……薬ですか。

 この襲撃の黒幕は殿下かしら、それともルシール様かしら?

 どちらですか?騎士エビシド・イクス」


 アンナの様子を見て取った私は、フード付きのマントで奥に隠れるている男に向かって問いかけます。

 男――騎士エビシド・イクスは私の問いかけに意外そうな気配を見せつつも、あっさりと前に歩み出てフードを外しました。

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