第4話

 王都を離れてから今日で4日目になります。

 現在滞在している場所は王国の南端に位置する伯爵領で、南東のヴォルペジア王国、南のオルソネーロ王国との間に存在する広大な魔物の森が有名な場所です。

 この森があるために、その2国との街道を作ることができないと聞いたことがあります。

 ただ、森に生息する魔物を狩る冒険者が多く、そこから得られる魔石や素材で領地自体は潤っているそうですが。


 ちなみに、なぜ西の隣国に向かうために南の領地にいるのかということですが、隣国に通じる街道が南西の山脈が途切れたところにしか存在しないためです。

 なので、主要な街道を使って移動しようとすると、王都から南に移動してから西へ向かうか、王都から西へ移動してから南へ向かうという経路になります。

 王都の西にはルナキアロ侯爵領があるため、それを避けるためにこちらの経路が選ばれたのでしょう。



「ディアナ様、昼食のご用意ができました」


 アンナの呼びかけに応じ、馬車を降りて休憩場所に向かいます。

 今日まで移動を優先していたために日程に余裕が出たのか、移動し始めてから初めての馬車の外での昼食です。



「ようこそ、ディアナ嬢。

 街道の移動中にイノシシの魔物を仕留めましたので、今日はその肉を使った昼食を用意しています。

 今までは移動優先で粗末な携行食ばかりでしたので、たまには気分転換も良いでしょう」


「まあ、ありがとうございます、騎士様。

 それにしても、魔物が出ていたのですね。

 私はまったく気づきませんでしたわ、お怪我などはされていないのでしょうか?」


「ご心配なく。

 魔物の森から出てきたはぐれが1匹だけでしたから、怪我の心配などする必要がないくらいあっさりと狩れましたよ」


「さすがは騎士様、お強いのですね」


 休憩場所でお待ちになっていた騎士様とそのような会話を交わしつつ、用意された席に着きます。

 メニューは今日狩ったという魔物のステーキとパン、スープというものでした。

 今までの昼食は馬車の中でパンと干し肉をいただくだけというものだったので、簡単なものとはいえきちんとした料理が食べられることを嬉しく思います。



 兵士の方たちのもとへと移動していった騎士様を見送り、さっそくお料理をいただきます。


「とてもおいしいですね、アンナさん」


 今まで侯爵家で豪華な食事をとっていたにも関わらず、目の前の料理がとてもおいしく感じられます。

 夜だけとはいえ、ここまでもまともな料理を食べていなかったわけではないのですが。

 やはり馬車で移動中に野外で食べているということが特別感を出しているのでしょうか。

 これが国外追放のために護送されているという状況でなければ、もっとおいしく感じられたのかもしれません。


「そうですね。

 この魔物の肉は記憶に間違いがなければ、高値で取引されていたはずですから、小さな子供のものだとはいえとてもおいしく感じます」


「そうなのですか?」


「はい。

 といっても、料理人ほど詳しくありませんので噂で聞いた程度ですが。

 最高級品は王城の晩餐にも出せるものだと聞いた記憶があります」


「まあ、そんなに!?

 平民になった私なんかがいただいても良かったのかしら」


「彼らも護送が優先で狩った魔物を運ぶことができませんから、その場で処理することにしたのではありませんか?

 現に、予定よりも昼食の時間が早い気がしますし」


 そう言って、アンナが騎士様や兵士の方たちの方に目を向けます。

 つられて見ると、焼いたお肉を手に盛り上がっている姿が見えます。

 まあ、特に問題がないようであればおいしくいただきましょう。

 おいしいものに罪はないですしね。




 久しぶりに充実した昼食をいただいた後、ゆっくりする間もなく休憩場所を片付けて出発しました。

 まあ、私は休憩場所ではなく馬車の中でゆっくりさせてもらうのですが。


 いつもよりたくさんいただいた昼食に加え、街道を進む馬車の振動でうとうとし始めてきたころ、ふと窓の外を見つめて気づきました。


「あら、お疲れなのかしら?」


 つい口に出してしまいましたが、馬車の周りを警護されている兵士の方がふらついています。

 さすがに馬に乗っていれば眠くなるということもないでしょうし、ここまで移動を優先させているようですから疲れているのかもしれません。

 気になって逆側の兵士の方を見ると、こちらも同じようにふらつきつつ何かに耐えるように馬に乗られていました。


「うーん、少し休憩でもされた方が良いのではないかしら」


 そうつぶやいて騎士様の姿を探しますが、どうやら馬車の近くにはおられないようです。

 馬車の窓から見える範囲にはその姿がありませんでした。

 ですが、窓から見える範囲にいた兵士の方たちは皆一様にふらつきつつ必死に馬に乗られているようです。

 正直、警護としては失格といっていいレベルに見えます。

 もしや昼食で悪いものに中ったのでしょうか?


「まさか、お酒を飲まれたなんてことはないでしょうしね……」


 昼食の際の盛り上がりを思い出すとそんなことまで考えてしまいますが、いくら何でもそこまで羽目を外すことはないでしょう。

 長距離の移動とはいえ、夜は近くの町で宿をとっているのですから。


 さすがにそんな状態の兵士の方を見てしまうと、いつものようにゆっくりと休もうという気にはなれません。

 夜が少しつらくなるかもしれませんが、改善されるまで様子を見ましょう。

 万が一ということも考えられなくはないですし。

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