さん ああ、殿下。かっこいいですわ……!
「ちょっと待ったぁ!!」
はい、ヒーローの登場です!
ちなみにアルフレート殿下です!!
殿下ったら、悪役とヒーローの一人二役を演じていらしたのですね。欲張りさんですこと。そんなところも好き。
アルフレート殿下は最近〝
以前『我が左手に宿りし闇の力が――ッ!』などとおっしゃっているところに遭遇しましたら、お顔を真っ赤になさって恥ずかしがっていらっしゃいましたわ。
このごろ流行りの小説では、悪役令嬢との婚約を破棄する王子とその相手となる令嬢こそが悪役。
ですから今日の殿下は悪役だと思っていたのですが……まさかヒーローも兼任していたなんて!
「茶番はここまでだ! 衛兵よ、イェルカの身を解放しろ」
「は!」
お疲れさまです、衛兵の皆さん。
そんな真っ青な顔しなくても、わたくし平気ですわよ。ぜんぜん平気です!
「アルフレート殿下、どうなさったのです? イェルカ様は、わたくしと殿下の子を殺そうとした罪人なのに……」
「イェルカの罪は冤罪だ。証人は揃っている!」
ああ、殿下。かっこいいですわ……!
いつの間に、そんなにお仲間をつけていらっしゃったのでしょう。
わたくし、感動いたしました!
「ヴラシア公子! クヌート侯爵令息! ヒーン伯爵令息! そして……ハーディ王子! 証言を!」
「はっ!」
アルフレート殿下に命じられ、四人の殿方がこちらにやってきます。
なにやら五人でこそこそと打ち合わせらしきものをした後、皆さんこちらを振り返りました。
まず口を開いたのはヴラシア公子です。
「先程、こぼした紅茶をスカートで拭けと言われた、などと言っていたが……あれは妄言だな。何故なら……」
ごくり。わたくしは固唾を呑んで見守ります。
「イェルカ嬢は紅茶を淹れるのが下手すぎて、そもそも布で拭けるような液状をしていないからだ!!」
「な、なんですってぇ!?」
ナディア嬢に珍しく共感いたしました。わたくしもびっくりしましたわ。
あ、ちなみに。本当は、わたくしも普通に紅茶を淹れられますよ。まあ、美味くもなければ不味くもないという評判ですがね。
……。
次に口を開いたのはクヌート侯爵令息です。
「肩を揉めと言われたのもあり得ない。何故なら……」
今度こそおかしなことは言わないでちょうだいね。
「イェルカ様は肩が凝りすぎていて、揉もうものなら指の骨が折れてしまうからだ!」
「ほ、骨が折れる……っ!?」
わたくしの肩、もしや
ちょっと殿下、貴方様まで真に受けないでくださいまし。
さあ、次に口を開いたのはヒーン伯爵令息です。
「足を舐めろだって? それも嘘だな。何故なら……」
もう悪い予感しかしないわ。
「イェルカ様の足なんて舐めたら、水虫がうつって唇が見るもおぞましい恐ろしい有様になるからだ!」
「み、水虫が唇に……!?」
わざわざ言うまでもないことですが、わたくし水虫ではありませんわ。
それにもしも水虫の人の足を舐めたとしても、そんなに言うほど恐ろしい有様にはならないでしょうに。
……。
というか誰よ!?
こんな馬鹿あふれる証言を考えたのは!!
思い当たる人がひとりしかいないわ!
アルフレート殿下…………の、弟のハーディ殿下に決まっています!
ハーディ殿下、笑いすぎですわよ!
「ナディア嬢は、い、イェルカの胸を揉まされ、寝込みを襲われたと言っていたが……あれは嘘だ! 何故なら……」
あら、アルフレート殿下の証言が始まっておりましたわ。よくよく聞いておきませんと。
殿下、頬が赤いですわね。どうなさいました?
「な、何故なら! イェルカはきみに頼まずとも、すでに十分発育している。それに、ま、毎日、僕が……僕が揉んでいるのだから、きみの出る幕はない! 寝込みを襲うなんて、毎日僕の隣で寝ているイェルカにはできないっ!」
さすがアルフレート殿下、貴方様だけは満点の証言ですわぁ!
ええ、殿下のおっしゃる通りです。わたくしのお胸は毎日愛しい殿下に揉まれ、わたくしは毎日殿下のお隣で眠りにつくのです。ナディア嬢が出る幕なんてありませんわ。
「分かっただろう、ナディア嬢。きみの証言は嘘っぱちだ」
ああ、キリリとした表情を浮かべられたアルフレート殿下。この上なくかっこいいです……♡ はぁ……。
「ええ、たしかに。虐めの件は少々虚言もありましたわ。でも、お腹の子を殺そうとした件については……!」
ナディア嬢がうろたえていらっしゃいます。とても面白いですわ。うふふ。
まあ、これからもっと追い詰めますけれどね?
「ああ、そうだったな。その件については目撃者がいる。ハーディ王子だ」
「はいはい、俺が見てましたよナディア嬢」
はい、こちら。アルフレート殿下のひとつ年下の弟君であられるハーディ殿下でございます。
アルフレート殿下と同じ金髪碧眼ではありますが、その髪はさらさらではなくふわふわ。
アルフレート殿下と違って軽薄な雰囲気を纏ったお方ですわ。
「あの日、俺はナディア嬢のことを見ていました。視界の狭いナディア嬢は上の階にいらっしゃったアルフレート兄上を見つけると、階段をドスドスと駆け上がり……」
うんうん、そうだったわね。
懐かしいわぁ。
……まあ、わたくしは、そのとき彼女の存在には気づいておりませんでしたが。
ハーディ殿下に後からお聞きしただけですわ。
「そして……恐れ多くもイェルカ姉上の豊かなおっぱいに正面衝突し、弾き飛ばされて階段からすっ転んだのです! そう、イェルカ姉上は階段の上でぽんやりと突っ立っていただけでした!
姉上はアルフレート兄上を見つめるのに忙しかったですからね。ナディア嬢のことなんて視界に入っていなかったわけです」
そう、そうなのよ。
何かがわたくしのお胸に勢いよくぶつかりまして、でもアルフレート殿下のおててはこちらに伸びていらっしゃらないからおかしいわね、と思っていましたら……なんとナディア嬢が踊り場に転がっていたのです!
もうびっくりですわ!
「で、でも……それはイェルカ様が悪いのです! イェルカ様がおっぱいおばけなのがいけないのですわ!」
まあ、ナディア嬢ったら。
嫉妬なさるお気持ちも分からなくはないですが、貴女も十分ご立派なものをお持ちですわよ。ご安心なさい。
お腹の子が生まれるにあたって、もっと大きくなられるでしょうし!
「いいや、イェルカは何も悪くない。ナディア嬢の不注意の方が問題だ。王族の子を身籠った身ならば、もっと立ち居振る舞いに気をつけるべきだったろう」
「……そうですわね、アルフレート殿下。たしかに、わたくしにも非があったかもしれません。わたくしは貴方様の子を宿しているのですから……」
ふふんと得意げな笑みで、ナディア嬢はこちらをご覧になっています。
はぁ……。貴女、いつになったら気づくのかしら。
きっと言われないと気づかないのでしょうね。
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