第35話

 フロイス自身も詳細を把握しているわけではないのでそれ以上の話は出てこなかった。敵国の攻撃以外に病魔が襲ってくるという想定がなかったため一同は面食らった。まだマキーノ国にもその伝染病の報せはしっかりと来ていないからか、全くと言っていいほどに情報がなかった。

「かなり事態は深刻なようね。フロイス、教えてくれてありがとう。私たちがこれからどうすべきか、どうあるべきかにとって重要なことだったわ。」

 アイリスは気丈に振る舞い、フロイスへ返した。

「さぁ、私たちもここでずっと長話をしているわけにもいかないわ。そろそろ晩餐会場の方へ一旦戻りましょうか。」

 そうアイリスが呟くと、フロイスも席を立つ準備をした。

「ダリルさん?」

 ダリルは虚空を眺めて静止している。

「ダリルさん?」

 ダリルはアイリスからの呼びかけで我に返った。無論、最初に呼ばれていたことには気づいていない。誰が見ても狼狽している様子だった。正直、アイリスもフロイスもダリルには同情するし、掛ける言葉も見つからなかった。


 晩餐会の会場に戻ってもダリルはどこか気の抜けた様子で漂っていた。

「おう、ダリル!」

 と上機嫌なアリドーシが声を掛けてきたが、ダリルの様子がおかしいのを察するや否や神妙な面持ちに切り替わった。

「どうしたってんだ?なんかあったのか?」

 心配した様子でダリルに話掛けるアリドーシ。ダリルもこの場で先ほどの話をするのは適切ではないと思い、

「すいません。少し驚くべき情報がありまして。今ここでお話しするのは相応しくないので、後でお話ししますね。」

 とひとまず話題を避けることにした。確かに、ここには多くの来客が来ている。それぞれに歓談を楽しんでいるところに暗い話をするのも野暮だ。アリドーシは「そうだな」と受け入れ、再び行商人の顔に戻ってセールスにと向かって行った。

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