第30話

 国軍が到着した。想像以上に大所帯であり、単純に戦力が7倍~10倍くらいになったものと思われた。既に戦局の配置等について議論もされており、ダリルたちを含め徴兵された者たちによって編成された部隊は再編制を経て、後方に下げられることとなった。

 また、停戦協定に向けた使節団も協議の会場である中立国に到着したとのことだった。ダリルに政治のことはよく分からなかったが、侵略する側、される側に停戦協定なんてものが成立するのだろうかと疑問を抱いていた。それでも、この戦争が終わるならどうだっていいと思った。

 

 戦力は拡充されたが、やはりネックになるのは飛行機の存在であった。まだ飛行機は最先端の技術であり軍事力としては浸透していなかった。国軍ですら手持ちの飛行機はなく、ましてやジューンベリーの領軍が持っているわけがなかった。その虚を突くように敵国は攻め込んできたわけだ。敵軍も飛行機は一機しか保有していない様子だったが、この一機に手を焼かされていたのだ。上空を飛ばれると、迎撃は難しく、防衛ラインを突破されてしまう。その結果、ジューンベリーの市街地がやられたように自由な攻撃を許してしまうのだ。不幸中の幸いと言えば、おそらく一機しかないためその稼働頻度や範囲、時間というものが制限されている点だった。

 ひとまず、国軍と領軍が共同で作戦を再考案し、ダリルたちは後方の支援地まで下がることとなった。国軍の到着からこんなにもすぐに後方に下がれるとは思っていなかったため皆安堵している様子だった。ダリルは自分のリュックを大切に持ち上げ腕を通すと、ソニアと共に後方へ向かう一段の列に加わった。

「このままジューンベリーまで帰れたらいいのにね。」

 ソニアがダリルに言った。

「確かにね。でも、きっともうすぐ終わるはずだよ。国軍の規模の大きさはきっと相手も驚いてるはずさ。だから、きっともう少しの辛抱だよ。」

 ダリルはソニアにそう返すと、ソニアは「もう少しの辛抱だ」と自分でも繰り返し、二人は歩みを進めたのだった。

林道はダリルたちがここへ来たときよりもだいぶ開けていた。おそらく国軍の兵士や軍需品を運ぶ過程で邪魔になる部分が切り開かれたのだろう。空は相変わらず薄暗かったが、それでもしっかりと見えた。どうして空が見えることが突然気になったのだろう。けれど、その着眼点は正解だった。

「こ、この音って…。」

 突然ソニアがダリルの方を焦ったように振り返った。

「音…?」

 ダリルは耳を澄ませた。

 エンジン音だ。まだ近くはないが遠くの空からエンジン音が聞こえる。

「飛行機の音だ。」

 ダリルがそう呟くと、それは一段を伝播していき、がやがやと飛行機の存在が知れ渡っていった。皆が一様に空を眺める。「どこだ?どこにいる?」皆が口々にそう呟きながら、空を注視している。

 その時、重く流れる雲を切るように一機の飛行機が現れたのだった。

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