第27話

 ソニアの話はダリルを辛い状況下でありながらも前向きにさせてくれるものであった。もちろん不安や恐怖は消えなかった。しかし、こうした状況を嘆いてばかりもいられないと自分を鼓舞するのであった。きっともうすぐ国軍も到着するはずだ、根拠のない望みだったがそれに縋るしかない状況でもあった。

 日々、負傷していく者が増えていく。想像もしたことのない大きな傷も目の当たりにした。帰還する者の数が少しずつ、少しずつ減っていっているような気もした。別部隊に配属された学校の同級生たちは無事だろうか。ダリルは別部隊と合同になる時にその姿を見つけてはほっと安堵するのだった。

「ダリル~、まだ無事みたいだな~。」

 基地内で会うたびに声を掛けてくれるのは学校時代の同級生のドラートだった。ドラートは明るく、ちょっとおちゃらけていていつも周りに人が集まるようなキャラクターだった。こんな状況下でもいつもダリルを見つけるとにこやかに冗談を交えて声を掛けてくれる。

「俺は、前線の方に出てるけどA1からA10まである部隊のうちの一番後ろのA10だからそんなに危ない感じじゃないな。まだ戦闘らしい戦闘にもお目にかかってないし。」

 どうやら前線部隊はその中でもさらに細分化されており、民間人から徴兵されている者たちはその中で後方に位置しているようだ。

「それならまだ安心だね。怖くない?」

 ダリルはそう言った後すぐに後悔した。怖くないはずがないのだ。ドラートだっていつも飄々としているがそれは表の顔であって、きっと内心では恐怖しているに違いない。ダリルは申し訳なさそうにドラートの方を恐る恐る見た。すると、ドラートはいつもと変わらず明るい感じで言った。

「怖いに決まってるだろ~。俺ばりばりの温室育ちだぜ?まだ小さい妹や弟がいるってのにこんなところで死んじまうわけにはいかねぇよ。だから、すんごく怖い。怖くて怖くて堪らない。」

 声それ自体は明るかった。しかしドラートの目線は遠くを見つめており、きっとそれは素直な気持ちなんだろうとダリルは思った。

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