第25話

 基地に到着してから数日が経ち、ようやく国軍も動き出したなどという噂が基地内にも立ち始めた。ダリルとソニアは日々苛烈を極める戦場にあって憔悴していた。お互いがお互いを鼓舞し、町に戻ろうと毎晩語り合った。

「僕の家は、ホントは花屋なんだ。だから、学校出た後はずっと花屋で働いてた。そんな僕がいきなり戦場だなんて、誰も考えなかっただろうし、僕だって考えたことなかったよ。」

 ソニアは自分の今の状況を嘲笑するかのようにあっけらかんとそう言った。

「ダリルくんは、ミンカル・ブレッドで働いてるって言ってたもんね。僕あそこのパン大好きだよ!特に好きなのは、チョコクロワッサンかな!いっつもいっぱい買っちゃってた。」

 チョコクロワッサンはミンカルの得意なパンで、ミンカル・ブレッドでも人気の商品だった。町のいろんな人がお客様として来店してくれていたが、その中にソニアもいたとは、さらに好きな商品まで挙げて褒めてくれているのをダリルは純粋に喜んだ。

「じゃあ、町に戻ったらソニアくんのお店にうちのエントランスに飾れるお花を買いに行くよ!一緒に選んでね!」

 ダリルもソニアのお店に行ってみたくなりそう言った。ソニアはそれがとても嬉しかったのか、今までで一番の笑顔で大きく「うん」と頷いた。

 国軍も動き出したという噂だ。そのうち正式に発表もあるだろう。そうすれば前線の攻防戦についても少しは楽になるだろう。そんな風に誰もが思っていた。


「宮殿が爆撃された…!」

 部隊長から各隊に周知された。ダリルはその知らせを受けて呆然と立ち尽くした。

 宮殿にはリリーやアーベントが、それに宮殿があるのは市街地でミンカル・ブレッドだってそう遠くないところにある。そんな市街地が爆撃されるなんて、それに前線は自分たちが凌いでいるのにどうやって。立ち尽くしながらも取り留めもない思考がぐるぐると頭の中を回った。

「先進技術である飛行機が使われたとのことだ。敵国は飛行機を一機のみ所持しているとのこと。それに爆弾を積み、我々を飛び越えて市街地まで向かったようだ。」

「こちらの国軍が動き出すという噂をどこからか聞きつけ、先手を打ったのだろう。まだ具体的な被害状況はあがってきていないが、市街地が爆撃されたのは事実だ。」

「確認できている飛行機は一機のみ、そちらは別の部隊が対応にあたる。我々はこの前線を国軍の到着まで凌ぎ切るのだ。」

 部隊長たちの周知の声がこだまする。町を守るためにここまで来たのに、それを飛び越えて攻撃するなんて…。ダリルはやるせなさと不安を同時に抱えていた。

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