第19話

「いつでも宮殿の方にいらしてね。私も町の方に遊びに行きますね。」

 アイリスは屈託のない笑顔でダリルたちを見送った。臣下の一人によって乗車を促され、ダリルたちは送迎用の車に乗り込んだ。アリドーシの車とは打って変わって、座席も広く柔らかい。昨日まで荷台にいたのが嘘のようだった。


「お嬢様、リリー様のご友人とお会いできて良かったですね。」

「そうね。そのことについてはまだあまり話を広げられていないけれど、あの様子じゃダリルさんもそのことについて話したがっているようだったわ。」

「しばらくはこの町に滞在しているとのことでしたし、またごゆっくりお話になる機会もあるでしょう。」

「久しぶりにお嬢様の楽しそうなご様子を拝見でき、私どもも嬉しゅうございました。」

「確かに最近は少し落ち込み気味だったわ。でも、ダリルさんたちが来てくれて改めて思うところもあるの。おそらくだけど、ダリルさんはリリーたちを追いかけている…。」

「それは…」

「えぇ、前途多難ね、どう考えても。しかも、ダリルさんはジューンベリー以外のことをほとんど知らないみたいなの。ジューンベリーがそれだけ、平和で豊かだった証よね。でも、それもこれも全部あの戦争で変わってしまった。」

「お嬢様…。」

「きっと彼のように若い人は訳も分からず徴兵されて、領土の境界あたりに送られたことでしょう。そこで彼がどのような任務を与えられたかは分からないけれど、ジューンベリーは甚大な被害を受けたと聞いているわ。だからこそ、リリーたちは亡命した。」

「再興する際にはジューンベリー家の者の生存が不可欠ですから…」

「そう、リリーは未来の重責を負いつつも愛する土地を離れるしかなかった。あくまでも領主の家の者という立場が前提にあって、彼女はジューンベリーを離れている。覚悟があるのよ。」

「そうですね…。」

「それに…。ま、でも、あまり暗いことばかり考えても仕方ないわ。前向きなダリルさんの姿を見て、私もいつまでも足踏みしてられないと思ったのよ。それに今日町に行って、領民の方々ともお話して、この方々のためにもしっかりしなくちゃ!ってね。」

 アイリスはそう言うと軽やかに振り返り宮殿内に戻っていった。

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