第18話
「さて、お二人のお話をお聞きする前に私から一つダリルさんにお訊きしたいことがあります。」
アイリスは慣れた様子ですっと話題を転換した。
「ダリルさんは、リリー・ジューンベリーのお知り合いかしら?」
その質問が飛び出た瞬間、ダリルは雷に打たれたように静止した。目を大きく見開いて、もしかしたら口も半分くらい開いていたかもしれない。自分が「もしかしたら」と思っていたことが的中し、さらにその話題について相手から触れてくれたのだ。自分の心臓の鼓動の音が大きくなっているのか、ダリルにはどくんどくんと聞こえていた。
「その御様子だとどうやらお知り合いのようね。ごめんなさい。アリドーシさんから、ダリルさんがジューンベリーから来たと伺ったときから、そうではないかと思っていたの。変に緊張させてしまったようで謝ります。」
「あ、いえ。そんな。自分ももしかしたらと思って、その話題についてお話したいと思っていたので。」
ダリルは先ほどとは打って変わって落ち着いた様子で真剣な眼差しを向けながらアイリスに返答した。
「それは良かった。でも、聞けば少しの間はこのヴィザリールにいらっしゃるとのこと。私たちばかりお話していてはアリドーシさんにせっかく来てもらったのに悪いわ。時間はまだまだありそうですし、その点についてもゆっくりお話ししましょう。」
アイリスは重要な前提のみを確認し、ここではアリドーシにも気遣いをした。アリドーシは何のことやら、というような顔をしていたが、どうやら仲間に混ぜてもらえそうということで椅子に座り直した。ダリルも確かにリリーのことは気になる話題であったが、手掛かりの在処を確信できたことと、今話してもきっと思考がしっかりと追いつかずちゃんとした話はできなさそうだと思い、少し時間を置く方がいいなと思った。
アリドーシの話はダリルにとっては興味を引くものばかりだった。彼は行商人としての歴が長く、多くの国、町を訪問した経験があった。国外はおろか領外にすらあまり出たことのなかったダリルにとってはどの話も目新しいものばかりで食い入るように耳を傾けた。アイリスも領外、国外への渡航経験はあるもののアリドーシほど各地に滞在し、その土地の風土に精通した経験はなかった。そのため二人はアリドーシの話を聞き、まだ知らぬ地への想いを馳せた。
「とまぁ、こんな感じで様々な国、領地を渡り歩いているわけです。まだまだ紹介できてない国や領地がたくさんありますよ。」
アリドーシは自分の話を真剣に聞いてくれる二人に対し、調子を良くしたのか饒舌だった。その頃にはダリルもすっかり雰囲気に打ち解けて、アリドーシの話に時折質問を挟んだりしながら、楽しい時を過ごしたのだった。
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