第17話

 さすが、森の国マキーノ最大の領地ヴィザリールの宮殿、豪華なものだ。豪華と言っても、宝飾品で煌びやかとは対極であり、豊かな森林を象徴するかのように木工建築を主体に造られており、調度品にも木製のものが多い。しかし、それらをよく見ると細部に至るまで細かなデザインや加工が施されており、この土地の職人たちの技術の高さを素人でも理解することができた。

 ダリルとアリドーシは案内人に導かれるまま広い廊下を進んだ。ちょうど左手にこの宮殿の庭園と思しきもの広がっている。あまり陽が入らないヴィザリールでは植物の成長は見込めそうにもなかったが、不思議としっかり成長している。また、ここでもダリルの目を奪ったランプたちが美しく煌めいていた。

「どうぞ、こちらへ。」

 案内役が落ち着いた様子で扉を開け入室を促す。ダリルはこの先に何か手掛かりになるものがあるかもしれないと、ごくりと唾を呑んで入室した。


「ようこそおいでくださいました。さぁ、こちらへ。」

 快活な若い女性の声がダリルたちに向けられた。微笑みながら着席を促してくれている女性がアイリス・ヴィザリールだろうとダリルは即座に思った。

「昨日はどうも。お招きいただきありがとうございます。」

 さすが行商人。しっかりと卒なく挨拶をこなし着席するアリドーシ。

「アリドーシさん、こんにちは。ご足労をおかけしました。」

 昨日少し話しただけで、しっかりとアリドーシの名前を記憶しているアイリス。この点からも彼女のコミュニケーション能力の高さが窺える。

「あなたがダリルさんね?どうぞお掛けになって。」

 アイリスはダリルの方へ顔を向け、にっこりと微笑みながらダリルにも着席を促した。

「は、初めまして。だ、ダリル・ジニアです!おま、お招きいただきありがとうございます。」

 何に緊張しているのか分からないがダリルは盛大に噛んだ。噛んだついでにフルネームを明かしながらの挨拶となった。

「随分と緊張されているご様子で。肩ひじ張らずにリラックスしてくださいね。ダリル・ジニアさん。」

 自分よりも若いかもしれない女性に気遣われダリルは少し頬を赤らめた。

「ダリルさん、ジニアさん、どちらでお呼びすれば良いかしら?」

 アイリスはなおも緊張をほぐすためかなんのためか、ダリルに話しかける。

「だ、「ダリルさん」で。あ、いえダリルで。」

 ダリルはなお頓珍漢な回答をしている。その様子を見て一同は微笑んでいる。

「あ、えっと、「ジニア」っていうのは自分を育ててくれた人のファミリーネームでして。」

 ダリルは求められていない自身のファミリーネームについての説明を挟んだ。段々と落ち着いてきたようだ。とはいえ、なお緊張し、少し落ち着かない様子であった。しかし、次の瞬間、ダリルの焦燥はぴたりと止むことになる。落ち着いたからか、それとも最大級の緊張が彼を襲ったからかは定かではない。

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