第3章-森の国マキーノ-
第14話
「おい、兄ちゃん。そろそろ国境を超えるぞ~。」
ダリルは行商人の呼びかけでハッと目を覚ました。何か夢を見ていたような気もするが、どんな夢を見ていたかさえ思い出せないくらい浅い眠りだったようだ。
ジューンベリーを出て西に向かう最中、ちょうど隣国へと移動をする行商人・アリドーシの車にダリルは載せてもらっていたのだった。文明の発展により、この世界にも車と呼べるものが存在している。とは言え、造りは非常に簡素であり、運転席は一人用だ。文字通りダリルは荷台に「載せて」もらっているのだった。アリドーシの運搬するたくさんの荷物の間でダリルは遠くなっていくジューンベリーを眺めながら決意を新たにしていた。
とはいえ、距離感がどれくらいかも定かでない状態だ。ダリルは最初こそ移り行く景色に目を奪われていたが、早朝から起きていた反動か、知らぬ間に眠りに落ちてしまっていた。実際にどれくらい眠っていたかは分からない。10分か、1時間か。けれど、外は既に暗くなっているようだった。
「すいません、ちょっと眠っちゃってて。」
「な~に、良いってことよ。それより、お目当ての隣の国だぞ。」
「ここは何という国なんですか?」
「兄ちゃん、ほんとなんも知らねぇんだな~。」
アリドーシは微笑みながらダリルの質問に答えた。
「ここは、マキーノ国。大きな森に囲まれた国さ。そして、今いるのがその中でも最大の領地、ヴィザリール領さ。ヴィザリール領主様のお膝元だな。」
「マキーノ国、ヴィザリール領…。」
ダリルはそう繰り返しながら外の様子を荷台の隙間から外の様子を確認しようとした。そこにはダリルが今まで目にしたことのない光景が広がっていた。
この国、そうマキーノ国は、背の高い巨木に覆われており、空がほとんど覆い隠されているのだ。ダリルが夜になっていると勘違いしたのもおそらく空を覆う巨木によって陽の光が遮られていたためだ。しかし、その暗さを生かすように背の低い木々の枝枝に色とりどりのランプが吊るされており、温かみのある照明がそれはそれは幻想的に美しく煌めいていた。
「す、すごい…」
ダリルは思わず、その光景に見とれ、言葉を失ってしまった。
「そうだろ、そうだろ。初めてこの光景を見たら誰だって言葉を失っちまうよな。この国は見ての通りだが、森林資源が豊富でな。材木をはじめ、木工や紙などが有名なところなんだ。腕の良い木工職人が多くいて、ヴィザリールの工芸品なんかはよそじゃ大変価値の高いものなんだ。」
アリドーシはダリルに対して国の沿革や風土、産業などを簡単に教えてくれた。彼はダリルと同様に西方へ向かいながら商いを行う予定であるらしく、少しの間はこのヴィザリールに留まる予定らしい。せっかくの縁だからとアリドーシから申し出があり、その間ダリルもヴィザリールで情報収集を行うことになった。
「友達を追いかけてるってなら、このヴィザリールで話を聞くのが一番早いんじゃないか?なんてったってヴィザリール領はマキーノ国最大の領地だからな。人も多いし、よそ者に対しても寛容だ。それにこれは憶測だが、ジューンベリー領主とも親交がありそうだしな。」
アリドーシはダリルの旅の目的を深くは追及してこなかったが、情報収集という点においてはこのヴィザリール領が最適だと伝えた。ダリルもその話に納得し、少しの間はこのヴィザリールで情報収集を行うことに決めた。
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