第13話

「おい。」

 幼い頃から幾度となく聞いてきた低い声が背後から突然聞こえた。ダリルは馴染みのあるその声に、びくんと大きく肩を震わせて反応した。

「黙っていっちまうたぁ、なかなか礼儀知らずじゃねぇか。」

 ミンカルは少し不機嫌そうな調子でそう言いながらのしのしとダリルの方に歩み寄ってきている。

「あ、あの、て、手紙を。」

ダリルは少しバツが悪く感じながら、焦って入り口近くの戸棚の方を指差そうとした。言うや否や、ミンカルはエプロンのポケットからダリルの置いた手紙を出して見せた。

「あ、あの。それ。」

 ダリルは、声にならない声で戸惑っていると、ミンカルはすぐ目前まで迫っていた。とっさに、挨拶もなく手紙一つで離れようとした無礼講を叱られると思い目をつむった。

 次の瞬間、大きな身体に優しく抱きしめられる感触がダリルを包んだ。幼少の頃から幾度となく包んでくれた優しい感触、匂い、温度だった。

 瞼の裏を駆ける追憶を追うようにダリルは目を開けた。ミンカルの大きな身体が自分を優しく守るように包んでくれている。優しいけれど力強く自分のことを刻むように抱きしめてくれている。

「ここもお前の家なんだ。いつだって戻ってこい。俺はいつでも、いつまでも待ってるぜ。いってこい。俺の息子。」

 顔は見えないが、ミンカルの声は少しいつもと調子が違って聞こえた。


 ダリルの目からは堰を切ったように大粒の涙があふれ出た。堪らずダリルはミンカルに顔を押し付けて、手が回らないほどの大きな身体を必死に抱き返したのだった。


 若者の旅が始まる朝が来た。

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