第12話

 二日後の早朝、ダリルは静かに厨房へと赴き、中の様子を伺った。昨日も何気なく過ごそうと努めたが、やはりぎこちなく、それはミンカルも同じような様子だった。ダリルはここしばらく自分の中で抱えた苦悩や葛藤、そうしたものをゆっくりと反芻しながらミンカルや周囲への想いというものも再考したのだった。


 そして今、ミンカルは熱心にパン生地を捏ねている。大きな身体が前後に揺れて、パン生地にしっかりと体重をかけている。「本当は、自分もここに残って、手伝うべきなんじゃないか。町の復興のためにできることがあるんじゃないか。孤児だった自分をここまで育て上げてくれたミンカルさんに、わがまますぎないか。」拭っても拭い切れない葛藤がダリルの中を再び巡った。リリーやアーベントに追いつけるかも未確定だ。そもそも西と言えども世界は広い。再会する方が圧倒的に難しいだろう。そんな大博打を止めずに肩を押してくれたミンカルにダリルは何も言えずにいた。

 ダリルは口に出して上手く気持ちを言える自信がなかった。そのため、ミンカルへの想いを手紙に認めたのだった。これまでの感謝、これからの決意、リリーやアーベントに会ったらジューンベリーでみんなが待っていることを伝えること、旅が長くなっても、定期的に手紙を書いて送ること、心配しないでほしいこと、ミンカルのことが大好きだということ、到底書ききれない想いをまとめたのだった。

 熱心に作業するミンカルの手を煩わせるのも悪いと思い、ダリルは厨房の入り口近くの戸棚の上にそっと手紙を置いて、自分の荷物を持ち、静かに玄関口へ向かった。何があってもリリーたちの手がかりはつかむぞ、という強い決意を胸に扉のノブに手をかけた。

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