第11話
「それじゃあ、部屋に戻るね。」
ダリルはそう言うと踵を返して自室に向かおうとした。その時だった。
「お前、いつここを発つんだ?」
ミンカルが低く落ち着いた声でダリルに向かって語り掛けた。
ダリルは思ってもみなかったミンカルの言葉にドキッとし、肩が震えた。
「そんなビビるほどのことでもないだろう。アーベントたちを追っかけたいって言ってたじゃないか。そろそろ行くのか?」
ダリルはミンカルの言葉を聞いて振り返った。
ミンカルは穏やかな表情で、優しい笑みを浮かべながらダリルに語り掛けていた。
「ミンカルさん…」
「ダリル、やっぱりタイミングってのは重要だと俺は思う。お前が真に行きたいと思うなら行くべきだ。俺や町のことを考えて踏み出せないでいるなら俺は背中を押してやる。行ってこい。気が済むまで行ってこい。もし、アーベントたちに会えたら、俺も元気でやってるって伝えてきてくれよな。」
ミンカルはダリルに優しい口調で諭すように伝えた。語調は優しいが目は真剣そのもので真っすぐにダリルを見ていた。ダリルはいつになく真剣なミンカルに圧倒され、ごくりと唾を飲んだ。
ミンカルはダリルの傍へ来て、ぽんっとダリルの頭に手をやって自室に戻っていった。ミンカルの大きな手の感触、重み、温かさがダリルの頭上にしばらく残っていた。小さい時からずっと自分の頭を撫でてくれた手だ。
ダリルは先ほどまでミンカルが座っていた椅子に腰を掛けて、厨房をぐるりと見渡した。
小麦粉の入った山積みの袋、計量用の器具、ボウル、オーブン、ミンカル用のと自分用の大きさが全く異なるミトン、前掛け。当たり前すぎて何も思っていなかった日常が、今はとても愛おしくて手放し難いものだということを強く感じた。
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