第7話

 ジューンベリーから出たことのないダリルは、異国というものに興味をそそられつつも、やはり心はリリーやアーベントに再会したいという強い思いに駆られていた。確かに、ミンカルの言う通り、生きているか死んでいるかも不明な状態だ。それでも、自分の目で確かめたい、そういう思いが芽生え、どんどん大きくなっていっていた。

 ミンカルは、自分の話を熱心に聞くダリルを見て、ダリルの旅立ちを確信した。自分の紡ぐ言葉一つひとつが、我が子のように育てたダリルを旅立ちに向かわせていると思うと、複雑な心境であった。しかし、友人にどうしても再会したいというダリルの気持ちも痛く分かった。自身の心を半ば押し殺し、ダリルの進もうとする道、意志を尊重しようと自分に言い聞かせるのだった。

 ひとまずその場での話は終わり、ダリルはアーベントの本を自室に置きに戻り、すぐ自分の作業用のエプロンを身に着けた。長い間このミンカルブレッドで手伝ってきている。幼い頃からずっとここで育ってきた。エプロンも身体が大きくなるにつれ、古くなるにつれ、新しいのに替えてきてこれで何代目かは分からない。ミンカルブレッドはミンカルとダリルの二人だけでやってきた。ここで自分がいなくなると、そんなことをダリルはふと考えた。

 再び厨房前の廊下に戻ってきたダリルは、厨房の中で熱心に生地を捏ねるミンカルの背中を見た。幼い頃からずっと見続けてきた大きな背中だ。今もわしっわしっと力を込めて前後に動いている。ダリルの歩みは一瞬止まったが、すぐ厨房に入り仕込みの手伝いを始めた。不思議と先ほどまでの葛藤は消え、パン作りに没入できたのだった。

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