第7話
ジューンベリーから出たことのないダリルは、異国というものに興味をそそられつつも、やはり心はリリーやアーベントに再会したいという強い思いに駆られていた。確かに、ミンカルの言う通り、生きているか死んでいるかも不明な状態だ。それでも、自分の目で確かめたい、そういう思いが芽生え、どんどん大きくなっていっていた。
ミンカルは、自分の話を熱心に聞くダリルを見て、ダリルの旅立ちを確信した。自分の紡ぐ言葉一つひとつが、我が子のように育てたダリルを旅立ちに向かわせていると思うと、複雑な心境であった。しかし、友人にどうしても再会したいというダリルの気持ちも痛く分かった。自身の心を半ば押し殺し、ダリルの進もうとする道、意志を尊重しようと自分に言い聞かせるのだった。
ひとまずその場での話は終わり、ダリルはアーベントの本を自室に置きに戻り、すぐ自分の作業用のエプロンを身に着けた。長い間このミンカルブレッドで手伝ってきている。幼い頃からずっとここで育ってきた。エプロンも身体が大きくなるにつれ、古くなるにつれ、新しいのに替えてきてこれで何代目かは分からない。ミンカルブレッドはミンカルとダリルの二人だけでやってきた。ここで自分がいなくなると、そんなことをダリルはふと考えた。
再び厨房前の廊下に戻ってきたダリルは、厨房の中で熱心に生地を捏ねるミンカルの背中を見た。幼い頃からずっと見続けてきた大きな背中だ。今もわしっわしっと力を込めて前後に動いている。ダリルの歩みは一瞬止まったが、すぐ厨房に入り仕込みの手伝いを始めた。不思議と先ほどまでの葛藤は消え、パン作りに没入できたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます