第6話

「アーベントはな、ジューンベリー出身じゃねぇんだ。ジューンベリーのやつはほとんどがジューンベリーで生まれ、ジューンベリーから外に出ることなく育ってる。でも、俺がガキの頃、アーベントは西の異国からやってきたんだ。」

「西の異国…?」

「お前もアーベントの眼を見たことがあるだろ?俺たちとは違う特徴的な色をしている。ガキの頃は奇妙だったもんさ。それに、あいつ暗いだろ?それでよくいじめられてたのさ。と言っても、本人はいじめられてるのもガン無視で、本を読んだり、絵を描いたり。

 悠々自適って感じだったな。周りはそれが気に入らなくて、どんどんちょっかいかけるわけだわ。」

 ミンカルは旧友との過去をダリルに語った。ダリルは全く知らなかった昔話に驚きつつも新鮮味を感じならミンカルの話を聞いた。

 確かにダリルの知るアーベントはどちらかと言えば暗い雰囲気で、考え方も最初は偏屈に感じる。元来人付き合いが苦手なのだろうと分かってしまえば問題はないが、多感な時期には多くの者から誤解を受け、虐めるような輩もいただろう。

「そこで、正義の味方、ミンカル様の登場さ!」

 だんだんとミンカルが昔話に調子付いてきたようだ。

「アーベントがどう思ってるかは知らねぇが俺がアーベントをいじめるやつを片っ端からこれよこれ!んで、まぁ時間はかかったが、アーベントとはちょくちょく話すようになったのさ。」

ミンカルは自身の太い腕を掲げながら自慢げに語った。ダリルも幼少期に叱られる折、ミンカルの岩のような手から繰り出される拳骨に恐怖したものだ。それを思うと、アーベントを虐めていた者たちへのミンカルの鉄拳制裁の度合いは想像に難くなかった。

「へぇ…」

「そんだけ人付き合いにおいちゃあ難攻不落のアーベントがお前やリリー様と仲良くしてるなんざ俺からしたら想像もつかねぇことだぜ!ってまぁ、それは置いといてっと。アーベントが言っていたのは、西にはジューンベリーよりももっと芸術が盛んな国があるんだと。音楽家やら彫刻家やら絵描きがたくさんいて、それを好む貴族たちもたくさんいんだとよ。だから、よくわかんねぇけど、ジューンベリー家の宮廷画家になったアーベントみたいなやつらがきっとたくさんいんだろうな。」

 ミンカルも西の異国についてはアーベントからの伝聞による知識しか持ち合わせていなかった。ミンカルは自分の記憶にある、幼き日のアーベントの話を思い出しながらダリルへ語った。西の異国は、方角こそジューンベリーから西であるが、大陸を横断する必要があること、そして海に面していること、そこへ至る道中には過酷な環境の場所も点在し、いろいろな町も存在していること等であった。

 結局のところ、方角が西と分かっただけで、どれくらい離れているのか、何という名前の国なのか、そういったことも全く分からなかった。ダリルは海すら見たことがなかった。しかし、きっとジューンベリー家の亡命先はその西の異国なのだろうとダリルは根拠もなく思うのだった。

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