第4話

「今日、これをアーベントのアトリエで見つけてきた。」

 ダリルは肩にかけていたカバンの中から1冊の本を取り出し、ミンカルに差し出した。ミンカルはその本に見覚えがあった。

「これは…あいつが学生のときから何度も繰り返し読んでた本じゃねぇか。ん?なんか表紙に…」

「『西へ』」

 ダリルはミンカルが本の表紙に注目するやいなやそう呟いた。

「…」

『西』という言葉を耳にしてミンカルは黙り込んだ。

「アーベントたちは西へ向かったんだ。」

 すかさずダリルは続けた。まるで何か根拠のない可能性を感じているような言いぶりであった。

「西か…」

 ミンカルはついぽつりと漏らしてしまった。そしてすぐに自分の発言をかき消すようにダリルに本を手渡した。しかし、ダリルはミンカルの反応を見逃さなかった。

「ミンカルさん、何か知ってるの?西には何があるの?」

「…」

 次はミンカルがだんまりの番であった。

「ミンカルさん!」

 ダリルは藁にも縋る思いでミンカルに駆け寄った。ミンカルの反応はきっと西の国のことを知っているに違いない、そうダリルは確信したのだった。

 しばらく二人の間に沈黙が続いた。しかし、ダリルがあまりにも真っすぐにミンカルに視線を向け続けるので、ミンカルはついに折れ、おもむろに口を開いた。

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