第3話

 しばらく二人の間に静寂が続いた。お互いに思っていることは正しく、またお互いにそれを理解していた。それだからこそ、次の言葉が出てこないでいたのであった。

 そして、同時に静寂は破られた。

「ダリr」

「お、俺!リリーに伝えなきゃいけないことがあるんだ。アーベントにも。」

二人の声が重なる。

「何を、そんなに焦る必要があるんだ。」

 ミンカルはダリルを諭すように続けた。ミンカルはこのとき、ダリルの焦りが理解できないでもなかった。きっと自分ももっと幼く若ければ、今のダリルのように友の安否を案じて、気が気でなかっただろう。

「…」

 ミンカルの問いかけに対して、ダリルは再び黙りこくってしまった。

「あいつらが元気に戻ってきたときにいくらでも話せるじゃないか。

 リリー様なんてお前よりも年下で若く、アーベントだって中年ちゃ中年だが

 俺と同い年だぞ?まだまだ若いぞ!」

 ミンカルはあえて笑いを取り入れながらダリルに語り掛けた。

 実際のところ、戦争は終わったがジューンベリーの町は甚大な被害を受けていた。未だ町には戦禍が残っており、焼け焦げた木材の匂いは依然として続き、散乱している瓦礫は未だに山ほどある。復興に向けて人手は多いに越したことはなかった。

「…」

 ダリルはなおも黙ったままだった。下を向いたまま唇をぎゅっと結んでいる。

 養親として幼い頃からダリルの面倒を見てきたミンカルはダリルの仕草について理解があった。こういうときのダリルは得てしてミンカルの言うことを最もだと思い、納得しようと努めているのだった。とはいえ、状況が状況なだけに、ミンカルも自分が厳しいことを言っていることは理解できていた。

「ダリル…」

 ミンカルは今日一番の落ち着いた穏やかな声でダリルに呼びかけながら、ダリルの方へ歩みを始めた。その矢先だった。

 ダリルの目から一筋の涙が頬を伝って流れた。一粒流れると、堰を切ったように大粒の涙がボロボロと零れ出したのだった。

「おいおい、らしくねぇな!どうしたってんだよ。」

 ダリルは非常に素直な性格で、喜怒哀楽は表情にはっきり現れるタイプだった。しかし、涙を流すことというのは滅多になかった。派手に転んで擦り傷を作ったときも、友達と喧嘩をして落ち込んでいるときも、そして、幼少期より育ったジューンベリーが焼け野原となったときも、ダリルは涙は流してこなかった。

 そんなダリルが、今目の前で大粒の涙を零している。

 ミンカルは想像もしていなかった状況に動揺し、ダリルに声を掛けるもどうすべきか分からずにただわたわたと落ち着かない様子であった。

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