第2話
「ダリル!帰ったか!遅かったな。」
ミンカルは厨房からダリルの気配に気づくと大きな声で声を掛けた。
「遅くなってすみません。ちょっと出かけてまして。」
ダリルは平静を装うように、いつもの調子を意識して返事をした。
「…」
ミンカルはじっとダリルの方を静かに見ている。
「す、すぐに手伝います!」
ダリルはこれ以上の沈黙はまずいと思い、すぐに厨房を手伝おうと支度を始めた。
「お前、また行ってたのか?」
ミンカルは低く落ち着いた声で、ゆっくりと諭すようにダリルに語り掛けた。
「…」
当然見抜かれていたと思っていながらも、ダリルはすぐに返す言葉が思い浮かばず黙り込んでしまった。こうなると、もはや声に出さずとも肯定していることは明らかだった。
「ダリル、お前の気持ちは痛いほど分かる。
俺も、アーベントたちが居なくなったこの状況はつらい。」
ミンカルはダリルに同情を示しながら、なお優しい口調でダリルに語り掛けた。
アーベントというのは先ほどダリルが訪れたアトリエの主であり、ジューンベリー家に雇われた宮廷画家だ。ダリルはアーベントとジューンベリー領主の娘であるリリーと3人で過ごすことが戦前多かったのだ。
そんなアーベントとミンカルは旧知の仲であり、それでミンカルはダリルにこのような話をしているのであった。
「…」
ダリルはなおも無言のままだ。
「生きてるか、死んでいるかも分からないんだ。」
「…」
下を向いてだんまりを貫くダリルに対して、ミンカルは優しく続けた。
「戦争で多くの人がジューンベリーを去った。
特にジューンベリー家の者も戦争に参加しない者たちは皆それぞれに逃げたはずだ。リリー様も、アーベントも、ランシーヌさんたちもきっとどこかで無事にやってるはずだ。それを信じるしかない。」
「…」
「俺たちは、もしあいつらがジューンベリーに帰ってきたときに元気に迎えてやるのが一番さ。そのために今はジューンベリーをしっかり立て直さないとな!」
持ち前の豪放磊落さを織り交ぜて、ミンカルはダリルを元気づけようとした。
そして、ミンカルは振り返り仕込みを続けようとした。その矢先。
「でも、俺、会いたいんだ…。」
ダリルが消えりそうな声でぽつりと呟いた。
元来ダリルは聞き分けも良く、ことミンカルの言うことで納得のいくこと関しては口答えなどしたことはなかった。それが、今回ばかりは違うようで、ミンカルに対して、自分の気持ちを表したのだった。
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