峠道

口羽龍

峠道

 佳次郎は週末、国道の山道を走っていた。佳次郎は都内に住む会社員だ。佳次郎はドライブが趣味で、休日になるとよくドライブをしている。


 今日は旧国道の峠道に行ってみる事にした。その旧国道はすっかり忘れ去られており、無人の山林の中をつづら折りの道を走る景観が素晴らしいという。


 佳次郎は国道を走っていた。ここも十分に山道だが、ここはそんなに険しくない。しっかりと整備されていて、車がよく通っている。


 しばらく走っていると、トンネルが見えてきた。これが峠を一気に縦断するトンネルだ。だけど今日はここを通らない。この手前から分かれる旧国道を走る。ここからが険しい山道だという。


「おっ、トンネルだ」


 トンネルが近くなると、左に分かれる小道が見えてくる。それが旧国道だ。もう何年も整備されていないのか、アスファルトの状態は良くない。


「ここを左に曲がるんだな」


 佳次郎は左に曲がった。ここからが旧国道の峠道だ。とてもわくわくする。通ってみたくなる風景だ。


「さて、ここから峠道だな」


 峠道は無人の山林が広がる。昔から誰も住んでいなかったようだ。走っていると、小鳥のせせらぎが聞こえてきそうだ。


 旧国道は急な坂道を登っていく。やがて、トンネルが小さく見下ろせる場所まで登ってくる。佳次郎は車を停め、そのトンネルをじっと見た。こんなにも高く登ったのか。だけど、峠はもっと先だ。


 しばらく進んでいくと、廃屋が所々にある場所に差し掛かった。ここは集落だったんだろうか? いつまで人が暮らしていたんだろうか? 全く想像できない。


「静かだな。ここに誰かが住んでたのかな?」


 佳次郎はそんなものに目もくれず、先に進んだ。峠道を進むのが優先だ。廃屋を見に来たんじゃない。


 佳次郎はその後も進んでいった。すると、看板が見えてきた。峠まであと1kmの標識だ。あと少しで峠にたどり着く。やっと中間地点のようだ。あと少しだ。頑張ろう。


 と、佳次郎は後ろから車がやって来たのに気づく。その車はだいぶ古いもののようで、モーター音が比較的大きい。旧車好きだろうか? ここをドライブしようとする人がいるんだろうか?


「あの車、何だろう」


 佳次郎はその後もつづら折りの道を走っていた。だが、その車も佳次郎の車に続いていく。その車も峠道を越えようとしているんだろうか?


「うーん・・・」


 そう思っていると、佳次郎はある事に気が付いた。あるつづら折りを曲がった時、その車が突然消えた。あれ? どうしたんだろう。


「あれ? 消えた」


 佳次路は停まり、首をかしげた。この辺りに分かれ道はない。それに、突然消えるなんて、何か不自然だ。一体何だろう。


「まぁ、いいか。気にしない」


 だが、佳次郎は気にせずそのまま進んだ。何も気にせず、このまま進もう。気にしていたら、なかなか進まない。


 しばらく走っていると、看板が見えてきた。峠の頂上を示す看板だ。佳次郎はほっとした。やっと山道の折り返し地点だ。ここから下り坂だ。


「ここから下り坂か」


 佳次郎は峠を下り始めた。今度は下り坂のつづら折りだ。慎重に進まないと。谷底に転落したら大変だ。


 辺りは無人の山林が続く。ここも昔から何もなかったように見える。辺りに道らしきものはこれ以外見当たらない。とても山奥のようだ。


 しばらく進むと、トンネルが見えてきた。旧国道との分かれ道の辺りにあったトンネルの出口だ。今ではあの峠道はこのトンネルであっという間に行ける。だけど、トンネルができる前はこんなに険しい山道だったんだ。その時は、大変だっただろうな。


「やっと峠道を抜けた。今日はこの先で休もう」


 佳次郎は再び国道を走り始めた。国道は相変わらずそこそこの車が通っている。しばらく進んだら、宿場町に着く。あと一息だ。今日はここで休もう。


 しばらく進むと、宿場町のようなたたずまいの場所にやって来た。今日はここで休む予定だ。もう夜だ。早く宿に行こう。


 佳次郎は予約した宿にやって来た。その宿は江戸時代からある旅館で、そこそこ人気がある。


 佳次郎は宿に入った。宿の入口には1人の女将がいる。その女将はロン毛で、優しそうな表情だ。


「あのー、今夜に予約していました山田佳次郎ですけど」


 それを聞いて、女将は反応した。今日は宿泊者が来るのを知っているようだ。


「お待ちしておりました」


 女将は笑みを浮かべた。前々から予約していた人だ。やっと来てくれたようだ。


 佳次郎はお金を支払い、部屋に向かった。歩くたびに、木の床のきしむ音がする。江戸時代の内装のままのようだ。


 しばらく進むと、部屋にやって来た。街道の先の峠が見える部屋だ。とても眺めがいい。


「こちらでございます。ごゆっくりおくつろぎください」

「ありがとうございます」


 佳次郎はお辞儀をした。女将は去っていった。これからどこかで食べてから、ここで寝よう。


「明日もこの峠道で帰ろう」


 佳次郎は思った。明日もあの峠道で帰ろう。トンネルで一気に抜けるのはつまらない。




 翌日、佳次郎は宿をチェックアウトして、家に帰る事にした。昨日の夜の思惑通り、あの峠道を通って帰る予定だ。


「さて、帰ろう」


 佳次郎は宿を出て、車に乗り込んだ。宿から出てきた女将がその様子を見ている。


「昨夜はありがとうございました」

「どういたしまして。またご利用ください」


 女将はお辞儀をして、佳次郎を見送った。佳次郎は車を走らせ、宿を離れた。これから峠道を再び進んでいく。楽しみだな。


 しばらく走って、佳次郎は峠道に差し掛かった。昨日は下り坂だったここが今度は登り坂だ。峠まではまだまだ遠い。頑張って進もう。


 と、佳次郎はカーブミラーにある物が写っているのを見つける。あの車だ。どうしてあの車が走っているんだろう。


「あれ? あの車・・・」


 と、その時、がくんと音がした。何だろう。佳次郎は首をかしげた。


 佳次郎はブレーキをかけようとした。だが、ブレーキがかからない。ひょっとして、あの音は、ブレーキが壊れる音だろうか?


「うわっ・・・」


 目の前にはカーブがある。ブレーキが効かないのにカーブを曲がれるだろうか?


 佳次郎はカーブを曲がろうとした。だが、曲がり切れず、谷底に転落してしまった。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 佳次郎は崖を猛スピードで落ちていく。このまま僕は死んでしまうんだろうか?




 と、佳次郎は旅館で目を覚ました。夢だったようだ。佳次郎はほっとした。あの夢のようにならないように、気を付けて進まないと。


「ゆ、夢だったか・・・」


 佳次郎は朝食を食べ終えて、荷物をまとめていた。佳次郎は昨日の夢の事を思い出している。あの時のようにならなければいいが。気を付けて帰ろう。


「気を付けて帰らないとな」


 佳次郎は宿を出て、車に向かった。女将がその様子を見ている。


「昨夜はありがとうございました」

「どうも。またご利用ください」


 女将はお辞儀をした。あの時の夢のようだ。佳次郎は少しビクッとなった。


「はぁ・・・。あの夢のようにならないように気を付けて帰らないと」


 佳次郎は車を走らせた。ここからまた峠道を通って帰る。夢みたいなことにならないように、慎重に帰らないと。


 しばらく走ると、街道を抜けた。その先には峠道がある。だんだん山間が深くなっていく。


 トンネルの前にやって来た。ここからまた峠道だ。相変わらず全く車が走っていない。


「さて、ここから峠道だな」


 佳次郎は峠道を進み始めた。程なくして、つづら折りに入る。ここから何度、このカーブを進むんだろう。だけど、進んでいかなければ。明日の仕事がある。


「あれ? あの車・・・」


 しばらく進むと、佳次郎はカーブミラーにあの車が写っているのに気づいた。夢に出てきた車がここでもやって来るとは。だが、全く気にせず進んでいこう。あれは夢なんだ。夢では事故を起こしたけど、現実では事故を起こすもんか。


 佳次郎はカーブに差し掛かった。だが、カーブを曲がり切れない。どうしてかわからない。何か力が働いて、曲がるのを阻止しているようだ。一体何だろう。わからない。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 佳次郎は谷底に落ちてしまった。佳次郎はそのまま気を失った。夢で起きた出来事が、まさか本当に起きるとは。あの夢は、自分に起きる事故の予兆だったんだろうか?


 一方、その上にはあの車が停まっている。そして、崖からその様子を顔の白い男が見ている。あの車のドライバーのようだ。その男は、まるで死人のような表情だ。男は、不気味な笑みを浮かべた。


 これは噂だが、この峠道では5年前に車が崖から転落する事故があり、運転手が亡くなったという。それ以後、この峠道を通った車は呪われ、運転手は崖から落ちて転落死すると言われているらしい。

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峠道 口羽龍 @ryo_kuchiba

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