身バレ

黒騎士。

最近〈連合〉でも最大の標的とされている存在。

出現したのは、今年の5月の終わりか6月の初めだったはず。

【魔獣】と共に出現していることから、〈組織〉の一員であることは間違いない——と言われているが、〈竜の眼〉によって俺はそれが誤りだとわかってしまった。


ブルーティーは途切れかけた集中力をなんとか繋ぎ止め、目の前の存在に対し臨戦態勢を整えたようだ。


そんな彼女に、俺は待ったをかけるように、槍の先だけを向けると、明らかに困惑した表情をする。


「えっ———」

「…ここは俺に任せろ。ちょっと挨拶してくる」


槍を構え直し、改めて黒騎士に切っ先を向ける。


「〈竜穿衝〉」


音速の域に達するほどのチャージ攻撃をするも、黒騎士は分かっていたかのように左腕に出現させた盾で防ぐ。


ふむ、流石、とでも言っておこうか。


が、発生した衝撃はそのまま広がっていき、黒騎士を3メートルほど後方へと押しやる。


「…いきなり仕掛けてくるとは、ずいぶんせっかちなヒーローだな」


黒騎士から、外見からでは想像出来ないような、穏やかな声が聞こえた。


「生憎、俺はヒーローじゃない。ただの退治屋だからな」


力が拮抗し、お互いに動きが止まったところで、俺は〈竜の眼〉の結果を黒騎士だけに聞こえる声で伝える。


陸奥守むつのかみ勇人はやと。18歳。泉ヶ丘大学在学中。祖父から相続したアパート、コーポ宮の管理人。悪の組織で創られた微生物により、一度死亡し、黒騎士として蘇生。微生物の意識を逆に飲み込み、自我を保って現在に至る、か…。お前、絶対主人公格だろ」


「…お前、俺のことを知っているのか?」


黒騎士からは、驚きと警戒の入り混じった声が発せられる。


「いや、知らない。ただ見えた、とだけ言っておこう。ここにお前がいる理由も分かった。生き続けるためには人々の恐怖心が必要で、それを集めるためだけに来たんだろ?どれだけ集まったか知らんが、今日のところはさっさと帰るといい。ここには、俺以外に正当な日本のヒロインがいるわけだし」


俺はちらっとブルーティーを見る。


「…そうさせてもらおう。お前のような奴は、初めてだよ。名前を聞いてもいいか?」


「ああ、俺が一方的にお前を知っていても不公平だしな。今の俺は竜騎士。普段は辰波昇だ。それと、お互いの正体はここだけの話にしておこうぜ」


「…分かった。昇、いつかまた会おう」


そう言うと、黒騎士——陸奥守勇人は土煙に紛れて姿を消していった。


———————————————————————


「おい、大丈夫だったか?」


黒騎士が去った後、俺はブルーティーのもとへ。


「へ、平気です!それよりあの黒騎士、なんでこんなところに…。貴方も、よく無事でいられましたね」


ブルーティーは衣装についた多少の汚れをパン、パンと叩いて落とす。


「ああ、あいつは世間で言われているほどの悪人ではないさ。あいつ自身は、元々俺達と争う気も無いようだし」

「ずいぶん黒騎士に詳しいのですね…。まさか、貴方も〈組織〉の一員じゃ…」


彼女はさっと身を引き、俺との距離を取る。

んー、なんか勘違いされてんなー。ま、ここは手っ取り早く奥の手竜の眼を使うか。


「勘違いするなよ。俺には〈竜の眼〉というスキルがあってな。それを使うと、対象の素性や経歴等、諸々わかるわけだ。理解できたか?『河合蓮ちゃん』?」

「!!なぜ私の正体を…?」


驚愕したブルーティーは一応周囲に自分たちしかいないことを確認してから変身を解き、見慣れた蓮ちゃんの姿に戻る。


「今説明した通りだ。まあ、蓮ちゃんだけ正体を晒すのも不平等だな…」


そう言って、俺も竜騎士化を解く。


「辰波さん?!どうして…」


蓮ちゃんはあまりの出来事に固まってしまう。


「…まあ、俺にもいろいろあるわけだよ。黙っていて悪かった」

「でも、いつものおちゃらけたような雰囲気と違ってかなりシリアスな感じですし…」


…うん、完全に〈龍気〉のせいだね。


「おちゃらけたって…。ま、間違っていないけど。とりあえず、退治屋としての力は出来るだけ隠しときたいってのはマジ。そのためのキャラ作り、とでも思ってくれていいよ」


「じゃあ、本来の雰囲気は、今のもの、と考えてよろしいのですか?」


「ああ、構わない。でも、くれぐれも皆の前ではいつも通りにしてくれよ。俺も、蓮ちゃんがヒロインであるのを隠しておくから」


「わかりました。では、今後も何かありましたら、相談させていただきますので、宜しくお願いします」


蓮ちゃんの表情は、いつもの冷たいものではなく、新たな仲間を得たような、喜びを感じられるものだった。


その後、俺は高台までルナさんを迎えに行く。

ライブは結局中止になったが、ルナさんはファンも観客も無事だったことに安堵し、それだけで充分だよ、と言ってくれた。

うーん、流石はスーパーアイドル!


———————————————————————


その夜。

ルナさんのライブお疲れ&新住人歓迎パーティーをカーメラッドで行うことになった。


リビングに全員集合し、テーブルには色鮮やかな料理が数多く並んでいる。全て紫苑さん作だ。


また、住人それぞれの席の前には、並々と注がれたドリンク類が置かれている。


「今日は色々あったけど、ひとまず。ルナ、お疲れ様!」

「「「「お疲れー!」」」」


紫苑さんの一言から始まり、乾杯を交わしながら住人全員がルナさんに労いの言葉を掛けていく。


「それから、新しい住人の昇くん。ようこそ、カーメラッドへ!」

「ありがとうございます、紫苑さん」


なんかこうやって歓迎されると、少し恥ずかしいな。


「ところで昇。今日は一日、どこでナニをしていたのかな〜?」


ニヤリと目を光らせながら、美咲さんが尋ねてくる。


「言い方!それだと、何か俺がいかがわしいことをしていたようじゃないですか!言っておきますが、俺は今日、夏樹原ナツバでブラブラしていただけですからねっ!」


「へ〜。よりによって、ルナのライブ会場近くの〜?あ、もしかして、皆ライブに行っちゃったから、一人で寂しくなっちゃって、つい来ちゃったのかなぁ〜?」


「うぐっ…」


完全に否定できないところをついてくるなぁ、美咲さんは…。


「…ふふっ」


そんな俺を、ルナさんは柔らかい表情で見つめていたようだった。

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退魔の竜騎士と絆の巫女 たくさん。 @takusan0

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