居候4日目

空が少しずつ明るくなってきているカーメラッドへの帰り道。


「…ねえ」

「はい?どうかしましたか、美咲さん」

「今日の体験で、考えを改めたわ」

「考え?」


一体、何の考えだろう?


「私、あなたなら同居を認めてあげてもいいわ」

「えっ?突然どうしたんですか?」


驚いた俺の顔を見て、美咲さんがどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。


「だって、幽霊のお願いを聞いてあげて、成仏させちゃったじゃない?そんな面白そうな人、なかなかいないわ!…ということで、これから宜しくね、昇♪」

「ははは…お手柔らかにお願いします、美咲さん」


この先、どんなことを要求されるやら…。この人のことだと、どうしても不安が拭いきれないんだよな…。

でも、俺の名前を呼んでくれたのは、正直嬉しい、かも。


———————————————————————


居候4日目。

台風接近の影響で、強風が窓を鳴らし始めている朝のこと。


「…眠い」


昨日…いや、日付的には今朝か。

帰ってきてベッドに入ったのが4時半くらいだったのだが、なんだか深く眠れず、すぐに起きることになってしまった。

鏡を見ると、酷い隈ができている。


「うわ…こりゃヒデェな…」


自分にツッコミを入れつつ時間を確認すると、そろそろ紫苑さんが朝食を用意していそうな時刻だったので、簡単に着替えを済ませ、リビングへ向かう。


「おはよーございますー…」

「おはよう、昇くん…って、凄い隈ね?!あんまり寝てないの?」


紫苑さんが心配そうに聞いてくる。


「はは…。まあ。昨日、幽霊と色々ありまして…」


幽霊、と聞いて、紫苑さんは一瞬ビクッ、となる。


「な、何かされたの?襲われた、とか…」

「あ、いえ…。そういうわけでは…」

「おはようございます…って、辰波くん。いつもより酷い顔よ?」


話の途中で翡翠さんが登場。やはり、俺の顔にできた隈が目についたのだろう。

てか、捉え方によっては、俺の顔がいつも酷いもの、と言われているようにも聞こえるな。


その後に蓮ちゃん、ルナさんも集まってくる。皆一様に俺の顔を見るなり、突っ込みを入れてくるのだが、ルナさんに至っては、


「そんな顔で私に話しかけないで」


なんて言われた。


うう…、俺に対する扱いが厳しすぎる…。


食卓を5人で囲い、紫苑さん作の朝食を食べていると、ようやく最後の住人、美咲さんが起きてきた。


「おはよー、みんな♪」


…あれ、美咲さん、いつもよりテンション高くないか?


すると、俺を見つけた瞬間、突然背中に抱きついてきたではないか!!


「おはよ、昇♪」


み、美咲さん、柔らかいものが背中に当たってます!


そんな美咲さんの態度に、全員が驚く。


「み、美咲さん?!」

「一体どうしたのですか?」


そして、俺も、


「み、美咲さん!朝から心臓に悪いですよ!離れてください!!」


と抗議したものの、聞き入れてもらえず。


「あら?釣れないわね、昇。一緒に朝帰りした仲でしょう?」


その言葉に、全員固まった。


「あ、朝帰り?!」

「二人でどこに行っていたんですか?!」


そんな中、ルナさんは突然バン、と大きな音を立てて立ち上がると、


「…ご馳走様」


と言って部屋に戻っていった。


「美咲さん、どうしてそんな誤解を招くような言い回しをするんですか…。ルナさん、完全に追い出しモードですよ」


と俺が言うと、


「ふふっ。だって、面白いじゃない?」


と返してきた。

そういや、美咲さんはこういう人だったな。


ふと、紫苑さん、翡翠さん、蓮ちゃんの3人の目が据わっていることに気付く。


「うふふ…」

「どういうことか…」

「説明をしてもらえますね…?」


3人が詰め寄ってきた。特に紫苑さん、笑顔なのがより怖いです…。


———————————————————————


俺が昨夜起こった詳細を説明し終えると、ようやく3人は納得してくれた。もちろん、〈竜の眼〉のことは伏せていたけど。


「まったく…とんでもないお人好しね、辰波くんは」


呆れたようにため息をつく翡翠さん。


「ふふっ、でも面白い話が聞けたわ。今度、みんなでそのお墓参りに行きましょう?」


とニコニコ笑顔の紫苑さん。


「でも、よく幽霊と話をしようと思いましたね。私なら、会った瞬間すぐに逃げているところです」


蓮ちゃんも何だか楽しそうだ。


「俺も、最初は逃げようと思いました。でも、何もしてこないってことは、何かを抱えているんじゃないかって思ったんで、思い切って尋ねたんですよ。そしたら案の定、そういうことだったので。特に、幽霊になっても婚約者に会いたい、なんてお願いされたら、やっぱり力になってあげたいじゃないですか。別に命をとられるわけでもないですし」


そう熱く語ると、4人も、


「まぁ、確かに…」


と同意してくれた。


「そういうわけで、俺は何もやましい行動はしてないんですが、ルナさんにはどう説明したらいいか分からないんですよね…。あの様子だと多分、俺の話を聞いてくれないでしょうし、信じてももらえなさそうですし」


俺は困ったように、ふう、と大きなため息をついた。4人も、どうしようかと顔を見合わせる。


「正直、ルナとはあまり話をする機会がないの。ほら、あの子、アイドルだからなかなか捕まらないでしょう?それに、今週末には大きなライブが予定されているから、いつも以上にピリピリしているようなの。私たちもできる限り誤解を解いてみるけど…あまり期待はしないでね?」


申し訳なさそうにする紫苑さん。

ほんと、頼りっぱなしですみません。


「いえ、そんな。俺の方でも、何か考えてみます」


食事を終え、俺は部屋に戻った。


うーん、考えることが増えたな。

とりま、睡眠不足だし、今日の講義は自主休講かな。

刈谷と遠坂には一応連絡入れとくか。

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