シェアハウス・カーメラッド
なんだろう、この状況は。
目覚めると、何故か両手足が縛られ、口元にはおしぼりのような布を噛まされていた。
そして目の前には、5人の美女・美少女が!
えっ…、これは夢か?
「…一体なんのつもりですか?」
そう切り出したのは、昨日も会った河合翡翠さん。
「服装から、泥棒…ってわけでもないわよね?」
そう言うのは、赤みがかった茶色のポニーテールの美少女。
ん?
どっかで見たことがある顔だな。
…!思い出した!今ブレイク中のアイドル、
「じゃあ、変態さん…かしら?」
うふふ、と笑みを浮かべながらキツい一言を放ったのは、Sっぽい雰囲気で茶髪に近い黒髪の美女。
「あまり歓迎するべき存在ではないのは確かですね」
冷たい視線を送ってくるのは、翡翠さんに似た顔つきの、高校生くらいの美少女。
「まあまあ。とにかく、話を聞いてみましょう?」
ニコニコしながら皆を宥めたのは、緩いウェーブがかかったロングヘアの巨乳美女。
視線がつい胸元へ向かってしまいそうなのをどうにか抑えていると、翡翠さんが相変わらずの冷たい視線で尋ねてきた。
「…改めて聞くわ。なんのつもりでここにいるのかしら?」
うーん、答えたいのは山々なんだけど、口が塞がれて話せないのですが。
うんうん唸っていると、Sっぽい雰囲気の美女が口元の布に気づく。
「あらあら。これでは言葉も話せませんわ」
気づいてくれた!
心の中でガッツポーズをしたが、それが間違いだったとすぐに後悔することになる。
「この邪魔な布、押し込んじゃいましょうね〜♪」
なんと、彼女は布を喉の奥へ押し込んできたではないか!
この美女、雰囲気と同じSだ!
し、死ぬ!
死んじゃう!
窒息死しちゃう!
「み、美咲さん、さすがにやり過ぎでは…?」
高校生くらいの美少女は慌てて止めに入り、ジト目を美女に向けているようだが、一先ず窒息は免れた。
口元の布を外され、一息つく。
「ちょっとした冗談じゃない♪怖い顔しないで、
Sっぽい美女は美咲さん、高校生くらいの美少女は蓮ちゃん、という名前らしい。
「…本題に戻るわ。あんた、何者?」
早乙女ルナのそっくりさんは、美咲さんによる俺殺害未遂現場をそのまま流し、尋ねてきた。
「借りていたアパートがトラックに突っ込まれて住めなくなった、災難の男子学生です」
真実を伝えたのだが、未だ彼女達は疑惑の眼差しを向けてくる。
どう言ったら信じてくれるんだよ…。
そんな時、翡翠さんのスマホに電話がかかってきた。
「あ、ゆかりさんからだ。もしもし?」
電話の相手であるゆかりさんの声がよく聞こえてくると、全員がその声に耳を傾ける。
「もしもし、翡翠?今朝方リビングにいる辰波君を見つけたと思うけど、あんまり苛めないでね?ちょっとワケアリだから」
「ちょっと、って…。一体、どんな理由ですか?!」
「今、テレビをつけてみて」
言われたとおり、翡翠さんがテレビをつけてみると、昨夜のニュースが流れていた。
——昨夜、23時頃、市内のアパートに大型トラックが突っ込むという事故がありました。警察では、泥酔状態の運転手がハンドル操作を誤ったとみて、運転手から事情聴取をしているところです。幸いにも、アパートの住人は出かけていたようで、付近の住民にも怪我人は出ていない模様です——
「えええええええええええええええええええええっ?!」
5人揃って、驚きの声を上げた。
…うん、まぁ、そうなるよね。
「ね?そういうことで、一日そこで休んでもらったの。これからのことは、皆で話し合って決めてね。宜しく〜」
電話が切れたようだ。
てか、宜しくって…。
明らかに俺、不利な状況じゃん!!
なんとかフォローもくださいよ、ゆかりさん!!
「…だって。どうする?」
「話は本当みたいだから、帰る家が無いのは確かね」
「でも、ここは女の子だけのシェアハウスよ?その中に男が住むなんて、納得できないわ」
「美咲さんの言い分はもっともですが、住む場所が無いのに追い出すのも、なんだか良心が痛みます…」
「じゃあ、こんな提案はどうかしら?」
4人が巨乳美女を向く。
「1週間様子を見て、何か不審な行動をとった場合、すぐ出ていってもらう。でも、そうでなければ、ここに住むことを認めてあげる。どう?」
「そうね…。1週間だけなら、我慢してもいいわ」
翡翠さん、ありがとうございます!
「確かに。そういうことなら、待ちましょう」
蓮ちゃん、ありがとう!
「うふふ…。私の誘惑に、どれだけ耐えられるかしら…?」
な、何をするつもりですか、美咲さん…。嫌な予感しかしないんですけど。
「正直、私は気が進まないわ。でも、蓮の言う通り、無理矢理追い出すのも気が引けるわね。仕方ないか…」
猶予をもらえただけで十分です、早乙女ルナのそっくりさん!
「決まりね。じゃあ、せっかくだから、自己紹介といきましょうか」
俺の両手足の拘束を解きながら、ニコニコ顔で巨乳美女が進めていく。
「私は
紫苑さんか。母性の塊のような優しい雰囲気だな。
「
フルハウスにいる時と同じ、汚物を見るような視線。やっぱり痛いぜ…。
「
蓮ちゃん、翡翠さんと姉妹だったのか。どおりで似ているわけだ。
「私は
美咲さん、俺はMじゃありませんから!!
「…
マジ?!そっくりさんかと思ってたら、本人だったのかよ…。
そしてようやく俺の番だ!やはり第一印象は大事だし、笑顔で自己紹介するぞ!
「
「こっちとしてはお願いされたくないわ」
ぐはっ…今のは厳し過ぎです、ルナさん。
「まあまあ。とりあえず、宜しくね、昇くん」
にっこり笑顔が素敵です、紫苑さん。
今のところ、俺を好意的に扱ってくれるのは、あなただけです!
「じゃあ、これでひとまず解散ね」
翡翠さんの一声で、4人が自分の部屋へ戻っていく。残されたのは、俺と紫苑さん。
「あの、紫苑さん。さっきは本当にありがとうございます。おかげで、しばらくは寝床に困らなくなりそうです」
ペコリとお辞儀をすると、紫苑さんは笑顔で、
「いいのよ。ゆかりさんのお願いだし。でも、勝手に女の子達の部屋を覗いたりしたら駄目よ?彼女達、何かと男性を軽蔑しているようだから」
うん、そんな感じはしてた。でも、それほど男を嫌っている人達なのか…。
これは、些細なことでも追い出される理由にされそうだぞ。
なんとかご機嫌をとるような努力をする必要があるかも。
そうだ、まずは家事の手伝いでも始めるか。
「気をつけます。ところで、紫苑さんに早速聞きたいことがあるのですが、掃除機、どこにありますか?」
「あら、掃除をしてくれるの?」
紫苑さんは興味深げに返してくる。
「ええ、昨夜はここで眠らせて頂いたので、せめてここくらいは掃除をするべきかと思いまして」
ふふっ、と軽く笑うと、紫苑さんは掃除機のある場所を教えてくれた。
よし、まずは紫苑さんからの信頼を得ておこう。
意気込んで、俺はリビングの掃除に取り掛かった。
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