災難は突然に

本日の講義を全て終え、大学を後にした帰り道。遠坂は俺に尋ねてきた。


「なあ、昇。お前、今日もこれからバイトか?」

「ああ、そうだが。どうかしたか?」

「いや、時間があれば、これから一緒に夏樹原ナツバへ行こうかと。刈谷と待ち合わせしていたんだ」


夏樹原は、複数の飲食店の他、ゲームセンターや漫画喫茶、映画館、グッズ販売店等が軒を連ねる超巨大複合商業施設だ。見て回るだけでもかなり楽しい観光スポットでもある。


「そういや、今日だったな。『魔女っ子カノちゃん』のゲーム発売日。RPGだっけ?俺も行ってみたいが、今日は夜中12時までバイトなんだよな…。悪いな。刈谷によろしく伝えてくれ」


それに、今日は久々にと同じシフト。休むわけにはいかない。


「そうか、わかった。じゃあ、また明日な」


遠坂は電車通学なので、駅前で別れる。

俺はこれから夜8時まではこの近くのファミレスでバイト、それ以降はアパート近くの喫茶店で夜中12時までバイトが入っている。


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男ばかりのファミレスでのバイトを終え、アパート近くの喫茶店、フルハウスへ。こちらは男女比が大体同じくらいで、ダンディーなマスターはいるが、イケメンというほどの美男子はいない。


加えて、女性スタッフの中には、とびきりの美少女が一人いる。


河合翡翠かわいひすいさん。艶のある長めの黒髪、背も高め。キリッとした目で、クールビューティーという言葉がピッタリの美少女だ。同じ池田川大学の1年で、法学部在籍らしい。


「お疲れ様です、翡翠さん」


と笑顔で挨拶すると、彼女は俺をまるで汚物を見るように、


「ええ」


とだけ冷たく返してくる。


毎度そうだけど、これ、結構傷つくんだよなぁ…。


「あ〜あ、また振られたようだね、辰波くん」


そうフォローしてくれたのは、この喫茶店のアルバイトの先輩でもある、双葉高志ふたばたかしさん。180オーバーの比較的高身長で、柔和な顔つきをしている。面倒見が良く、俺にとっては兄貴的な存在だ。

俺とは違う大学、泉ヶ丘大学の4年生。妹さんが一人いるが、結構嫌われているらしい。


「ははは…。まあ、いつものことですけどね…」


とがっくり肩を落とす。


「来てくれたようだね、辰波君。早速で悪いけど、今日はホールで頼む」


声を掛けてきたのは、ここのオーナー、高橋ゆかりさん。今年で45歳を迎える、結婚15年目の中年女性だ。従業員のお母さん的な役割もしてくれる。

ちなみに夫は、この店のマスターだ。


「はい、わかりました」


今日の仕事は接客のようだな。よし、頑張るか!


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バイトを終えて帰宅すると、俺の借りているアパートが「立ち入り禁止」の黄色いテープで囲われていた。


「何かあったんですか?」


と、近くにいた警官に尋ねると、


「ああ。トラックの運転手が、トラックごとこのアパートに突っ込んだようだ。今、事故の原因を調べているところだから、このテープより内側に入らないように」


と言われた。マジかよ…。


よくよく見ていくと、トラックは通りに面した角部屋に突っ込んだみたいだった。


………?角部屋?!って、俺の部屋じゃねえか!!!!!


「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ふ、不幸だ…。とりあえず、今日の寝床だけでも確保しないと。

最悪、フルハウスのスタッフルームでも借りよう。

ゆかりさんなら許してくれるだろうし。




………と思っていたけど。




フルハウスへ戻って訳を話すと、


「申し訳ないけど、それは無理」


とゆかりさんに言われてしまった!


「やっぱり、防犯上の問題とかあるから。でも、代わりといってはなんだけど、私の所有するシェアハウスへ案内するわ。今後も住むかどうかは住人に意見を聞かなきゃならないけど、今晩だけなら、問題ないから」

「はあ…」


そして、俺は、ゆかりさんに連れられて、ある一軒の家にやって来た。


「ここが私の所有するシェアハウス、『カーメラッド』よ」


白を基調とする、地上3階建ての一軒家。色と相まって、清潔感漂う家だ。


「…良い家ですね…」


思わず見惚れてしまいそうな荘厳さを感じ、自然とそんな言葉が出てしまった。


「ふふ、そうでしょう」


ゆかりさんはバッグの中から鍵を取り出し、ドアを開ける。


玄関ホールは広い空間で、天井までの吹き抜けがとても気持ちいい。

そのまま真っすぐ進んでいき、突き当たりを右に曲がっていくと、10畳以上はありそうなリビングだった。

白で統一された家具達が並んでおり、某スローライフゲームのロイヤルシリーズがつい思い浮かぶ。


「今夜はここで休むといいわ。朝になれば住人もここに集まってくるから、その時にでも今後どうするかを話し合うといいわ」

「ありがとうございます、ゆかりさん」

「じゃあ、おやすみなさい。また明日、頼むわよ」

「はい」


そう言って、大きめのソファーに横になる俺を確認して、ゆかりさんは帰っていった。


「とりあえず、今日はさっさと休むか…」


瞼を閉じるとすぐに眠気がきたので、そのまま眠りについた。



………のだが、翌朝。


何故か両手足を縛られ、口にはおしぼりのような布を詰め込まれた状態で目を覚ますことになっていた………。

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