出会い
大学生の平日
ジメジメした梅雨の時期も終わりに近づいた7月の初めのとある朝。
日々暑くなっていく気温にうんざりしながら、俺——辰波昇は目を覚ました。
大きな欠伸をしながら、まだ眠い目を擦る。
「…昨日借りたDVD、調子に乗って全部見なきゃ良かったな…」
昨日、通っている大学の友人の一人からオススメされていたアニメをレンタルショップから借りて見たのだが、予想以上の面白さにハマり、つい夜更かししてしまったんだよなぁ。
布団から起き上がり、着替えを済ませて寝具を押入れへしまう。
大学近くのアパート(築10年の新しめで、すぐ横に大きな道路がある)の一室(通りに最も近い、和風の角部屋)を借りてから4ヶ月ほど経ったが、偶に道端で見かける邪霊を退治する以外は、講義を受けつつバイトもするという比較的平凡な大学生ライフを送れていると思う。
「これでよし、と」
時計を見ると、午前9時。そろそろ大学へ行かないと、2コマに間に合わなくなる。
そうだ、見終わったDVDもついでに返しにいかねば。
簡単な朝食を終えて、昨日見終わったDVDもバッグに詰めてアパートを出た。
利用したレンタルショップは大学への道中にあるし、ちょうどいい。
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私立池田川大学文学部歴史学科1年。それが俺の肩書きだ。
「やぁ、昇!」
後ろから聞き慣れた声がしたので、振り返ると遠坂と刈谷の大学の友人二人がいた。
声を掛けてきたのは、刈谷だ。本名、
「昨日薦めたDVD、見たか?」
こっちは遠坂。本名、
俺と同じ受験で入学した、いわゆる受験組。
入学当時に、たまたま女体の好みについての価値観の違いで言い争いになったが、結局お互いを認める形で和解し、それ以来の付き合いだ。
ちなみに刈谷はエレベーター組(同じ系列の高校からの推薦)だったりする。
「あれ、俺がよく利用するレンタルショップには置いてなかったぞ。仕方がないから、この間刈谷に薦められて気になっていたアニメを借りた」
「それ、もしかして『魔女っ子カノちゃん』?」
刈谷が聞いてくると、俺はそうだ、と答えた。
「あれ、凄い出来だな。単なる女の子向けのアニメにしておくにはもったいない。何といっても、現代の社会を見事に映し出しているからな」
すると、刈谷は満面の笑みで語り出した。
「さすが昇!話がわかるね〜。あれ、モデルは今話題になってるヒロイン、『魔法少女カノン』なんだ。本物の方がいい、って言う人もいるけど、僕は断然カノちゃんの方を推すよ」
それに対し、遠坂は、
「俺はもちろん、カノンちゃんかな。テレビでもよく見るけど、あのさらさらの髪とか、あどけない表情とか、なんか保護欲掻き立てられるんだよな〜」
と意見する。
魔法少女カノン———日本を代表するヒロインの一人だ。一時期活動休止宣言があったが、休止明けにはより強くなって活動再開。〈組織〉の幹部を相手取る等、最近さらなる活躍を見せている。
「じゃあ将、魔法少女カノンのファンクラブとか入ってる?」
「何?!そんなものがあったのか!知らなかったぞ」
刈谷の一言に、遠坂が反応する。
「非公式だけどね。主に、クラブメンバーとのコミュニケーションがメインなんだ。いつ、どこで見かけた、とか、この技のここが凄い、とか」
「さすがは刈谷。女の子関係の情報はお手の物だな」
刈谷は、何故かあらゆる女の子関係の情報に詳しい。聞くところによると、通っていた高校の全女子生徒のプライベートな情報まで事細かに知っていたのだという。
どうやってその情報を手に入れているのか気にはなるが、深く追求しない。
いい奴だってのは十分に分かっているつもりだし。
「なあ、刈谷。そのファンクラブ、どうやって入るんだ?」
「入会は簡単だよ。とあるサイトに接続して登録するだけだから。後でURL送ろっか?」
「おっ、そうか!んじゃ、頼むわ!」
遠坂がウキウキな気分に浸っているのがよくわかる。こいつも結構単純だよな。
そんな雑談をしながら、俺達は講義室へ向かった。
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刈谷とは学科が違うので途中で別れ、俺と遠坂は二人で講義を受ける。
講義室に到着し、いつも通り空いてる席に並んで座ると、遠坂がある方向を向いて舌打ちした。
「…チッ、あいつ、また女に囲まれていやがる」
視線の先には、一人のイケメンが数人の女の子たちに囲まれながら会話をしていた。
…確か、
刈谷の話では、高校時代、ミスコン優勝者と付き合っていたのかもしれない、との噂もあったという。
「生田め。イケメンだからって調子に乗ってんじゃねーよ!………って思うのだが、辰波先生はどうお考えでしょうか?」
と遠坂が振ってくるので、
「実にけしからんなぁ!!」
と即答した。俺だって、カワイイ女の子に囲まれて、きゃっきゃウハウハしたいぜ!
「ですよね〜!くそっ、イケメンじゃない自分がむなしいぜ…」
明らかに悔しそうな顔の遠坂。
イケメンは俺達の敵さ!友よ、共に戦おう!
そんなろくでもないことを考えながら、講義を終えた。
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