最終話  アンナレッタの剣

 アレン・シュナイダーの経歴が全部真っ赤な嘘であることに気が付いたのは、

 光りの神殿の警備騎士が、一瞬ぐったりとして正気を取り戻した後だった。


 アレンは、相当な魔法の使い手らしく、素性や経歴を偽って騎士団に入り、そこで周りの者に暗示をかけて、洗脳して聖騎士の座まで上り詰め、エル・ロイル家に近づける日を待っていたのだ。


 当主のアンドレアには、仲の良い騎士がついて離れずいる為、アレンの狙いは初めからアンナレッタだった。


 いつもは怖いもの知らずで、誘拐されたことのあるアンナレッタだったが、今回は本当に怖かった。

 初めて、恐怖というものを知った。


 三日間何も食べられずに、部屋からも出て来なかった。


 風の精霊のリカルドが、心配してずっと付き添っていた。


 四日目の朝にハルアが、小さなおにぎりを持ってアンナレッタの部屋を訪問して来た。


「アンナ様、これを食べたら少し撃ち稽古をしましょう」


 <おまえ!!無神経だな!!もっと、アンナの気持ちを考えろよ!!>


 リカルドが怒って言ったが、ハルアにリカルドは見えない。


 アンナレッタは、ハルアの差し出したおにぎりを受け取った。

 お腹が空いていたのかもしれない。

 ハルアがおにぎりを受け取ってくれたので、安心して部屋の扉を閉めた。

 そう……アンナレッタは、人前で食事が出来ない……

 いつかは克服せねばならぬことではあるが、今ではない。


 ハルアはそう納得して、稽古場でアンナレッタの来るのを待った。


 少し経って、アンナが大きな剣を担いでやって来た。


「ハルア~!!来たぞ!!」


 口の端に一粒の米がついていた。

 それを見てハルアは、アンナレッタがおにぎりを食べてくれたことを知り安堵した。


「その前にアレン・シュナイダーは、明

 日公開処刑が決まりました」


「早いな。傷も癒えてないのに?」


「ロイル家の姫を暗殺しようとしたのですよ。傷なんか手当てしてもらえる訳ないでしょう」


「そうか……帰してやって魔族の餌にしてやっても良かったんだが……」


 アンナレッタが伏し目がちに言うと、

 ハルアは鼻息荒く言った。


「アンナ様を手にかけようとした者に情けなど無用です!!

 明日の正午に、大神殿を抜けた荒れ地で八つ裂きの刑に処されます。」


「あいつ、自分の血を大地と融合出来るぞ」


「抵抗すれば、苦しみは長く続きますよ」


 シレッとハルアが言った。

 そして、アンナの持っていた剣についても話した。


「アンナ様の持っている剣はバスターソードと呼ばれています……私生児とか混血児という意味で……アンナ様にとっては嫌な名前ですよね……」


 アンナレッタは、思い出す……。

 自分の外見のせいで不貞を疑われて里へ帰った母。

 その母のことが忘れきれない父。

 誰も自分を見ようとしなかった。


 ……今回のことで思い知らされた。

 魔法だけでは、駄目なのだと。

 自分の身は、自分で守れるようにならければ……


 ハルアの言葉にアンナレッタは、首を振った。


「これは、私が選んだ剣なのだから。きっと、私に丁度良いに違いないんだ」


 アンナレッタは、バスターソードを抱きしめて言った。

 ハルアは、初めてアンナレッタの笑顔を見た気がした。



(完)


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アンナレッタと大剣の女騎士/銀の森に来た刺客 月杜円香 @erisax

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