第2話  アンナレッタ、騎士に憧れる

 昼間、アンナレッタは、魔法の鍛錬と言いつつ、風の奥方の巣の古木に潜り込んでることが多い。

 屋敷にいれば、やれ、呪文の稽古だの、礼儀作法の先生などがひっきりなしに来るからだ。

 ここに来れば、うるさい、じい役のロッソもお姉さん役の巫女のサヤも来れないはずだった。

 風の奥方が、完全に気配を消してくれる。

 奥方と契約をしている訳ではないが、付き合いは長い。

 それくらいの頼みは聞いてくれるのだ。


 <いつまで、ここに隠れている気だ?>


 一緒にいるリカルドの方が、奥方に申し訳なく思ってしまう。


 奥方の巣は、銀の森のエル・ロイル家よりも更に奥にあり、太い大木で上の方が奥方の巣になっていた。

 そこで、家から持ち込んだ本を熱心に読んで過ごすのが、アンナレッタの最近の日課だ。


「ん!?」


 アンナレッタが、本から目を外すとリカルドが怒っている。

 契約者以外の精霊の巣に潜りこまれて、リカルドも良い気はしてない。


「お前、騎士だったな?」


 突然、アンナレッタが言った。


 <はぁ!?>


「私も騎士になってみたいぞ!!」


 <アンナ!?>


「私に剣術を教えろ!」


 <何がどうやったら、そうなるんだよ>


 アンナレッタの持っきていた古い書物【ディマ・ヘッセル奇譚】がするりと落ちた。


 笑いを堪えていた奥方の大爆笑で、アンナレッタもリカルドも奥方の巣を追い出されてしまった。



 ♦



 この時代神殿は、ロゥ騎士団と契約し、騎士の数も沢山いた。


「女である事、言う事を聞きそうな奴一番に剣術の上手い奴だな」


 <そんな奴……本気でいると思ってるのかぁ?>


「うるさい!!お前が教えてくれないなら、お前が捜せ!!」


 <だから、精霊は剣なんか持てねぇって……>


 リカルドとアンナは、ここ数日指南役になってくれそうな人を捜して銀の森の中を飛び回っていた。

 騎士団の方から、警備騎士、巡礼騎士、果ては門番まで、騎士と名の付く者が出入りする所は回っていたが、なかなか気に入った者には会えずにいた。


 その日も同じような感じだった。


 <アンナ……いつも思うんだけどさ>


「何が!?」


 <普通女って、ドレスを着るもんじゃないのか?>


「叔母上みたいにか!? 私は私だ。関係ない」


 <そうかよ~おっと、銀の森の巡礼用の大神殿近くまで来ちまった>


 風の騎士リカルドは、銀の森との荒れ地の境界線近くまで来てることに気が付かなかった。

 アンナレッタを、外の世界へ出すなとお達しが出ていたのだ。

 リカルドは、仕方なく回れ右をして森の中へ帰ろうとした。

 そこに、彼女はいた。

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