第12話 実験台


 私は実験台管理所の部屋の中に入って思った。そこは、十畳くらいの部屋の広さで、暗く、そして腐臭が充満している。いわゆるの匂いがした。檻やゲージのようなものが沢山置いてある。


 「何これ最悪、ひっ!」


 足元には人の死体とゾンビのような犬がいた。


 涼太がなんとか生存者を探している時、私はれいのあのウイルスの感染者にしか出せない腐臭を感じた。


 私はその臭いのもとへ足を繰り出し、そして臭いのもとにたどり着いた。


 「瑛くんなの…?」


 「アウ、アウウゥゥ」


 そこには呻き声を上げるゾンビの姿をした彼、瑛くんがいたのだ。


 「うんうん、分かるよ。だって瑛くんは私の初恋の人なんだから♡」


 第一感染者で、実験材料として扱われたのだろう。身体の至る所に注射痕、また身体の各部位がそれぞれ変色していて、モルモットとして酷い扱いを受けたのだと分かる。


 「見た目は違っても分かるよ、酷いことされたんだね」


 「アウ、アウウウ」


 そうして一通りを観察し、なんとか彼も救えないのかと涼太に相談しに行くが、


 涼太は謎の研究者らしき人物に薬を打たれかけていた。


 「スーー」


 「我々の研究の成果だ!政府の奴らもこれで終わりだ!この世界も!」


 涼太とコウは寝ていて、もしくは寝かされていて、君嶋さんはもちろん倒れている。


 私は散弾銃を構え、男に標準を合わせた、しかし、散弾銃を撃ってしまうとその周囲にいる涼太やコウに被害が及ぶ。くそっ


 「ねえ!」


 「なんだぁ?」


 研究者はこちらへ向くと、こう言った。


 「貴様ぁ、もしかしては持ってないな?」


 「鍵?もしかしてこれのこと?」


 私はズボンのポケットから銀色に光る、先程別の研究者に貰った鍵を見せた。


 「ああ!それだぁ!それがあればぁ!」


 「な、なんなのよ?」


 研究者は男なのだが、まるで薬をやっているかのように、滑舌や話し方、ついでに言うと、動作までもがおかしな様子だ。


 「それをくれて、この子に薬を打ってもいいかい?」


 男は涼太を実質的に人質にとるように、涼太に注射針を刺した。


 「やめて!この鍵を渡すから!」


 そうして私は鍵を差し出した、だが男はこう続けた。


 「もういいよぉ!男に打つより女に打ったほうが、作用は大きいからぁ!お前に打つぅ!」


 男は私の腕を強く掴んだ、強すぎて、爪が腕に食い込んだ!


 「痛っ!」


 そして、注射針が腕の血管にいくように、私の腕に刺した。


 そして私に薬を投薬しようとした瞬間だった。


 『ガタガタガタ!ガタン!』


 彼が閉じ込められている檻の鉄格子が外れたのだ。


 「お前!なんっぐわっ!」


 彼は男をその鋭く尖った爪で引っ掻いた。


 「とにかくもういい!この女に注射を打つ!」


 男は今度こそ私に注射を打とうとした、しかし、今度は彼に首根っこを噛みつかれてしまった。


 「グワアアア!ガルッガルッ!」


 「くそ!もうお前でいい!これをくらえ!」


 男は私に刺していた注射針を抜き、彼に刺した。そして、


 


 「あっ!」


 私は声にならない声をあげるが、時既に遅し。薬は注入されてしまった。


 男を襲っていた彼の動きは止まり、地べたに這った。


 「グワアアア!グワアアア!」


 彼の四肢はみるみるうちに太くなり、それを支える胴体もより巨体化したが、あまりに一瞬のことだったので、その反応に追いつけなかった身体の骨が折れる音が聴こえる。


 『ボキッ!ボキボキボキボキ!』


 「瑛人くん!」


 私は叫び声をあげるが、男はそれを嘲笑うかのようにこう言った。


 「無駄だぁ!こいつはもう、この世の人間じゃぁ倒せない肉体になっちまったぁんだよ!この狂った世界はこれで終わ…」


 『バァァァン』


 突如爆発音がしたかと思うと、彼が男の腹を瞬きする間に殴ったらしい。


 「グワアア!」


 殴られた男は血を噴きながらこう言い残した。


 「このゾンビは無差別に人を殺すように造ってるんだった、ゴフッ。治療薬とかは、私の部屋にある。この、鍵を使いなさい。さっき君がくれた鍵だ」


 私は小さくうなずいた。


 「ああ、愛する我が子よ。もっと愛情注いであげたかった…。愛する妻よ。もっと一緒に居たかった、仕事ばかりで本当に済まなかった…」


 男はそう言い残すと息絶えた。


 私は男に小さく手を合わせた。


 私は散弾銃を彼に向けて放った、


 「ごめんなさい」


 『ダァァァン!』


 「グワアアア!アアアアアアア!」


 散弾銃は近距離で放ったため、威力は強かったらしく、彼の屈強な肉体に穴を開け、腕を吹き飛ばした。


 彼は猛獣のような叫び声というより、もはや鳴き声に近い声を出すと、私に向かって殴りかかってきた。


 「キャア!」


 私はギリギリのところで回避したが、壁に寄りかかって死んでいた男の首が吹っ飛んだ。


 そしてその吹っ飛んだ首を拾うと、口の中に放り込んで、咀嚼を始めた。


 「瑛人…くん?」


 呼びかけるもそれに応じず、咀嚼を続ける。


 不覚にもこれをチャンスと私は思い、彼に気づかれないように、三人を起こして部屋を出たのだった。


 「起きて!」


 「「んん?」」


 「今やばいから、とりあえずここ出よう」


 「「ん?ああ」」


 こうして三人を起こして、部屋から一旦脱出したのだった。



 


 


 


 


 

 















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