第11話 赤子
私の名は横島美久、23歳。好きな人がウイルスを持っていてそれを地元に持って帰ってきてしまった。
彼の名前は松田瑛人。彼とは小学生からの知り合いで、今まですっと一緒だった。
そんな私と彼の関係が進展したのは中学1年生の春頃。私は彼に告白し、彼はなんとそれを了承してくれたの、私はその時ほど嬉しかったことはないわ。
そして月日は流れ中1の冬。私は家に彼を呼び、一緒に遊んで、それだけでも十分楽しかったけど、親がその日は帰ってこないって分かったの。
そして彼と流れで初めて、なんていうか、その、性行為に及んだ。
最初は暖をとる目的で前戯だけのつもりだったけど、年頃の男女が二人っきりで、しかも裸で前戯までしてしまえば、身体を交えない訳がなく、
私は彼と身体を重ねた。
しかも、ゴムなんて当時中学生だった私たちが準備できるわけもなく、
生でしてしまったの。
でも私に後悔なんて無かった、むしろ幸せだった。だって愛する彼と身体を重ねられたんだから。
ある日、生理が来なくなったの
他にも身体の異変は沢山あったわ、そして私は気づいたの。
妊娠したのね、と。
そして彼に相談したわ、『妊娠してしまった』って。
すると彼は突然怒りだすと思えば、検査結果見せてと言ってきた。
私は妊娠検査薬を見せたわ、もちろん陽性。すると彼は愕然として、うなだれたわ。
「この先どうするんだよ、その子は産むのか?」
産むのか?あまりにも無責任な態度に少しイラつきはしたものの、私は笑顔を貼り付け、
「ええ、産む気」
「本気なのか?」
「ええ」
「……分かった」
すると彼はそう返事した後にこう言った。
「世間では中学生で妊娠なんて知れたら、この先の人生はきっと難しくなるだろうね、だけど美久がその気なら俺は協力するし、もとはと言えば、俺が孕ませた子供。真摯な態度を見せておけばきっと周りだって手を差し伸べてくれるよ」
「うん!」
彼の出した応えに私は貼り付け笑顔ではなく素の笑顔でにっこり笑った。
「やっぱ俺の彼女は世界一可愛い!」
「なぁにーそれ!」
しかし、それを世間は許さなかった。
「お母さん、お父さん、実は私お腹に赤ちゃんがいるの」
「「!?」」
夕食中、私は父母にそう告げた。返ってきたのはもちろん冷たい返事だった。
「嘘よね…?美久がそんな子なわけないもんね…?」
「そうだ…お前は昔っから真面目だったじゃねえか」
「ううん、ほんと。妊娠検査薬も陽性だった。相手の男もしっかり紹介できるよ」
私はそう言った、そう言って母の血の気が一気に引いていくのを感じ取れた。
そうして母は机の上に吐いてしまった。
「痛っ!」
突然父から頬をぶたれた。父は私を大声で怒鳴りつけた。
「いいか!よく聞け!お前たちはこれから社会に出たとき、絶対冷たい目で見られる、それでも産むほどの覚悟と金がお前たちにあるのか!?」
「……」
盲点だった、
「あるのかって聞いてんだ!」
父は机に拳を叩きつける。同時に食器が動き、コップに注いでいた麦茶が倒れ、膝にひんやりとした感覚が伝わる。
「私は、私は!この子を産みたい!たとえ育てられなくても!」
私はこう応えた、しかし父は、
「お前は馬鹿か?その子の将来を考えてみろ。生まれた時から施設暮らし、親の顔も見たこともない、話したこともない、そんな子供の気持ちになってみろよ!」
「分かってる!分かってるけど、私は本当に!産みたい、周りに何と言われおうと、この先の将来がどうなろうと、彼と約束したから!」
そこまで言うと、父は呆れた口調でこう言った。
「大体、その男は誰なんだ?今度連れてこい、今は中絶とか色々あるからさ、その相手の男と話し合って決めよう」
「分かった」
こうして私は父母に妊娠したことを報告したのだった。
次の日の朝、私は彼にこの事を伝えた。
「ああ、俺も俺も、同じようなこと言われた。俺は育てられなくても、その子を産みたいっていう美久とおんなじ気持ちだわ」
「そう?ならよかった。子供産んでも学校行けるかな?」
「大丈夫でしょ、きっと」
そして迎えた私と彼の家族揃っての面談。
「この度はうちの瑛人が大変厄介な事を…」
「いえ、それを言うならうちの美久が…」
そうして、私たちの意見を言う番が回ってきた。
「「子供は産む!」」
そう口を彼と揃えて言った。
そして互いの両親に猛反対されたが、私たちはそれでも決心を変えなかった。
「もういい、勝手にしろ」
そう父から言葉が漏れた、ああ、呆れられたんだ。と思った。
「そうだな、お前も勝手にしろ。その代わりに美久さんのことだけは命に代えてでも守ってやれ、それがお前が決めた人生だ」
「はい!」
こうして私たちは紆余曲折あったが晴れて子供を産めることになった。
辛いのはここからだった。
「みなさん。美久さんは家庭の事情で少し休学することになりました。美久さん、挨拶をお願いします」
そして私は最悪の選択をしてしまった、いや、その選択肢は自分で作ったものだろう。
「みんな、私はお腹に赤ちゃんができてしまって、それで少しだけ休学することにしました。私はこの子を産みたいと思っています」
私が教卓の前に立って言い終えると皆ぽかんとしていたのもいれば、戦慄を覚える者もいた。
「どうしてみんなそんなか…」
「ちょっと来ようか」
私は先生に廊下に連れ出されたかと思いきや、すぐに帰れと言われた。
その時の先生の顔はまるでケダモノを見るときのような顔だった。
「どうしてみんなそんな顔をするの?妊娠するのはそんなに悪いことなの?」
私は誰に問いかけるわけでもなく、独り言ちながらそう帰った。
ーーーー
ここまで本当に大変なことだらけだった。
周りの蔑んだ眼、差し伸べられない手、でもそんな中彼だけは毎日様子を見に来てくれて、私の頭痛が酷いとき、鎮痛剤をいつもくれた。そんな彼に私はまた惚れ直した。
「学校では最近どんなこと習ったの?」
「……」
「ねえちょっと無視しないでよー」
「……行ってない」
「へ?」
「学校には行ってない。だってあんなことまで言われて行けるかっていうのか!?」
彼は急に憤怒した。
「な、何があったか教えてよ!?」
私は彼に訊いた。
「美久があんとき妊娠したって言っただろ、その次の日から周りとやけに距離置かれてさ、次第には親友には縁を切られて、変態、強姦男扱い、もうやってられなくなって逃げだしてきたって訳さ。世間は俺らに冷たいらしいな」
彼はそういった、そんな妊娠することが悪いことなのだろうか?
私は疑問に思いながらも、そのまま月日は流れ、とうとう来てしまった出産予定日。自然分娩だと出産のリスクが大きいとのことだったので、私は帝王切開で出産することになった。
「元気な男の子ですよ!」
「おぎゃあーおぎゃあー」
「よくやったな!美久!」
「おめでとう!」
「お疲れ様!美久ちゃん」
私の家族三人と、瑛人の家族三人が出産に駆けつけてくれた。私は彼が最後まで私と一緒に走ってくれたことがとてもうれしく、最初は反対だった両親も丸く収まってくれて本当によかったって思った。
しかし、あとは本当に地獄のような日々だった。
役所の人が来て、私たち家族は車で赤ん坊を施設まで送り届けた。
「では、後はよろしくお願いします」
私は辛くてその子の顔を最後まで見ることはできなかったけど、その子の名前くらいはつけることができた。
「じゃあ名前は、クールでカッコいい子になってほしいから、涼太にしよう!」
「いいね、涼太かーカッコいい子になるんだろうなぁ」
私は彼と名前を一緒に決め、その子を施設まで送り届けた。
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