第7話 過去
「ふんふんふんー♫ふんふん♫」
鼻歌混じりで歩くなんていつぶりだろ?まさかコウが自分を守ろうとしてくれていたなんて、嬉しすぎる!これは今まで頑張ってきててほんとうに良かった、って思える。
「あの子たち、何が食べたいかなー?」
最寄りのスーパーに入るやいなや、人が沢山いることに気づく。
商品棚の商品は空っぽ、レジに並ぶ大勢の人達、
「すいません、これ何の騒ぎですか?」
気になった私は近くのおじさんに訊いた。
「ああ、なんかゾンビみたいなのが、この町に居るみたいで、人を次々襲っては、ゾンビ化させていくって話だよ」
「へえ、面白そうですね、もう二月なのにまだこの町はハロウィン気分なんですねw」
「いやこれが案外冗談じゃないみたいなんだよ」
これが冗談じゃない?笑わせてに来てる。流石に幽霊もゾンビも信じない私にはこのデマは通じないかなぁー
「とりあえず、お菓子パーティーでいっかな」
私は商品棚にあるスナック菓子二つと、チョコ菓子一つを手に取り、レジに並んだ。
15分後
「レジ会計長すぎだろぉ」
それもそのはず、レジにはそこそこの長蛇の列ができていたから、当然っちゃ当然か。
そして帰っていく途中に、まだ食べられそうなハンバーガーが裏路地に捨てられてあるのを見つけた。
(おっ、まだ食べれそう、あの子たちにあげようかな)
私は裏路地に近寄り、ハンバーガーを拾った。その選択が後の後悔を生むとも知らずに。
ーーーー
私はハンバーガーを手に取ると、きた道を引き返そうとした。その時、
「ガルッッッグルルルル」
まるで狂犬のような人間が前から来ているではないか。
「え、嘘でしょ?」
その人間の肌の色は人間の色とは思えないほど、緑色で、とてもゾンビのように気味が悪かった。
「ガルッグワアアア!」
そのゾンビのような男は走ってこちらに向かってくる、後ろは行き止まり、最悪。こんな所で死んでなんか居られない。
持っている袋は戦闘用にはあまりにも軽く、かと言って他に武器に使えそうなものも辺りには無かった。
(それに、お菓子はあの子たちのために大切にしたい…)
私は素手で戦う他無かった。しかしもう一つ手があるのを思い出した。
(逃げる!!)
ゾンビと残り五メートルくらいのところで気づき、私は横へ躱した。
なんていくはずもなく、
「グワアアア!」
「キャアーー」
ゾンビに肩を掴まれた。爪が肩に思いっきり食い込んでとても痛い、くそ、力技じゃ勝てないか、だったら、こうだ!
ゾンビになる前は男だったということで、私は奴の下に思いっきり金的をかます、がゾンビは全く動じない、私を喰うことで頭がいっぱいのようだ。
「グワッッッ!」
「痛い!痛いって!爪が食い込んでる!」
『ああ、ここで死ぬ』と覚悟を決めた時、女性におぶさってもらっているクラスメイトの涼太くんを見つけたのだ。
「助けて!そこの人!」
藁にもすがる思いで二人に声を掛ける、しかし、よく見ると、二人も相当な深傷のようで、路地の入り口の前で一度躊躇い、
急ぎ足で、逃げていったのだった。
そうよね、そうだよね、私だってそうする。
抵抗する力も無くなった私は、ゾンビの捕食を受け入れ、肩から首にかけて、肉を引きちぎるよう思いっきり喰われ、痛みで死を受け入れた。
「痛い!痛い!」
「グワアッッ」
四回くらい喰われた後だろうか、私はたくさん出血し、気絶するような痛みも感じる、しかし、ゾンビにはいつまでたってもならない。
「いや、実はなってるのか」
私は試しに、思いっきりゾンビの頭を殴った。するとゾンビの頭に風穴を開け、私は何とか解放された。
「ふう、とりあえずあの子たちの所へ、ウッ!」
猛烈な倦怠感、頭痛、吐き気、これまで感じたことのないような不快感が身体を襲う、
「ブハッ!」
吐血した、私はもう人間では無いのだと、その時確信した。
「何この血の色?」
自らの血液が緑色だったのだ、それは自らがゾンビだということを示し、あの子たちに会うなと、天に言われたようなものだった。
「神様、私が何か悪いことをしましたか!?本当に神が居るのだったらその神はなんて無意味なのでしょうか、流石に酷すぎます!」
私は空に向かって大声をあげた。見た目は人間そのものなのだが、身体能力、血の色はゾンビなのだから。
「と、とりあえず、このお菓子とハンバーガーをあの子たちに…」
最悪な気分の中、私は家路を急いだ。
ーーーー
「ただいまー帰ったよー」
「姉ちゃん!あれ?何で顔見せんの?」
「えっとねぇ、姉ちゃんオオカミになったからやぞー」
「嘘だぁ!姉ちゃんほんと面白い」
隔てている玄関の扉を開けようとしたので、私は、それを全力で開けさせないよう、力技で扉を閉める。
「姉ちゃん…?何で開けてくれんの?」
「だから、姉ちゃんほんまオオカミなったから、みんなの事食べてまうやろ」
「だから、それは嘘で…」
「嘘じゃない!嘘じゃないんだよ…信じられないかもだけど」
私は感情を込めて、コウにそう言った。
「姉ちゃん、これは?」
私は最初に扉を閉める前に、お菓子の入った袋と、ハンバーガーを部屋の中に入れた。もちろん、しっかり私のウイルスが入らないよう気を使って。
「お菓子とハンバーガー、四人で美味しく食べて、姉ちゃんあんたらが幸せそうに食べてる音聞くだけで、幸せやし」
自分でも無理に笑ってるのがわかる、あれ、なんか涙が出てきたなぁ、ゾンビも泣く時は泣くんやなぁ。
「ねえ…ちゃん?」
「ん?どしたぁ」
震える声で、必死に応える、いかん、そろそろ離れんと扉の隙間から空気感染するかもしれへん。
「じゃあま…!?」
「姉ちゃん!」
コウが開けてしまったのだ、私たちを隔てていた扉を、
「姉ちゃんがオオカミになってようがないってまいが僕たちの姉ちゃんは姉ちゃんや、そんなん関係ない、僕は姉ちゃんにいつでも食べられてもいいから…」
コウが私を背後から抱きしめる。コウの態度に私はもっと泣いた。
「ば、ばかぁ、開けるなって、言ったじゃない、もう…」
私はコウと正面に向き合い、再びハグした。身長差はあったが、私は少し屈み、コウを力いっぱい抱きしめた。
「でもね、開けちゃ駄目って言ったじゃない」
「姉ちゃん?」
違う、今のは私の言葉じゃない、じゃあ何だ?誰の言葉?
「悪い、悪いオオカミが食べちゃうからね」
私は咄嗟にコウから離れるも、時既に遅し、私の意識は深い混沌の中に消え去った。
ーーーー
「姉ちゃん…?」
衝撃だった。部屋一面血に染まり、姉ちゃんは自らの空腹を満たすために、
僕たちを手にかけたのだから。
俺は皮肉にも姉ちゃんを守る為に培ったナイフ術で、姉ちゃんと必死に戦ったが、他の兄弟はみんな姉ちゃんに喰われた。
「みんな…?」
姉ちゃんは意識を取り戻したようで、辺りの惨状を見て、膝から崩れ落ちた。
「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!」
「姉ちゃん!」
姉ちゃんは発狂にも近い叫び声をあげ、血の池に膝をつけ、自らの髪を掻きむしった。
「私がぁぁぁ、この子たちをおぉぉ!」
「姉ちゃん落ち着いて」
「コウ?生きてたの?よかった!」
僕は再び姉ちゃんに抱きつかれる、しかし今度は痛い、痛いというか恐らく骨が折れた。
「姉ちゃん痛い痛い」
「あ、ご、ごめん、うっかりしてた」
そして僕はおそらくゾンビにならない体質だろうけど、姉ちゃんのように、人間であってゾンビであるみたいなタイプではないことに気づいた。
そして近所の服屋を散策してたら、貴重な食料、しかも僕にとっては2日ぶりのご飯だったので、つい嬉しくてカンパンを男から奪ってしまった。
ーーーー
「姉ちゃん…」
血を流している姉ちゃんを見て、僕はこの行き場のない気持ちをどこにぶつければいいか、途端に分からなくなった。
こいつらを撃って殺したところで、何かが変わるわけじゃないことも知っている。
くそっ一体僕が何をしたって言うんだよ。
「ねえ」
「!?はいどうしましたか?」
「その三人どうしたの?」
「えっと、それは…」
「行く当てがないのだったらヘリで逃げるといいわ、ここはもうすぐ、爆破されるよ」
「えっ?ほんとなんですか?」
「ええ、確か噂だと政府の核爆弾が落ちるとかなんとか」
僕は混乱した、政府が爆弾を落とすのはまだわかる、だけど核を持っているのはなんかおかしくないか?非核三原則ってなんだったんだよ。
それに、この女性もなんでそんな極秘情報みたいなこと知ってんだよ。
「分かりました、情報提供ありがとうございます」
「いいのよ、その人たちも連れて早く逃げなさい」
「はい」
そう返事すると女性は裏路地の壁を越え、ビルの上から辺りを見回していた。
(何者なんだあの人は?)
情報を手にすればあとは簡単、それに従って実行するのみだ。
「ねえ、起きてください、起きてください」
「「うん?」」
「脱出、しますよ」
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