第6話 感染者であり人間
「あれ?涼太はどこ…?」
私の服が上下揃ったところ、涼太に見せようとしたところ、涼太が居なくなっていたのだった。
「これは…」
そこにはまだ幼いであろう子供の足跡と、涼太の足跡があった。
(まるで、子供を追っかけているみたい…)
私は危機感を感じ、急いでその足跡が示す方向へ駆け出した。
「涼太!」
ようやく涼太を見つけた頃には涼太は両目を押さえ、悶絶していたのだった。
「くっ!」
急いで拳銃を取り出すと、私は慎重に女に狙いを定め、その女の脳天を撃ち抜いた、
『バンッ!』
じんわりと手首に伝わる熱と反動、女はアスファルトの上に倒れ、緑色の血を流していた。
(嘘でしょ!この人もあれなの!?)
「涼太!」
「みくねえ!」
私は涼太の側に駆け寄ると、急いで逃げるよう勧めた。
「ねえ涼太、逃げよ?」
「……こいつは俺が殺…ブハッ」
すると私の手に向けて、緑色の血を吐いた。
「涼…太?感染したの?」
すると倒れていた女は起き上がり、私の方を向いてこう言った。
「ああ、それ私がやったわよ」
口角を上げ、そう下卑た笑みを浮かべる女。私は咄嗟の判断で、涼太に余っていた最後の一本の注射器を打った。
「とりあえず、これでなんとかなるよね…?」
最後の一滴まで打つと、驚くほどに、血管の緑色が赤色に染まっていく。
「ちっ、お前マジでクズだな」
「あら、クズはどちらで?」
私は拳銃の弾を一発、弾倉に込める。
「ねえ、私を襲わないで!私は…一般人なの!」
そう言い、相手を油断させる。そして隙をついてまた弾をぶっ込む。
「へえ、この場に来て命乞いか、面白いなあ」
「みくねえ、そいつは、ゾンビで、強い、気をつけろ」
そう言い残すと、涼太はまた気絶した。
「涼太!!!」
私はあえて女に背中を向け、女を完璧に油断させた。
「その隙が命取りなんだよっ!」
「甘い」
『バンバンッ』
「姉ちゃん!」
私は肩上から通したトリックショットで、正確に二発、女の脳天に銃弾を叩き込む、
「アウ、アウ、アウ」
「姉ちゃん!しっかり、痛っ!」
私はその子供にも二発、両脚に銃弾を叩き込む、涼太をあんな目に遭わせたんだ、少しは痛い目にあってもらう。
「じゃあ、死にな」
私は弾を六発全弾リロードし、女の脳と心の臓にそれぞれ三発ずつ、撃った。
「アア、アア、アゥ…」
女はそう
「ああ、姉ちゃん!姉ちゃん!」
「あっ、君にも訊きたいことがあるんだ…」
私は笑顔で彼の側により、銃を構えた。
ーーーー
「ねえ、お姉さんは何でゾンビなのに、君は違うの?」
少年は口を開く。
「この人殺し!お前を一生恨んでやる!」
私は暴れ狂う少年を銃を一発空に撃つことで静止させた。
「何で?」
「ヒッ…!」
私はは冷たい拳銃の先を少年の手のひらに当て、脅した。
「ね,姉ちゃんは、ゾンビにならない体質だったっぽくて、その特性を活かして僕たち家族を守ってくれてたんだよ」
「お姉さんはいつゾンビになったの?」
「一時間くらい前、その、あなたと、あの男が姉ちゃんを見捨てて、ゾンビに噛まれてしまって、そういう感じ」
「家族は、どうしたの?」
「姉ちゃんと一緒にここを脱出しようってなって、でもその途中でみんなゾンビに噛まれて、俺だけ生き残って、それで服屋に入ったらあの男がカンパンを持ってて、腹が減ったからつい奪ったんだ」
「……」
この少年も、あの女も、私が傷つけていいべき人間ではない。だってこの子たちも、私が呼んでしまった不幸に巻き込まれた人達なのだから。
「ごめんなさい…全て私の…」
「えっ…?」
私は涙を抑えきれなくなり、少年に全てを話した。
「ごめんなさい、本当に、私が帰って来なければ」
「っ……」
少年は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、私はどこへも行けない気持ちを迷わせた。
「ちょっとそれ貸して」
「いいけど…」
少年は拳銃を手に取り、私の方へ向けて、銃口を向けた。
「許せない、お前が!お前が全て悪い!」
まるで般若を宿したような形相で私を憎み、憎悪に駆られたその引き金は明後日の方向へ、涼太が寝ている方向へ向いた。
「だ、駄目!」
『バンッ』
『ブシャッ!』
私は心臓を撃たれ、心臓から血が溢れてきた。
「いったぁ、しっかり狙ってよね」
「あんた、その血の色はもしかして…」
せっかく着ていた服が、緑色に染まちゃったじゃない、本当に最悪、涼太に「似合ってる?」って見せるつもりだったのに…
「もう、ほんとさいあ…」
私は倒れた。
「なあ、おいあんた!」
ーーーー
僕の名前は君嶋コウ、今、究極の選択に立たされている。
「坊や、その三人はどうしたの?」
「えっと、それは…」
20分前
「もう、ほんとさいあ…」
「なあ!おいあんた!」
姉ちゃんを殺した女が倒れた。僕が銃を間違えて撃ってしまって、その女の心臓に丁度命中しちまった。
「姉ちゃんの仇っ…!」
だが今度の銃の引き金はなぜかとても重かった、弾も込められていて、変な撃ち方はしてなかった。それでも、両手で引き金を持っても、奴らを撃てなかった。
「くそっ!」
姉ちゃんは優しかった。
学校では特待生で学費免除で、蒸発した父親の代わりに、バイトも頑張って、母親も男遊びが絶えなくて、いつも夜は兄弟四人で凍えてた。10時過ぎになって姉ちゃんが飯を買って帰ってきてから、家に灯がついて、そこから日付が変わる前に寝る。
それが今までの生活だった。
けど最近は姉ちゃんの様子がおかしかった、夕方にご飯を作り置きして、10時過ぎになっても帰ってこなくなり、帰ってくるのはいつも早朝。
別に寂しいとか、母親や父親みたいに腹が立つなんて思っていない。
だから僕は一人で姉ちゃんを尾行した。
姉ちゃんは知らないおじさんと美味しそうなご飯を食べた後、そこからホテルに消え去る。僕はそれをはっきり見届けた。
次の日は鞄に盗聴器を仕込ませ、ホテルの中で何が行われてるか、はっきりと確認した、姉ちゃんが身体を売るには何らか理由があるものだと思っていた。
姉ちゃんは来る日も来る日も、毎晩違う男と一夜を過ごし、そして朝に帰ってきて学校に行く。
ある日、借金取りの人達が家に来た時、僕は見たことない男(父親)の名前を初めて知った。
僕は姉ちゃんの母親と愛人との子供で、姉ちゃんとは母親の血しか繋がって居なかった。そして、その父親は姉ちゃんの父親で、姉ちゃんは父親が残した借金5000万を身体を売って返しているとの事だった。
『返せへんちゅうならあのガキ供の臓器でも、なーんでもええんやで』
『やめてください!私が!私が返します!』
『よし決まりや、じゃあここにハンコ押してな』
『……』
男達が家に来て、姉ちゃんにそう言っていたのを思い出す。
そしてその時、自分の無力さを痛感した。
俺は必死に勉強し、体を鍛え、姉ちゃんを守ろうと頑張った。
「姉ちゃん!借金なんて気にせんで、楽しく暮らそう?」
「んーでも殺されたくないしなぁ」
「じゃあ僕が姉ちゃんのこと守るよ!」
「ほんと?コウは優しいなぁ」
姉ちゃんは僕の頭を痩せ細った腕で撫で、僕は姉ちゃんの傷だらけの身体を抱きしめる。
「でも大丈夫、姉ちゃん、あんたらの為やったら何でも頑張る。身体だって売るし、臓器だって売る。人も殺すし、何でもする、でもその代わり、あんたらには私みたいな人生歩んでほしくない。それだけや」
「姉ちゃん…」
僕の目から涙が溢れ落ち、姉ちゃんも覚悟を決め直した様子だった。
「じゃあコウが立派になった記念に久しぶりに美味しいご飯食べよっか!」
「うん!食べる!」
「なら、なんか買ってこんといかんなぁ、何がいい?」
「何でも」
「じゃあみんなで食べれるやつにしよう!」
「「「「いいねー!」」」」
「じゃあ買ってくるねー!」
「行ってらっしゃい姉ちゃん!楽しみに待ってるよ!」
僕はこの時、姉ちゃんを送り出したことを後悔するのだった。
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