第5話 復讐


 「起きて…起きて!」


 誰かの声が聞こえる。ああ、きっとみくねえの声だ。俺が気絶してしまったせいで、


 「っ!みくねえ!」


 「よかった!大丈夫だったよね!?」


 こちとら頭も痛いし、目眩も吐き気もするし、大丈夫な要素一つもないけど、あえて嘘を吐いて、


 「大丈夫、俺の心配なら、ウッ…」


 途端に胸が物凄く痛む、なんだ、って!?


 「お、とう、さん?」


 俺は幻想を見るかのような掠れた声で、そう呟く。だってそこに居たのは、紛れもない俺の父親だったのだから。


 「お父さん!」


 俺は自らの怪我も忘れて父さんのいるところに駆け出す。


 「ねえ!しっかり、しっかり!父さん!」


 「……」


 「ねえ!父さんに何があったの!?まさかあいつ…はっ!」


 そして、みくねえの近くにはしかばねとなっている奴らがいた。


 「おい!?これどういう…」


 「涼太の父さんが助けてくれたの。でも涼太の父さん怪我も凄くて、私達に薬をくれたの。そしてその薬はさっき涼太に打ったわ」


 待って、意味が分からない。なぜ、みくねえは自分に薬を打たなかったのか、そこまでして俺に生きさせる理由は?


 「みくねえ、なんで俺に薬を…」


 遮るようにみくねえは言う。


 「あっ、涼太の父さんの拳銃を少し借りましょう、見たところ弾は全部で二十発くらいあるから、これでゾンビと接近戦しなくて済むよ!」


 ぱちっと両手をみくねえは合わせると銃を拾って、ズボンにしまった。


 「みくねえ、何で、お腹の辺りが血で染まってるの?」


 「!?そ、それは」


 ブラジャーとパンツしか付けていないのも少々気になる点だが、問題はそこじゃない。なぜ腹部の色が少し血の色に寄ってるのか?


 「えっと、返り血を浴びたのよ!」


 「なーんだ返り血か!」


 俺は納得し、みくねえに服を着るよう勧めるのだった。


ーーーー


 「服を着れって言ってもねえ」


 時刻は正午くらい、今はみくねえの服を探しに服屋に来ている。


 「本当に何もないね…」


 服屋くらいは服があると思っていたが、服屋にすら何も残っていないなんて、


 「一旦家に帰る?」


 家に帰れば服と、そこそこの量の食糧があると思うが、


 「危険よ、リスクが大きすぎる」


 当然だ、ゾンビは家の方から広がり出したんだから。


 『ババババババ』


 ヘリコプターの飛行音がする、きっと救援が来たのだろう。


 残された俺たちは一体…


 「マイナスなことは考えないほうがいいよ」


 みくねえは俺の思考を読むようにそう言う。


 「だって、助けがもう来ないかもしれない…」


 「なーに言ってんの!私が居るじゃん!ははっ」


 そう乾いた笑い声をみくねえがあげると、俺はもっと不安に苛まれた。


ーーーー


 「服見つけた!」


 みくねえが服とズボンを見つけたようだ、都合よく食料とかあってくれれば…


 「なんかカンパンが落ちてるけど…」


 俺はカンパンを見つけた、やったこれで食料は…


 『バッッ』


 「…な!?」


 なんと突如どこからか現れた子供がカンパンを奪っていったのだった。


 「ま、待てー!」


 「ちっ!」


 子供が必死に走って逃げる、俺はみくねえと自然的に離れてしまい、その子供を追いかけた。


 俺は服屋の外に逃げた子供を追いかけ、追いかけ、しばらくした行き止まりの裏路地で、子供が足を止めた。


 「は、はあ、返してくれる、かな?」


 「………」


 見たところ、子供は小学校下学年くらいの大きさの子供で、足がとても速い。


 「理由は知らないけど、とりあえず、返してくれるかな?それとも何か大きな理由があるの?」


 俺はその子供に問う。子供は、


 「…嫌だ…」


 子供のたった一言だった。でもその一言が、俺に恐怖感を与えるには充分だった。なぜなら、その子供の背後には、居たのだ、


 「君嶋さん…?」


 そう、あの時、噛まれている、いや、死んだかゾンビになっているであろう、君嶋さんが居たのだ。


 「ああ、橋田さんでしたか」


 「姉ちゃん、この人知ってるの?」


 すると君嶋さんは笑顔でこう答える。


 「ええ、同じ中学の同級生で、


 すると君嶋さんは笑顔でこう続ける。


 「あの時、私が助けを求めてたの、知ってるでしょ?」


 「……」


 俺は首元に危機感の冷や汗を募らせる。


 「姉ちゃん、恨みがあるならやっちゃえば?」


 「ええ、それがいいわね」


 すると君嶋さんは真顔になったかと思ったら、ズボンのポケットから催涙スプレーを取り出した。


 俺はその催涙スプレーを弾こうと、君嶋さんの右手に手を伸ばす、


 『パシッ』


 見事催涙スプレーは弾く事が出来た、しかし、


 

 



 俺は横に避けたが、伸びている爪が、俺の肩先を少し掠ったのだった。


 「あーもう感染しちゃったねー」


 「凄いよお姉ちゃん!やっぱ強い!」


 俺は途端に心臓が痛くなる、心拍数は上がり、世界がぐるぐる本当に回っているみたいに、目眩がする。


 「きゃはっ!後は、見捨てられた私の気持ちを理解してもらうために、じわじわなぶり殺してあげるわ」


 「うっ…」


 視界が緑色に変化していく、俺はこんな所で、無様に死ぬのか…


 俺は隙を突いて目潰しを仕掛けるも、躱されてしまい、


 「ああ、無駄だよ、私はゾンビで再生するから」


 「そんな…」


 最期の望みも消え去り、俺はただこの女になぶり殺される、それが、俺の最期だと言うことを思い知らされる。


 「ぐわっ!」


 「あはは、あはははは!」


 催涙スプレーを突如目に浴びせられ、俺は絶句する。


 「そうねえ、あなた顔は綺麗だし、生かしてあげるわ」


 俺は催涙スプレーを喰らい、目があり得ない程痛み、両目を抑えていた。


 「ただし、あの一緒にいた女はどこ?」


 「……」


 「どこかって訊いてんだよ!」


 俺は彼女の言葉を無視し、一刻も早く回復できるよう、そして、また起こる戦いに備えて、身構えた。


 「言わない」


 「あ、そう、じゃああんたを殺るまでね」


 君嶋さんは尖った爪を自らの腕に刺し、爪の先端に自らの緑色の血液を付着させた。


 『バン!』


 そう銃声が聴こえると、君嶋さんは頭を撃ち抜かれていた。


 


 



 


 


 






























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