第4話 凄惨
「はあ、はあ、ここまでくれば安心か」
「そうね、さっきは死ぬかと思ったわ」
しかし、辺りに人は殆ど居ない、いるのは地べたに寝転んでいる手遅れな感染者だ。
「キャアー!!」
遠くで黄色い悲鳴が聴こえる。終わりだ、既に、きっと手遅れなんだ、という現実を思い知らされる。
こうして俺はまた吐いた。
みくねえは口の端に白いふきでものが出ていたので、吐くのを堪えているようにも見えた。
一通り吐くと、俺とみくねえは互いに肩を貸し合い、父さんの職場へ向かう。
「助けて!そこの人!」
声の方向を見るに、割と遠い、五十メートルくらいだろうか、しかし、五十メートル先にはゾンビと一人の俺と同い年くらいの少女がエンカウンターしていた。
「助けて!」
「みくねえ、助けよう!?」
「………」
みくねえは無言の様子、しかも、襲われかけている少女は、同じ中学で同じクラスの君嶋さんだった、
君嶋さんは短い薄茶色の髪の毛を、緋色に染め、必死にゾンビに抵抗していた。
「みくねえ!ねえってば!」
「無理だわ…」
そう一言、俺の肩を強く支え、また前に向かって歩き始めたのだった。
「離して!離してよ!近づかないで!」
「ガルッガルルルル!」
「キャア、あっ…」
肉を貪る音がする。俺は聴きたくなくて、耳を塞いだ。
(ごめん、助けてあげられなくて)
俺たちは父さんの職場への道を急いだ。
ーーーー
「生存者は、屋上へ上がってください!」
俺は大型ショッピングモールの中にいた。まだ入り口付近にはゾンビは居ないが、時間の問題だろう、早く、避難しないと。
「みくねえ、ここで医療キット探そう」
「うん、でも涼太が先に使って」
「…分かった」
俺とみくねえは建物へ入るやいなや、驚いた、
「「なにもない!?」」
そう、全部売り切れていたのだ。
そしてまた絶望する、食糧は?医薬品は?衣服は?この先の展望が一気に真っ暗になった。
「きっと屋上に行っても、ね」
「うん」
この傷があって出血してる背中を持つ女性と、片腕がない少年を不審に思わない人が居るだろうか?もしかしたら殺されるかもしれない、
「やっぱり父さんの職場に行こう」
こうしてまた父さんの職場に向かって歩み始めた、
町から人の気配がすっかり無くなっている、いや何かがおかしい、
次の瞬間、
「ヒャッハー、餌が来たぜぇぇぇ」
「お前らぁー殺せえ!」
路地裏から半グレのような服装をした男達が飛び出してきた。
半グレ達はバットで一発俺たちの頭をかち割り、みくねえと俺を引き離した、
「みくねえ!」
「涼太!」
男達は下卑た笑みを浮かべ、みくねえに寄っていった。
「いい女じゃねえか、あん?」
声と同時に持っていたバットを地面のコンクリに叩きつけ、金属の『カンッ』という音が辺りに響く。
「兄貴、こいつらゾンビじゃないようですよ」
「んな事知ってんだよ、俺はこの危機を利用して美味しい思いをしてえからなあ!」
また男がバットをコンクリに叩きつけ、択を迫った、
「お前が俺においしく食べられるのと、このガキが殺されるのと、どっちがいい?あ、金とかはもちろん貰っていくけど」
「……」
「どっちだって訊いてんだよ!」
男はまたバットをコンクリに叩きつけ、今度はコンクリートが少し凹んだ。
「っ!…私を食べてください」
「よく言ったよく言った、褒美にこの少年はたす……」
「けないっ!」
『ブンっ』
それから俺の意識は途絶えた。
ーーーー
「そんなっ、助けるって言ったじゃないですか!」
「悪党の言葉を馬鹿正直に信じる奴がいるかボケ」
私の名前は横島美久、今、最大のピンチに立たされている。
「涼太!」
「はははwこいつ涼太って言うのか!だっせえ名前してんなw」
「「「「ですね兄貴!」」」」
私は怒りで殴りかかろうとした、しかし、男の一人が私を殴り、私も気絶しかけていた。
「おいおい、強く殴りすぎだ、お前。女はこれから必要になってくるだろ、
「はい、今後気をつけます」
私を商品扱い、売春でもするつもりかこいつら、でも見たところ人数は五人、きっと戦っても負けるのは確実、おまけに私は負傷している。
「服を脱げ!」
「えっ」
「聞こえなかったのか、じゃあお仕置きが必要だなあ」
男は私が着ていたTシャツを無理やり脱がせた。
「ほら、お前ら貴重な女の子のおっ◯いだぞー」
ブラを付けているが男達はさらにブラまで外そうとしてきた。
私は抵抗するのを諦めた、もうきっと無駄だ。
「ほら、それは自分で取ってみろよw」
「兄貴ぃやりますねー!」
私は微かな意識でブラを取ろうとした。
次の刹那
バンッ
銃声が一発鳴り、私の前にいたリーダー格の男は頭から血を流して倒れた。
また一発、二発、三発、そして最後の一人が私を人質にして、
「この女を生かしたけりゃ、俺に近づくな!」
そして銃を撃った何者かが影から現れた。
「涼治さん!」
何者かは涼太の父親だったのだ、銃を持っている理由は分からないが、なぜだか、脇腹が大きく抉れている。
そして最後の一発が鳴ると男は倒れ、間一髪の所で私と涼太は助かった。
「涼治さん!大丈夫ですか!?」
私は服装など気にしている場合ではないと思い、そのままの服装で涼治さんの元へ駆け寄った。
「ああ、だい、じょう、ぶだ、その前に、薬を」
「涼治さん!?」
「どうしてこんな傷を!?教えてください!」
「施設で研究していた、猛獣が脱走、してね、銃で対応したのだ、けど、逃げられ、てしまって、そしてその時に、もらったって感じだね、ははっ」
私はズボンを使って、涼治さんの脇腹に強く巻きつけた。
「涼治さん!あなたは生きて、大勢の命を救う使命があります!どうか、死なないでください!」
「無理だよ、だってウイルスにも、きっと、感染してるだろうし」
「涼治さん…」
最悪の現実、救ってくれる人、私にとって涼治さんはそんな人だった。そうであってほしかった。
「だから、この、薬を、使って、美久ちゃんと涼太で、二人で、生きるんだ、この薬は治療薬と、ワクチンの二つの、作用があるんだ、だから、生きて」
そこには緑色の薬が入っている注射器が二本のあった。
「気付いてないだろうけど、美久ちゃんは感染しているのに、症状が出ない、無症状病原体保有者なんだよ、だから、日本に入ってきたばっかりのウイルスが、こんな田舎に来たんだ。美久ちゃんが悪いわけじゃない、だけど、自覚しておかないと、いつか自分を傷つける刃になる」
私は何も言えなかった。私は日本初の感染者とよく話していて、アフリカ観光の話も聞いた。
『でさ、現地の人がさ…』
『めっちゃいいねそれ、私も今度行きたい!』
一番近くに居たのに、症状が出る余光は一つもなく、周りの人たちは長い間同じ空間に居るだけでも感染するというのに、私は彼が帰国してから一番、彼の側にいたが、私に症状は表れなかった。
「あああ…そんな…嘘…」
「嘘じゃ、ないさ、ゴフッ、早く薬を…」
私は迷った。生きるべきか、死ぬべきか、私は注射器を一本受け取り、涼太に薬を注入した。
しかし、私が再び戻ってくると、
涼治さんはこと切れていた
「涼治さん…そんな…」
顔を触るも体温がなく、氷のように冷たい。
私は一度、自らの腹を彼が持っていた銃で撃った。
醜い体を貫通する音、そして貫通した部分が自然に塞がったこと、痛みを感じなかったこと、私は悟った。
『このままでいいや』
と、残ったもう一本の注射器はもしもの為に取っておくことにした。
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