第3話 パンデミック開始Ⅱ


 「母さん!戻ってきて!」


 「ガルッグルルルル!」


 に居たのは、母さんでもない、ただの緑色の体をした、ゾンビだった。そしてドアを開けると同時に、


 「何これっくっさ!」


 腐臭が部屋の外まで漂い、外に居たみくねえの鼻を突く。俺はとっくの前に吐いているので、吐く気も起こらなかったけど。


 「ガルルルル!ガアッ!」


 まるで狂犬のように襲い掛かってきたゾンビは、俺の身体を捕食しようとしてくるが、俺は回避した。


 「ガリッ」


 壁が削れた、木でできた木製の壁だったが、ゾンビの一掻きで、大分削れてしまった。


 (これは…当たったら死ぬな)


 俺はそう判断しすぐ部屋の外に出るやいなや、包丁の準備をした。


 「ガアッ!」


 襲ってきたゾンビは、足下のトラップに掛かり、転けてうつ伏せの状態になった。


 「今よ!」


 俺は持っていた包丁を奴の心臓近くのところに滅多刺しした。一回刺す毎に出てくる不気味な血、しかし、何回か刺したところで血が凝固し始めた。


 「ガルッ!ガルッ!ウウウウウ!」


 段々包丁が体に刺しにくくなってき始めた、なぜだ?


 「涼太!ゾンビこいつの血の何かがおかしい!」


 「分かってるよ!でも段々包丁が刺しにくきなっていってるんだよ!」


 包丁を抜き差しする感覚が段々硬くなっていっているように感じる。きっと気のせいではない、とすれば、このゾンビの血がおかしい。


 「どうする?もう逃げるしかなくない!?」


 「俺もそう思う!こいつには多分勝てない!」


 俺はとうとう抜き差ししていた包丁がゾンビに刺さったまま、手を離してしまった、つまるところ引っこ抜けない状況に陥った。

 

 「ガルルル、ウウウウウ」


 ゾンビは俺が与えた傷のお陰でうめいて、多少の時間は稼いでいるが、


 「もう火を付けるよ!」


 「うん、早く!」


 マッチを付けてゾンビにまずは一つ投げる、しかし、ゾンビはマッチを避け、床に炎が燃え広がるのだった。


 「ガルルルルッガアッッッ!」


 ゾンビは部屋の中へ入り、部屋の中の窓から、


 


 「みくねえ!」


 「なに!」


 「あいつが、逃げた…」


 「嘘でしょ…」


 俺たちは絶望に駆られた、そう、俺たちはこの悲劇を止める事ができなく、きっとこれから襲う悲劇も止める事ができないのだろう。


 俺は急いで一階に降り、玄関を出てゾンビの跡を追った。しかし、もう既に、地獄と化していたのだった。


 まず家の周りの道路で血を流して倒れている人が二人、既に体が緑色になりかけている人が一人、現在進行形で襲われている人が一人、もう助からないだろう


 「嘘だ…」


 俺は膝から崩れ落ちた。なぜなら俺が、これから起こる、大災害がいとも簡単に予測できてしまったからだ、


 「とりあえず、安全な所に逃げよう!?ね?」


 みくねえにそう言われると、俺は漠然とする光景にこう言うしかなかった。


 「安全な所って何処だよ、もうパンデミックは始まった。きっとこの町も封鎖されて、最後に爆弾が…」


 言い掛けたところでみくねえに頬を叩かれた、同時に、側で倒れていたゾンビに噛まれたであろう男性がこちらへ向かってきた。だが、みくねえは気づいていないようだった。


 「あのね、いくらなんでも言っていいことと悪いことくらいの区別くらいはつくはずよ、だから言っ…」


 「みくねえ!後ろ!」


 次の刹那


 ゾンビはみくねえのうなじに飛びつくと噛もうとした、しかしみくねえも咄嗟の判断で、横に寝転がって回避した。


 「っ…く」


 「みくねえ!」


 噛まれなかったものの、みくねえはゾンビの鋭く尖った爪をうなじから背中にかけてもらってしまい、出血していた。


 「みくねえ!逃げよう!何処か安全な場所は…そうだ!父さんの職場なら、父さんならきっと薬を開発してくれるはず!」


 俺は泣き半分、嘘の笑い半分の表情でみくねえに告げた、しかしみくねえは、


 「無理だわ、一緒に行ってる途中にあなたをゾンビにすることなんてできない。私をこの場に置いて、安全なところへ…」


 みくねえは俺を抱きしめて、そう言った。


 「嫌だよ、みくねえ…母さんも居なくなったのに、みくねえが居なくなったら俺はもう、生きてはいけないよ」


 この間もみくねえを引っ掻いたゾンビはゆっくりとこっちに近づいてきている、クソっ、


 「死にたくないよ…」


 か細い声でそう言うみくねえ、クソっ、俺が、俺が、何か悪い事をしましたか、なぜ俺から大切なものを奪うのですか、


 「もういい、やってやる」


 「え、ちょっとっ」


 俺は怒りで、力任せにソンビに右拳を放った。するとどうだろうか、ゾンビは五メートル程前方へ吹っ飛んだ。


 「俺、なのか?」


 自らの拳にじんわりと痛みを感じるかと思ったら、肉が抉れて骨が肉に刺さっていた、不思議と痛みというものを感じない。


 (なぜ痛みを感じないんだ?)


 するとまたゾンビが襲ってきたので、俺は右の拳をまた放った。今度は避けられて腕を噛まれてしまった、しかし、左手でゾンビの頭部を掴み、今度は思いっきり遠くに放り投げた。


 (これってあれか、映画とかで観る、みたいな、俺ってゾンビの才能があったのか?)


 と思った瞬間に噛まれた部分の血管から緑色になってる事に気がついた。


 (違う!俺はゾンビなんかじゃない、ただ筋肉のリミッターが外れていただけだ)


 世間で言う、火事場の馬鹿力というものを、自らの腕を犠牲に発揮できていたまでだということだったのだ。


 (じゃあ噛まれたのはまずくないか!?)


 俺は近くにあった大きめのガラス片を腕の根元の部分に置き、体重をかけて、


 


 「涼太!」


 「こうするしかないんだ!みくねえを、生きて帰したい!」


 俺は血の付いたガラス片をゾンビに投げた、ゾンビにそれは当たるも、めり込むだけで出血はしなかった。


 「くそっ、もう血が固まり始めたのか!?」


 俺はみくねえに肩を貸し、自らが着ていたTシャツの布を破り、腕を止血した。しかし血はまだ溢れてくる。


 「何やともあれ父さんの職場に行くか、病院に行くか、どっち?」


 「病院はこういう場合、機能していないだろうから、行くなら涼太の父さんの職場だろうね」


 「分かった、急ごう」


 俺とみくねえはあるだけガラスをゾンビに投げ、父さんの職場への道を急いだ。




 


 


 

 

 











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る