第9話 マーシャの自宅

「お、お邪魔します」


 控えめな声で緊張しながら、ステファンはマーシャの自宅にお邪魔する。


「いらっしゃい! 私の部屋にどうぞ! 」


 マーシャの誘導に従い、ステファンは彼女の自室に通される。


 部屋はきれいに掃除されており、ベッドには可愛らしいうさぎやクマのぬいぐるみがある。


「ここで待っててくださいね。私の家はケーキ屋さんを営んでいますから美味しい食べ物をたくさん用意できるんですよ」


 バタバタしながら、マーシャは階段を降り、1階に移動する。


 その間にも、ステファンは部屋の中を見渡す。


(この部屋……なんだか落ち着く)


 自分の家にはない暖かさを感じると、ステファンは少しだけ心が安らいだ。


 しばらくすると、階段から足音が聞こえてくる。


「ごめんなさい、待たせちゃいましたよね? 」


 両手いっぱいにクッキーを乗せた皿を持ちながら、申し訳なさそうにするマーシャ。チョコ味とプレーン味が左右に載る。


「ううん、大丈夫だよ。それよりその量は大変じゃない? 手伝おうか? 」


 そんなマーシャにステファンは優しく微笑む。


「いえいえ、お客様に手伝わせるなんてできませんよ〜。それに、私一人でこれくらい持てますから」


 そう言って、胸を張るマーシャだが、腕に抱えた皿からは今にもクッキーが落ちそうだ。


「そっか……じゃあ、僕が持つよ」


「えっ!?」


 突然の提案に驚くマーシャだったが、すぐに笑顔になる。


「ありがとうございます。助かります」


 ステファンは勉強机に2枚の皿を置く。


「あっ……」


 ふと、目に入ったのは先ほどまで見ていた写真だった。そこには家族で写っているマーシャの姿があった。


「それですか? これは去年の家族旅行の写真です。懐かしいな〜」


 ステファンは写真を眺める。そこには幸せそうなマーシャの家族がいた。


「マーシャってお母さん似なんだね」


「はい、よく言われます。でも性格だけはお父さんに似てほしいですね。私が言うのもあれですけど、結構ドジなので……」


 苦笑いを浮かべながら答えるマーシャを見て、ステファンはクスッと笑う。


「いいと思うよ。僕はそういうところも含めて君の個性だから」


「へっ?」


 突然の言葉に驚きを隠せないマーシャ。


 しかし、すぐに理解して顔を赤らめる。


「もう……変なこと言わないでくださいよ」


 照れ隠しなのか、マーシャは頬を膨らませる。


(かわいいな)


 そんな彼女を見て、自然と笑みがこぼれる。そのような感情を抱くのはマーシャが美少女なのも大きな要因だろう。


「と、とにかく! 我が家の特製クッキーを食べてください!」


 気を取り直して、マーシャはクッキーを食べるように促す。


「わ。わかった」


 ぎこちなくステファンは返事をする。


「では、いただきます! 」


 ステファンは両手を合わせて食事の挨拶をする。


 まずチョコのクッキーから口に運ぶ。


 サクサクとした食感に程よく甘みのある風味が口に広がる。とても美味しかった。


「どうですか? 」


 感想を求めるマーシャ。


「すごくおいしいよ。毎日食べたいくらいだ」


「本当ですか!? よかった〜」


 満面の笑みを見せるマーシャ。


「お世辞抜きで本当においしいよ」


 ステファンの言葉を聞いて、マーシャはさらに喜ぶ。


「えへへ〜。嬉しいです。クッキーを好き放題食べてもらうのがお礼ですので。じゃんじゃん食べてくださいね! 」


 そう言って、マーシャは皿を差し出す。


「ありがとう。じゃあ遠慮なくいただくよ」


 それからは二人で会話をしながら、お菓子を楽しんだ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、日が沈むまで楽しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る