第8話 共に下校

「本日はありがとうございました。アサカ先生もいじめに対処してくれるとおっしゃてくれました。少し安心しました」


 マーシャはステファンに頭を下げる。


「気にしなくていいよ。大したことしてないから」


「そんなことありません! 本当に、心強かったです!」


 マーシャが力強く言うと、ステファンは照れたように微笑んだ。マーシャの顔は真剣だ。


「ふふっ。それはよかった。マーシャの役に立てたのなら」


 ステファンは薄く口元を緩める。こんな気持ちは人生で始まった。前の世界では決して味わえなかった感覚だ。前の世界で、ステファンは他者の役に立った感覚を経験しなかった。


 いつも自分のことで精一杯で他人のことなど考えている余裕がなかったのだ。しかし今の彼は違う。


 この世界に来て、他人のために行動することができた。それが良いことなのか悪いことなのか分からない。けれど今はとても充実している。だから彼は笑みを浮かべることができた。


「……あの、ここまでお世話になりましたので。何かお礼をさせてくれませんか? 」


「いや、別にいいよ」


 ステファンはあっさり断る。お礼など受け取る義理は無い。


「いえ! そういうわけにはいきません!」


 マーシャはぐっと拳を握る。そして決意に満ちた瞳で彼を見つめた。


「私が納得できません。ですので、どうかお礼をさせてください。でないと私がモヤモヤしますから」


 そう言ってマーシャはぺこりと頭を下げた。


(参ったな)


 困惑し、ステファンは頬を掻く。どうやらマーシャは引く気がないようだ。表情から見て取れる。


「分かったよ。お言葉に甘えて」


 彼女の押しの強さに押されてステファンは苦笑いする。


 するとマーシャはパアッと顔を輝かせた。


「はい! なんでも仰ってくださいね! あ、でも私お金あんまり持ってないので……その、あまり高価なものは無理ですけど……」


「大丈夫だよ。高級な品を買えだなんて要求はしないから」


「ほっ。それなら安心しました」


 ホッとした様子のマーシャを見てステファンは小さく笑う。


「じゃあ早速だけど、どんなお礼をしてくれるの? 」


「はい! とりあえず私の家に来てもらえますか?」


「…はい? 」


 予想外の返答だったのか、ステファンは目を丸くした。


「どうしたのですか? 呆然として。いきますよ私の自宅に! 」


「……う、うん」


 満面の笑顔のマーシャとは対照的に、ステファンは戸惑い気味だ。


「さぁ、私が誘導しますから付いてきてくださいね」


 こうして二人はマーシャの自宅に向かうことになった。

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