第10話 玉砕

――彼女達が桜の元にたどり着く、少し前。


「どわぁ!?」

ガメはいきなり、階段の下へ落下した。

自身が立っていた筈の石段に、穴が空いた様だ。


「イテテッ…。んだよ…落とし穴ぁ?」

辺りを見る。

真っ暗であった。一寸先もそれは暗闇。ただ黒い空間がそこにはあった。

「……ここは…」

いきなりの事に困惑するガメは、暗黒から声を掛けられた。

「ここは、俺の結界だよ~」


明るく軽い声だった。

その声がした方を向くと、黒い何かが立っていた。

怪異…と言うやつだろうか…。

全身が真っ黒で、よく見れば周りを手のような物がヒラヒラと浮かんでいる。

全身が真っ黒な…、『ヤツ』はこの空間に溶け込んでおり…その一声までガメは気づかなかった。

「…怪異?」

「俺は…『CD』…妖怪だぜ?そこらの陰気の塊と一緒にすんな…」

全身真っ黒な妖怪。彼は『CD』と言う名らしい…。随分とお怒りの様子の彼は、その不機嫌そうな声色で話を続ける。


「はぁあ…まっさか、男とはなぁー…。暑苦しいの嫌いなんだよー…」

「…男で悪かったな」


彼の遠慮の無い言葉にガメは少し腹を立たせる。


「ここ…あんたの結界って言ってたが……。俺をここに閉じ込めた理由はなんだ?…おまえは何なんだ?」

「………理由か。…理由はねー…………おまえを殺す為?」


彼の『正体』に対する回答を待つ前に、それは始まった。


彼の目が鋭くなったその瞬間、ガメは何かが迫って来るのに気づき、咄嗟に屈む。

「……うぉっ!」

自身の頭スレスレを何かが通りすぎた。

斬撃…?

「……………言っておくけどー…この結界に入った時点で、おまえは負けてんだよねー」

「……ッ!!かはっ…!」

瞬きをする程、短い一瞬……ガメの肉体に物理的な痛みが走った。

重く、鋭い。斬撃の様な何かが彼を斬り付け、紙切れの様に軽く吹き飛ばした。


「うごっ…がはっ!!」


黒い空間を転がり、見上げる。

CD。奴は今、何をした?

目にも止まらない一瞬で、攻撃が飛んできた。いや、表れたに近い。

何の能力だ……?この結界の“効果”は……?

「へー。細切れになんないんだ~?妖気が体を守ってるのか……?…どちらにせよ…面倒だな」


「……ッ!!」

上!!


ガメは後ろへ飛ぶ。彼がさっき立っていた位置に何かが衝突し、粉塵が吹き荒れた。

また斬撃が“表れた”様だ。

自身の勘のよさに救われる。もし、結界に引きずり込まれたのが彼では無く、ソルフィであったら…彼女は細切れになっている可能性があるなと…ガメは考えた。


「確かに…怖ぇ攻撃してるが……無理ゲーってわけじゃ無さそうだな?」

「………減らず口も大概にしろよ?」

ノールックで攻撃が来る。体感、数も尋常じゃ無いだろう…。

自分を狙う神出鬼没・正体不明の斬撃。なかなかレベルが高い…。ガメは…この無数の攻撃を避け、俊敏に彼へ近づいた。

ヤツのグルグルと渦巻く顔……その中心に目が一つだけある。……不気味だ。

ヤツは顔色変えずに、その冷ややかな目でガメの動きを追っている。強者の余裕…と言いたげである。

「…あんま舐めんなよ。【毒牙ドクガッ!!】」

そんな舐め腐った彼へ、怒りを込めて一撃叩き込んだ。


「【ッ!!!】」

拳を握りしめ、殴り掛かった。

しかしそれは、パッ…と掌で受け止められてしまった。

「……っ」

「ははっ!ざんねーん!」

しかし……

「…ア?……ゥッ!?」

衝撃が走る。


「おい…」

謎の打撃?いや…爆撃が…発生した。

「てめぇがどんくらいすげぇ妖怪か知らねぇけどよ………。…あんまカメレオン舐めんな…!」


毒牙ドクガばく

彼自己流の技、【毒牙ドクガ】。それは毒を溜め込み、様々な攻撃へ転用する技。

『溜め込む位置により、その技はガラリと変わり…その変化は余り見分けがつかない』

と言う利点がある。


彼は握る拳の中に毒を溜め、打撃と共に、『気』でそれを破裂させた。

その時生じた力が、爆風の様な衝撃を生み出し、凄まじい威力を出力したのだ。



「うごっ!?」

彼の拳は、ヒラヒラと浮かびながら受け止めていた掌を破壊し、その生意気な顔面へ拳を叩き込んだ。

衝撃波と共に吹き飛ぶ妖怪。結界に衝突したのか、その黒い空間にひびを入れ粉々に粉砕した。

結界が砕け、空間は変わる。

「………?何処だここ…」

元の位置に戻る…と思ったが、空間は違った。

“駅のホーム”。そう思わせる見た目の『そこ』は、さっきまでの異界の様な世界観とは違い…現代的で不気味な世界だった。


誰もいない、薄暗い地下鉄のホーム。

そんな空間に戸惑っていると、彼は出っ鼻をくじかれた。

「うごッ…!!!……斬撃!?あいつはぶっ飛ばしたはず…っ」

見えない斬撃。それが再び、彼を襲った。

死角からの攻撃に、ガメは軽く吹き飛ばされる。


その先に待っていたのは、黒く大きな『ヤツ』。

超現実的な大きさだった。伸びる影の様で、大きさが合わない。

『CD』。彼はその手を仏の様に合わせ、ガメへ何か…


エラーが発生した様に、彼の身体が乱れる。

そして…カメレオンの魔物は、人の姿へ戻ってしまうのだった。

「なに…!?」

「びっくりした?これが…俺の結界の『正体』」


さっきまで、巨大だった筈の影は元のサイズに戻っており…さっきと同じ空気感で喋っていた。

。その形を掴むことは決して無い…未知の領域…【一人アンノウン!!】」


近くも遠くも感じる不安定な空間。無から斬撃が生まれ、無から彼の力を奪う。

この空間にいるモノは形を掴みとれづ、次々と形を変えて行く。

奇怪なその空間は、『彼の言うとおり』…入れば最後…引きずり込まれた者はその時点で敗けが確定さている様な物だ。

「で…どう?さっきまでお前、俺のこと舐めてたみたいだけど……。お前こそ……『オレタチ』舐めんな」


人の姿へ戻されてしまったガメ。この状態では、カメレオン時の様な防御力は出せない。

さっきは無事だった斬撃も、今では致命傷になり得る。

今の彼には、もはや逃げ回るしか選択肢は無い様だ。

「チッ…!!」

彼は走り出した。すぐ横を斬撃は通りすぎる。

バゴンッ!!と無数の斬撃が壁や床を破壊し、瓦礫と共にガメを狙う。

冷たい冷や汗が頬を伝うのを感じる。



走る。景色が変わった。

駅のホームは次の柱を通りすぎたタイミングで、改札口へ変わった。

「…っ!?」

円形の広い空間。隠れる場所が少ない…。

この空間の家主は、彼の近くへ出現し、その背中に触れた。

「ッ!!【毒牙ッ斬ッ!!!】」

切り裂き、彼を突き放す。

その次の瞬間。


血が溢れる。彼の背中に4つの切り傷が着いた。

影が触れた部位に、刃物で切られた様な痛みと傷が出来た。


「がっ…!くそ…ッ!!」

怯まず動き出す。ここで足を止めれば、きっとみじん切り。ひき肉の仲間入りだ。

それだけは、回避しなければいけない。

「おいおい!背中から血が出てんのに元気だなー……【トウッ!!】」

斬撃が始まった。

ガメは頻発に飛んで来る斬撃を必死にかわす。

柱が上下に倒れたり、左右に割れたり。

はたまた、天井が崩れ瓦礫の山が完成したり。

どれ程これを避けているかはわからない。

だがしかし…それは突然訪れる。


斬撃で吹き飛ばされた瓦礫を避けたすぐ後だ。

空間は変化する。

竹林。

「…ッ!?ちくしょう…っ!また変わりやがった…ッ!!」

慣れて来たタイミングで変わる『変幻自在の結界』。彼を倒す為、妨害を行う。

この結界内で完璧に避け付けるのは無理かも知れない。

ほら。

「ッ!!グッ!!」

ガメは暗闇から飛んで来た斬撃に掠ってしまい、腕に傷を作った。

風圧で飛んで行くかれ。目を開けば、そこは高層ビルの屋上。

大都会の風景であった。


ガメは動く。

気を抜く隙など無い。

ただ、彼の行動は遅かった様だ。

「……っ…!!」

彼の腹部に影の掌が触れ、そこに切り傷が出来る。

「ぶはっ…!」

影は後退する彼を逃がさない。

至近距離の《居合い》は、遠距離の《斬撃》へ変化する。

「……ぐはっ」

無数の斬撃。ガメはそれを食らいながら考えた。


一つは切り裂く居合い。高出力、高威力。

二つは空間ごと抉り取る斬撃。居合いより威力は落ちるが、瞬発かつ手数が多い。

この手強い技の二種の様だ。


影の放った無数で広大な斬撃の数々は、彼の肉体と足元のビルを切り刻む。

ガメは斬撃の数々に吹き飛ばされ、高層ビルから下へ落下。

えぐれるアスファルトの道路が砕け、ガメは真っ暗な闇の中へ突き落とされた。

「……ぐ…はっ……」

結界の素顔。一寸先も真っ暗な闇。

自身が落下した時に開いた穴から光が差しても、そこは照らされない。

ガメの姿が良く見えただけだ。

彼は闇に沈む。



無の空間へ沈み行く彼は、この無理ゲーをどうクリアするだろうか…。

「…(クソゲー………。前にやったクソゲーと全く同じだ。ラスボスの攻撃範囲もめちゃくちゃだし…もはやクリアさせる気がねぇ…。……だが…)」

彼は冷静に物事を考える…。

拳を握り、毒を溜め込む。何をする気だろうか、その目に諦めの色は無い。


「(前に…戦いかたを教えてくれた女が言っていた…。『不完全な結界術は、物理攻撃に弱い』…と。)」

ガメはCDとの初戦を思い出す。

あの結界のひびは本物だろう。一度砕け、再構築を速く行った可能性が高い。

こいつの『結界はまだ不完全』。その可能性に彼は一握りの希望を見出だした。


これは…賭けだ。

この一撃に全てを込める。この一撃がこの無理難題を破壊することを期待する。

もし…違えば、この賭けは彼の負け。

毒牙を合わせる。

「……【毒牙・壊】【毒牙・破】【毒牙・爆】」

持ち得る限り、破壊力のある技を掛け合わせる。

別々の技の掛け合わせは身体への負担が大きい。

これを使用した後、彼の動きに支障が出るのは目に見える。

だが…この状態から抜け出すにはこの手しか無い。

今の彼では結界術は使えず、結界を張られた時の対策も無いが為……相手の結界の不完全さに賭けざる終えなかった。


後がない彼はさらに力を込める。

この一撃…この判断が…すべてを覆すことを願って…。

その拳から漏れ出る毒と妖気は紫色の炎の様に靡き、真っ暗な暗闇を明るく照らしていた。


「【……毒牙ッ!!『砕』ッ!!!】」


紫の流星が闇夜に落下。

底に着いた彼の拳は、衝撃波を放ち、その暗闇をグラグラと揺らした。


ひびが入り、砕ける。

彼の思惑賭けは上手く行った。

CD。彼がまだ未熟者であり、結界その力を過信し過ぎていた。その結果…彼の拳は不完全な結界に届いた。

結界はその破壊の衝撃に形を保てなくなり、崩壊を始めた。


「ッ!はぁ…!?」

崩壊するアンノウン。正体不明の暗闇は、彼の一撃により、何も無い砂漠へと変貌。

もう、さっきまでの効力は無い。


「明るくなってやっと姿が見えたが……おまえ…手が浮いてるし…足無ぇじゃねえか。」

「ははっ…そりゃ、妖怪だからな。お前だって…カメレオンだろ?」

「…はっ。まだ軽口言える余裕あんのか?」


ガメはカメレオンの姿へ再び変化する。


「……いいや…」


イカサマはもう使えない。ここからは、互いのフィジカル勝負。

力が強い方が…この場を征する。

すでにガメの土壌だ。





荒れ果てた砂漠で戦闘を始めるガメ。

そんな彼とは真逆に、ソルフィは沼底へ沈みながら血を流す。

「ぐふっ!!【チェンジ…!】」

「…―腕。(………さっきから…チマチマと…速く終わらせてサボりたいのに……)」

その時、深海はグラリっ…と揺れた。

「(…!?…なんだ……?結界を近くで張っている……CDの結界か?…向こうで何かあった……?)」

いきなりの揺れによそ見をした彼。

ソルフィを視界に戻した時には、そこに彼女はいなかった。



「……ん?(……どこ行った?…この空間に…逃げ場があるはず………)」

ソルフィは思わぬ所から、攻撃を向ける。

奴の背後だ。

ソルフィの攻撃手段、『魔法』その利点は手数の多さである。

「……【砕造石クラフト・ストーン】」

水中でも奴に攻撃を与える術……

無数の鋭い石片が形成され、ソルフィは奴へそれを飛ばす。

静かに…息を飲み接近……そして、殺傷力の高い攻撃が水中の怪魔へ向けた。



複数の魔法を駆使し、身を隠し攻撃を仕掛ける時間を設けた。

彼もそれが放たれたギリギリまで気づかなかった。

しかしソルフィもこれだけでは勝てるとは思っていない。

「っ…―守れ!!」

彼の掛け声は水中の何かを動かし、彼の身の回りにバブルボールの様な物を形成し盾にした。

石片はそれに包み込まれる様に受け止められ、『分解』された。

「……!」

「……びっくりした…。(今……どうやって俺の後ろに……。……いや…そんな事は今はどうでもいいか…。また仕掛けられる前に…仕留める。)―舌」


彼が口にした部位に何かは飛んでくる。

ソルフィもその原理は理解できた為、今の所は言われた部位ごとに【チェンジ】を使うか判断している。

「【チェンジ…!】」

慎重に、注意深く…、彼の言葉を聞き漏らさず判断する。

もし間違えれば…致命傷になり得る。


「―腕」

「うぐっ…!」

【チェンジ】は多少のクールタイムが必要。

この性能状……ソルフィとしては…奴に賭けている所がある。

重要部位……『心臓』や『脳』など、ダメージを食らえば不味い部位を二連で狙えわれない事……。

さすがに狙われた場合の対策はあるが……防ぎきるのは厳しい。


必ずこの術には弱点が存在しているだろう……『そうであって欲しい』……現状の彼女の思いである。

「……(こんな考えするの…桜やガメの役割なんだけどね……)……フゥ――――。

闇雲コンフュージョン・ミスト】」

ソルフィは水中の闇に溶ける様に姿を隠した。

「………成る程…そう言う原理か…。魔法は手数が多くでいいね…」


ソルフィは身を隠し、彼に近づく。この繰り返しで仕掛けるつもりの様だ。

「…【水蛇ウォーター!!】」

姿を表し、攻撃。

「おっ…」

水の触手は水中に溶け込みつつ、彼を追撃した。

しかし、彼は人型の生き物だとは思えない程、軽やかに水中を泳ぎ逃げ回る。

その最中、ソルフィの方を向き直り、部位の名を呟く。

「―心臓…ッ!!」

「…っ【チェンジ…ッ!!】」


咄嗟に【チェンジ】を発動。二人の位置が互いに入れ替わる。

彼と入れ替わったソルフィは自身が発動した、【水蛸ウォーター】を諸に食らってしまう。

「くっ…」

「成る程。―脳―」

「はっ…!?」

慌てて額を掌で守り、身体を傾ける。

放たれた弾丸はソルフィの掌を貫き、額に弾痕を着けた。

「(まずい……慌てた…っ!判断ミス!!……だけど…やっぱり連続なら威力は落ちる…!!)」

そう彼女が彼の方へ目線を戻した瞬間。


「……(…俺の【死面相図しめんそうず】は、沼に式神を生息させ操る。対象を視界に入れて、飛ばす位置を決めれば…式は“その方向へ”飛ぶ。)」

彼の指と目がソルフィのある一ヶ所へ向けられる。

「(部位が……その部位の位置が“正確”であれば…ある程……その威力は増し…一直線に“貫通”する。………クールタイムを挟めば…)………――

小さな式神は弾丸の様な速さで、【チェンジ】を連発して発動出来ないソルフィの目へ迫って行った……。

「――――っ!」




ソルフィが追い詰められる中、あの軽口グルグル妖怪は妖術や絡めてをメインとし、戦う戦法だったが為に圧倒的フィジカル差でガメに殴り飛ばされ、砂漠を転がり倒れた。

誰が見てもガメの勝利に見えた。

「…ハハッ…ハッハッハッハッ!!ァハッハッハッ………ハァ―――…」

「あ?」




「なんだ?」とガメが警戒を強め、奴を見つめる。

CDは声を上げる。

「…忘れたとは言わせねぇぞ…!!ここがぁ!!!まだ『結界内』だって事をよぉッ!!!!」

その瞬間、彼の肉体から黒い渦が溢れ出す。

「ッ!?ブラックホール!?」

まるでブラックホールの様に渦巻く『それ』は、無数の“斬撃”…彼は自身の肉体を『それ』へ変化させ、結界内を渦で覆い出した。



「――【崩れ去る均衡グーンドゥーン】――」



「……っ!!やべッ!!!」

ガメは逃げる。

「ブハッハッハッハッハァ――ッ!!!この結界に逃げ場はねぇーぞッ!!!!」

渦の拡大スピードが速く、逃げ切れる気がしない。


「……おいおい!!どうなってんだよ!?」


『この結界が閉じない理由』。彼が強い衝撃を与え、粉々に崩壊した筈の『結界』。

何か妙な状況だ。


結界を張っている目の前の怪しは、もうそれを張り続ける余裕などある筈がなく…。


では何故、未だにこの結界は崩壊しないのか?

その理由はただ一つ。


もう一つ結界が近くに張られている。

そうでなければ…あの時点でこの結界は崩壊している筈だ。


この結界は他者と併用している。

もう一人、結界を展開している人物が戦闘不能にならない限り……

―――この結界が閉じることは決して無い―――。






水中生物は弾丸となり、ソルフィの目と鼻の先まだ迫る。

「……………っ」

彼女の目が貫かれるその寸前に、彼女は自爆覚悟でこの『水だらけの結界内』である魔法を仕様する。

「―――――――【…氷柱アイス】」


パキッ……。彼女は自身の周辺を氷で包み込んだ。

「!?」

氷塊が水中内に浮かぶ。彼女の目を目掛け迫った式神はその氷に巻き込まれ、凍り付いた。

パキッ…パキッ…と氷が伸びる音が聴こえる。

「…(なに?氷……氷魔法か…!自身の周りを包む様に氷を……!)だが…それでは何も出来ないだろ…!!!――砕け!!!」

四方八方から弾丸を放ち、その氷を砕こうとする。

しかし…式神達はその氷に当たるや否や、氷漬けとなり…それ以上動かなくなった。


「っ!?」

ソルフィは観察し続けた。

彼の弱点…彼の戦法…彼の正確。

「……あんたは…冷静沈着…だから…こう言った事に弱いんじゃない?【】」

次の瞬間には、彼はその氷の内側に

「……なっ…!?」

ソルフィと彼の位置が変わったのだ。

「……さらに…!【氷柱アイスッ!!!】」

彼をこの中に閉じ込めた瞬間、何も出来ない様に、氷の成長を促進させ彼を氷漬けにする。

「ぐっ…」


準備は整った。

その手には何処から出したか解らない杖が握られており、その氷の方へ向けていた。

「……有りったけの魔力を…!!」

天体を模した青い球体が着いている杖の先端に、何か力を集中させている。

それと共に魔法陣が展開され、その周辺を光が渦巻く。

「――ハッ!!【星の輝き《メテオール》…!】」

先端から放たれた光は弾丸となり、その氷を粉々に砕く。その中にいた彼をも吹き飛ばし、結界を張っていた者は意識を失った。



―――パキッ。




――結界の崩壊が始まる――




CDともう一人の計画は失敗に終わった。

この空間は崩壊し、ガメもソルフィもその下の暗闇に落ちる。


「は!?えぇーー!!なになに!?なにぃー!?」


状況を読み込めていないソルフィは、混乱。

ガメはここから何処に出るのかを、冷静に考えていた。


「…このまま階段に出るとは考えにくい…。適当な場所に追い出されるか…はたまた……。」


念のため警戒は怠らず、毒牙をその拳に纏っておいた。


闇に落ちる彼ら。このまま行けば、またあの畦道に戻されるだけなのだが……

それでは桜を救えない。

手を回した人物がいる筈なのだ。

そう…魔術師マジシャンが…。


「…さすが…と言っていいね…。まさか、CDとグロッシーを撃破してしまうとは……これはカカオも誤算なんじゃないかな…」


彼はこれをずっと見届けていた。

そして、この瞬間を待っていたのだ。

帽子の鍔を摘まみ、深々と被る。その手に持つステッキを軽く三回振る。そして…呟く。


「――主演のピンチなのだから…君らは助けたいだろう?――」


彼女らの脳内に彼の声が響く。

この言葉で二人は桜の事なのだと…判断し、直ぐに構えた。

「――そう…。それでいい…。救え…君らの姫を…―――」

彼は道を示す様に、指を差す。



…」




空間にヒビを入れた。

彼らが求める場所へ、彼が導く。

この魔術師ぺてん師の目的は解らないが、今の二人には都合が良い。

その策に喜んで乗ろう。


「――【先導者Lead to liar】――」



そのヒビをを砕き、二人はあの空間へ飛び出す。

驚くカカオと空亡木に捕まる桜。

「【毒牙ッ!!!爆ッ!!!!!】」

「【超新星フラッシュ・ノヴァッ!!!】」


この二人が間に合い、三人が揃う。

――影達のが近づいて来るのだった――


               続く

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