第12話 宵月
「うわっ…!?」
落下した。
下に水が張っていたのか、彼女は濡れてしまった。
根を迎え撃とうとした次の瞬間にはこれ。
一瞬だけ、トロールが何をしたのか見えたが…彼が無事なのか心配だ。
だが、戻る手段も無いので、今は言われた通り、核を探すしか無いようだ。
「……結界に…入れたのかな…」
夜空の様に暗い空…星の様な光が点々と光っている。
足元は長草の生えた草原。少し水が張って…水中で何かが青く光っている。
幻想的で不思議な光景だ。
空間を見渡していると、遠くに何かが見えた。
木のようだ。
微かに花を着けているのが見える。
少し目を凝らすと、その下に何かの影が見えた。
「人…?………いや…っ」
その無数の影は人ではなく、無数の怪異の大群。
数千…数億体に及ぶだろう数えきれない程の怪異達。
巨木の下で食物を囲んでドンチャン騒ぎ…。花見をしているのだろう。
…異様な光景だ。
「……あの木が…
異様な存在感の木を見つめ、彼女は核へ近づいて行く。
その彼女を、ある少女が遮った。
彼女の目の前に表れた、黒い着物に身を包んだ黒いおかっぱの少女。
その装いと佇まいはまるで、お姫様の様で桜は彼女の雰囲気に見覚えがあった。
「君は…本屋の……」
あの時、桜の目の前に表れた煙の様に消えてしまった正体不明の少女と瓜二つであった。
しかし――。
「あなたは……お客さんじゃ無いわね」
ゾッ…とした悪寒が桜を襲った。
上品な動きで彼女は桜へ指を向ける。
この感じは、カカオと似ている。と、言うことは――。
ベキッ。と、大地を抉り、少女の動きに合わせた様にあの根が地面から溢れ、桜へ向かった。
「ッ!?」
彼女の手足の様に動き回る巨根。
それは
桜は謎の少女に気を取られ不意を突かれたが、【水しぶき】を上手く扱い、根の攻撃をかわした。
あの少女のことも気になるが、桜が今やるべきことは核の破壊。
「(あの子から気は感じない……。どちらかと言えば…操り人形に近いのか……じゃあ、優先順位は――)」
根の上を駆け、彼女は巨木の方へ向かう。
いくつも根が襲ってきたが、カカオに生命力を分けて貰ったおかげで対応しきれている。
今のところ何も問題は無かった。
しかし、
根を捌き、巨木を目指す桜の視界に黒い
「はっ!?」
気づかぬ間に少女が、桜の横を並走していたのだ。
冷ややかな目が桜を捉え、少女の手に血が
少女から感じる視線は殺気に溢れ、それは彼女が人では無いことをひしひしと感じさせた。
彼女の殺気から…彼女が
「【『
血の刀が振られる。
刀の軌道が血の様に赤黒く染まった。
衝撃波が広範囲に広がり、暴風が吹き荒れた。
桜は【水しぶき】を反対方向に発動し、完全に刀の範囲内から脱出。
しかし、吹き荒れる暴風が彼女の頬に傷を着けた。
「(何だこの威力…っ!)」
風圧に押され、桜は軽々と飛ばされる。
地面に刀を突き刺し、飛んで行く自身の身体を押さえる。
強風の中、立たずむ少女。
――
「……あなたは…何しにここに来たの?……なんで…私の邪魔をするの…?」
少女は口を開く。
純粋に疑問を抱いている小さな少女の声色で桜に問う。
桜は少し考え、口を開いた。
「『宴を止めて――。』」
「――。」
「この言葉が…私をここに連れてきた」
その後、彼女の雰囲気は豹変する
可愛らしい幼い少女は、その眼を見開き忿怒の表情を浮かべる。
「
彼女は天へ手を伸ばす。
そんな彼女の手には傷。
そこから血が流れ出る。
腕から溢れる血が腕を伝い、重力に逆らい、天へ登り、彼女の上空に巨大な血液の球体を作り出した。
その巨大さに桜は面食らう。
「っ!?これは…っ」
「【“
球体は投げ出され、桜へ襲い掛かる。
地面に衝突した血液は破裂し、赤い血液の海が勢い良く、迫ってくる。
「っ…!!【水しぶき!!!】」
桜は足裏に気を集中させ、爆発させる様に跳び跳ねた。
フルパワーで放つ【水しぶき】の衝撃で、巨大な血液の波から逃げる。
そんな彼女を地から溢れる巨根の数々は、逃がさない。
「何故…?何故おまえは…私の邪魔をする…?“あの時も”……っ!!」
少女は宙に浮く。
着物を着崩し、か細い背を露にした。
そして―――。
「【『血結び』――“血染め”――】」
その背から赤黒い線が抜け出し、根に繋がる。
繋がった根は、血に染まった様に赤くなる。
血染めされた根は、その速度が増し、豪速球の如く桜へ襲い掛かる。
彼女はそれを避け、根を駆け上がる。
刀を振って根を切り裂こうとするのだが――。
「ッ!(強度も速さも上がっている…!根が……重い…ッ!!!)」
力一杯振っても、根は火花を上げ、速度を落とすことは無い。
逆に自分がその力で押し飛ばされてしまいそうだ。
刀の威力がもう少し必要そうだ…。
となると、攻略法は“二つ”。
『完璧に避け切りながら、核へ突っ走るか』
『常に【水神】を使い続けて道を切り開くか…』
ならば一つだ…。
「スゥ―――…!【ッ…水神ッ!!!】」
気が溢れ、龍が表れる。
彼女の剣術と共に、龍は宙を泳ぎ回り、赤い根を切り裂く。
火花を上げた鉄の様な巨根は、その斬撃であっさり切れた。
これなら行ける。と、彼女は駆け出す。
水龍は根を裂き、道を切り開く。
あの少女から距離を離し、根を駆け上がり、確実に
がしかし―――。
「っ!」
根を駆け巡る彼女の頭上。
そこに、赤い星が見えた。
「―――【水しぶきッ!!!】」
すぐにそこから飛び降りる。
星はその根の上に落下。
土煙が吹き荒れて、地が揺れる。
星は、あの少女だ。
血で出来た槍を突き立て、天空から落下してきた。
咄嗟の判断で、その場から離れる桜。
再び距離を取ったのだが、それだけでは彼女の猛攻は止まらない。
少女は槍を分解し、自身の両手の中心にその血を集中させる。
圧縮された血の塊は、熱を帯び、目映いほどの赤い光を放つ。
小さい赤星が、彼女の掌の上で圧縮に圧縮を重ね、込められた力が今――。
「――【『落涙』】――」
月夜に解き放たれた赤い星は、天空で炸裂し、無数の流星群がその地に堕ちる。
「っ―――!」
大地を埋め尽くす赤い星々。
青い幻想的な草原は今、禍々しい赤い光に包まれ、その美しさを消し去った。
そんな中を桜は駆ける――。
大地を抉り、彼女を貫こうと荒ぶる根。
空を埋め尽くす、赤い星。
「ッハァアぁっ!!!」
刀を振り、彼女は足掻いた。
だが、状況が良くなるわけもなく――。
「―――っ!」
目の前だ。
私の前に、赤い星が堕ちてくる。
「―――――だぁぁあぁっ!!!!」
刀を振った。
ありったけの気を刀に流し、その星を打ち砕いた。
「やった」と、喜んだのは束の間。
砕けた隕石の噴煙の中から、血の刀が表れた。
少女が、目の前に立っていた。
――忘れていた。
「――【妖刀・
「あ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
…
―――何度目だよ…。
私は――何回……何回、同じ
あの時……
ソルフィとガメが駆けつけて来なかったら、危なかった。
一回の
「私は…弱い」
目の前が、真っ暗だ。
海底の様に静かで、何も無い空間に私は浮いている。
気泡の音も聞こえない。
ただ、下へ沈んでいる。
「これは………今度こそ、まずいかも…」
口が動かない。
だけど、自分の声が聞こえる。
諦めるな――。
「かはっ…」
諦めたくない…。
諦め――たく――な―い――…。
手を伸ばし、もがく。
だが、いくらもがいても、上に上がれない。
どんどん、沈んでいる。
「…」
こんな声は届かない。
暗い水底に飲み込まれ、泡になって消えた。
あはは…っ。私。
一人じゃ、何も出来なかった。
もう――限界かな。…悔しいな…。
ごめんね、みんな。
あぁ――…死にたく無いなぁ―…。
少女は目を閉じ、薄れる意識の中、深い水底へ沈んで行く――。
続く
神様の桃幻郷 くまだんご @kumadango
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