第6話 川の野菜

「ぷはぁ…っ!」


ソルフィは川の中から這い上がる。


「ハァ…ハァ…。びっくりした……。も~びちゃびちゃ…………って…あれ?」


自身を見てみると、どこも濡れていない?

深い水底から這い上がったはずだが、肝心の川は浅く膝下までしか水位がなかった。


「靴も濡れてないし……」



川を上がって辺りを見渡す。

向こう側には畦道あぜみちが見えた。

ソルフィはその畦道あぜみちから山に入る石橋の上に立っていた。


「さっきまで夜だった筈だけど……」


橋から川に何か吊るされているのが見えた。

近づいてみると、それはかごだった。

かごにはキュウリやトマト…。野菜が中に乗せられていた。


「………野菜?こんな山の中に人がいるのかしら?」


山の方を向く。確かに道が山の中へ続いている様だ。


「迷っちゃったし…。この野菜の持ち主にでも道を聞こうかしらね……」


彼女は迷い無く山の中へ進んで行く。


パキッ…。山は草木の匂いに満ちていて、虫の声…鳥のさえずりなど…様々な生き物の声がした。

少し薄暗い木々の道を、山歩きには向いていないブーツで進む。


「……この山…熊とか出ないわよね…?私、いやよ…?怖いもん…」


そうこう言っていると、開けた場所に出た。

目の前には大岩があって、道がわからなくなっていた。


「行き止まり?…もしかして、山の方じゃ無かった?」


引き換えそうとしたその時――。


パキッ――。と…少し大きな足音が聴こえた。


「え…?」


大きい…。大きな生き物が枝を踏みながらこちらに近づいてくる音だ…。


「もしかして…熊?」


足音が段々近づいてくる。

それに伴い、彼女の心拍数は上がって行く。


パキッ――。


心音が耳の中で響き彼女は、自身を静止させる様に口を押さえ、音の漏れを無駄に押さえようとした。


「っ…!」


音の方へ手をかざす。

暑さのせいか恐怖のせいか…汗が垂れる。


「フっ…フっ――…。」



――――バキッ!!


「ッ!!【閃光星フラッシュッ!!!】」


魔法だ。魔法をその音の方へ放った。

放った光弾はピカッ!と光り薄暗い山の中を一瞬光で包んだ。


「グェーーッ!!」


すると、何か大きなものが目を眩ましソルフィの前へ姿を表した。


「へ?ニワトリ?」


大きな怪鳥だ。

怪鳥は光に驚き鳥類系の大きな鳴き声を上げながら、苦しんでいる。


「…はぁぁーー…っ。良かった……熊じゃない…」


安心するのもつかの間。目が回復した怪鳥は怒り、すぐにソルフィへ襲い掛かる。


「オォォォーーーッ!!」


口を開く。怪鳥の口の奥が明るくなり、何かが這い上がってくる。


「あれは…!」

「クォォーーッ!!!!!」


炎だ。炎が球弾となり、その口から放たれた。

一弾…また一弾と次々と口から放つ。


「っ!!【水蛸ウォーターっ!!】」


魔法陣を展開し、生きる様に動く水が触手の様にその火球達を叩き落として行く。

「グェェッ!!!」と怪鳥は雄叫びを上げた。

今度は飛び上がり、上空からソルフィへ火球を放つ。


「ちょっ!?飛べるの!?」


ソルフィは大慌てで大岩の後ろへ隠れる。

怪鳥の炎は砲弾の様に落下して行き、辺りに炎を広げて行った。


「たく…山火事になっちゃうでしょ…!」


怪鳥はそんなの構うことなく火球を次々と放っている。


「……あそこにいられると攻撃しずらいわね…。いや…まてよ?」


ソルフィは辺りに転がっている石を見つめる。


行動に移す。

辺りに転がっている、中くらいの重さの石をかき集め始める。怪鳥の視界に入らない様にできる限り、大岩の近くで次々と石を抱き抱える。


「このくらいかしら…」


十分かき集め、ソルフィはその一つを怪鳥目掛けて投げつけた。


「ハッ!」


ごつんっ!と頭に当たり石は鳥の上空を舞った。

その石で怪鳥をより怒り、ソルフィを見つけるなりさっきとは全く違う巨大な火炎を放った。

火炎はソルフィを火の海へと沈めた。


だが…?


「グェ?」


火が晴れると、そこにソルフィの姿は無かった。

探す間もなく怪鳥の頭上から声がした。


見上げると、水色髪のエルフが青空を舞っていた。

火球を放つ前に、その幕引きはすぐであった。


「【!!】」


ソルフィは大岩となった。


「グェーッ!!!」


その大岩は怪鳥の頭上に落下し、怪鳥を押し潰したのだった。


ソルフィが石をゴトゴトと落として怪鳥の前に表れた。


「これが、私の大技。【チェンジ】よ!桜とガメは手品向けとか、言うけど…こうやって戦いにも使えるのよね~」

「グッ…グェェッ!!!」


怪鳥は大岩を退かし、大慌てで山の中へと逃げて行った。


「あっ!待ちなさーい!!」


ソルフィはその怪鳥を追って、山の中へ進んで行った。

その後ろ姿を魔術師マジシャンは見つめていた。


「……物質と物質の位置を変える魔法…。最初に自分と投げた石を変えた。そのあと石を抱えていたのは大岩と自分の位置を変えるために質量を増やしたのか…。」



「…質量の上限があるのかね~…。妖気の消耗は少ないよう………。ハッハッハッ…これは使えるね……」


ニヤニヤと笑みを浮かべながら猫を撫で、帽子のつばをつまむと彼は姿を消した――…。




そして、ソルフィは怪鳥を追っていると山の中に建物があることに気づいた。

屋敷の門の様な物が姿を表した。


「…これは、お屋敷の門?……あのニワトリ…いなくなっちゃったし………。って…最初の目的はこれだったわね…」


自分に呆れて、門を開いた。

開くとその先には長い階段が天へと連なっていた。


「え?嘘でしょ?」



別の場所の階段には…

階段の前にあった池の中からカメレオンの魔物が飛び出してきた。


「うぁ~!溺れるッ!?」


バシャッバシャッと暴れていると。


「ん?…あっ、オレ泳げるわ」


さっきまで暴れいたのに、平然と立ち上がった。


「あれ……?桜とソルフィは……どこ行った?」


カメレオンはなぜか、ソルフィと桜を探しているようだ…。


「………………まさか、この階段?………………まじかよ!?」


――――――――――――――――――

・ソルフィ

 娯楽大好きエルフ

種族 エルフ

能力 チェンジ&魔術

桜が旅の途中寄ったこの国、始めての知り合い。

今は桜と同居しており、仲良く生活している。


趣味で絵を描いているが…その出来映えは絶望的に解らなく…ガメからは「とても特徴的だな!!」と言われるのであった。


             続く  

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