第2話 平和な小さい王国

彼女の住む国、『桜花』。

大王バサルトが治めるこの国は、またの名を『小さな王国little castle』…と呼ばれている。


――平和な小さい王国――


この国はいつも賑やかなで、今日も話し声が何処からも聞こえる。

小さな子供の遊び声や主婦間の世間話。

人々の中に紛れた妖怪や魔物もいるが、特に問題は無い。


皆、気にしていないのだ。



家を出たあと、ソルフィと別れ、別々の目的地へ向かった。

桜は城へ、ソルフィは待ち合わせがあるらしい。



そんな彼女が城へ向かう途中、鼻を刺激するあるが…。


「……ん…この匂い…」


食べ物の匂いだろうか……。

タマネギの甘い香りに…焼ける衣のジューシーな香り。

匂いの方へ誘われる桜。


見えたのは肉屋だ。

肉屋の小窓から聞こえる油の跳ねる音。

店前販売をしているのだろう。


店を覗くと、揚げてのメンチカツがそこに置かれてあった。

きつね色の衣を身に纏い、ジューシーな音色を響かせ揚がって行くカツ。

この誘惑に勝つなんて無理な物。


「やっぱりメンチカツだ~」

「おっ…桜ちゃん!いらっしゃい!!」


店内のガタイの良い店主と目が合う。

桜の判断は速かった。

店主と目が合い、声を掛けられた次の瞬間には……


「メンチカツ!揚げて1つください!!」

「まいど!!!」


誘惑。勝てず。



「ん~っ…おいしぃ~!」

満足感を大いに感じ彼女の表情は垂れて行く。

うまいうまいと、あっと言う間にメンチカツを腹に納め彼女は再び城へ進み始めた。

幸福度満載の彼女がニコニコと町中を歩いていると、自分を呼ぶ小さな子供達の声が耳に入った。


「桜お姉ちゃん!!!」

「ん?あぇぇ!?」

振り向いた瞬間、彼女は子供達に囲まれてしまった。

「ねぇねぇー!あそぼー!私の髪の毛結って!!」

「また、刀見してよー!」

と子供達は桜を囲い、遊ぼうとキラキラとした眼差しで見つめてくる。

これはまずい…

このままでは、城どころかここから動けそうにもない…。


「ご…ごめんねぇ~?お姉ちゃん…予定があって……」

「えぇー…!!」


さすがに納得が行かない様だ。


彼女の人形の様な綺麗な容姿は女の子達に人気であり…普段持ち歩いている刀は男の子達に人気。

要は、子供達の人気者で憧れのまと


物腰の柔らかさも作用して、どんどん子供人気を獲得して行った。

その為、彼ら彼女らは桜と遊ぶのが大好きなのである。



このままこの子達と遊び、城に行けないのだろうか……

――そう思ったとき。


「おっ!!桜じゃねぇかー?おーーい!!!」


一人青年が遠くから手を振っている。


「っ…ガメ~!助けて~!!」

「助けてって……なんだその状況…」


助け船が来てくれた様だ。




この後、彼と遊ぶと言う約束により、子供達は渋々受け入れた。


「じゃーな~」


嵐の様に去っていた子供達からやっと解放され、鮮やかな緑髪の青年ガメのお陰で桜は難を逃れた。


「ガメ…ありがと……来てくれなかったら…大変だったよ……」

「いいっていいって。俺もソルフィに会う意外予定ねぇし」

「ソルフィ…?」


ふと、家を出る前に彼女が『出掛ける』と言う話しをしていたことを思い出した。


「あっ」


「あら…桜じゃない?」


その時、桜の後ろにソルフィが。

きっと…ここで待ち合わせをしていたのだろう。

…と申し訳なく思った。


「よぉソルフィ!この後、買物行く予定だったが、急用入ったんだ。先にそっち行っていいか?」


彼は気軽に話した。

……えーっと…どうしようかな…。



――事情説明中。


「……う、うん。別にいい…けど…」

「サンキュー!んじゃ、行こうぜ!じゃあな桜~!」


ガメはソルフィを連れ、あの子達のもとへ向かった。

ソルフィは顔を引きつって、渋々って感じだったが……まぁうん…忘れよう。うん。


「えーっと……わ、私も…城行くか~……」


少し申し訳無かったが、城を目指すのだった。



「…………あとで…謝ろ…」




丘を登って行くと、そびえ立つ西洋風の城が見えてきた。


――大王バサルトの城――


巨大な門が目の前にあり、その下をくぐる。

柔らかな日差しの差し込む城内。

レッドカーペットの上を歩き、長い廊下を進む。

外からの日に照らされ、城内は程よく明るい。

ポカポカとした城内を進み、目的の部屋の扉の前に止まる。

少し重たい扉を開いた。


その先の空間は広々とした大図書館。

窓が高い位置にあり、少々日当たりが悪い気がする程の広い図書館。少し…カビ臭い気がする。


本棚も自分の家より更に高く、ぎっちり本が敷き詰められていた。

少女は梯子はしごを駆使し、目的の本を探す。


「えーっと……あった!」


それを手に取り、席に着く。

本を開き静かに読み進める。


静かな時間が進んでいた。

その静寂に切り込みを入れる様な大きな声が、彼女の近くで響いた。


「ようっ!!相棒ッ!!!!」

「うぎゃっ!?」


ド迫力な威勢の良い男の声が図書館内を木霊こだました。


「だ…大王………っ!み、耳元で大きな声出さないでよ~」

「あ?わりぃわりぃ…!」


ゴワゴワな青髪の、図体の大きなムキムキの大男。


彼がバサルト。

大雑把な男で、能天気者。

曲がった事を嫌い、馬鹿正直。

未婚者でやんちゃ娘が一人いる。


こう見えても当地力はあるため、この平和は保てている。

本人もバカの自覚があるためか、作戦とか立てずにすぐ前に出るタイプである。


「久しぶりじゃねぇか?最近、うち来なかっただろ?」

「あ~うん。色々忙しくてさぁ~?旅は慣れっこだけど……。なんせ、長期滞在って…あんまり体験したこと無くて……」

「ガハハハッ!!そんな時は俺を頼れ!!!なんせ、相棒だもんな!!!」


バンッ!バンッ!と力強く背中を叩かれる。

少し力が強く、痛い……。


「そういや、“メイちゃん”も寂しがってたぜ?」


彼がそう発した途端。

奥の席で気配を消していた少年が立ち上がった。


「寂しがってねぇよっ!!!?」


…バサルトも桜もさっきまで彼がそこに居たことに気が付かなかった。


「おぉっー」

「あ、“メイチュ”……居たんだ…」


               続く

                

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