神様の桃幻郷

くまだんご

第1話 『桃』




――こんにちは。素敵な貴女あなた――


――私は■■■■■――



木漏れ日が差している。

光が眩しく、彼の顔は見えない。



君は――――…




――私は――





「っ…」


木漏れ日とは対照的な、無骨な天井が視界を覆っていた。


「また同じ…」



桜色の髪の少女が夢から目覚め――物語が始まる。




――『桃』――




朝だ。

障子の隙間から朝日が差している。


眩しい。


「夢…」


寝ぼけた頭を回す。

変な夢を見たような気がする。だが、思い出せない。


夢はそう言う物だ。

何か覚えておきたくても、いつの間にか頭から抜け落ちる。


今までの私は………重要な“何か”を落としてしまっている。


「……モヤモヤするなぁ…」




――少女の名は『桃井ももい さくら』。

桜色の長い髪を下げた、青い瞳の少女だ。


そして、この物語の主人公。


こんな始まり方はそぐわないのだが……。

まぁ、“ページ”が開かれてしまったのだから仕方がない――。



奇妙な夢から覚め、重い身体を起こす。

のそのそと歩み、障子を開けた。

朝の日差しがスポットライトの様に眩しく全身を照らし、春のポカポカ陽気が身体を芯から温め、リラックスさせてくれる。


いい朝だ。


「ん~っ…あ~~っ!!」


体を伸ばし、身体にしっかりと朝を伝える。

寝起きに体を伸ばすと何故こんなにも気持ちが良いのだろうか……

心が高揚し、生きていることの喜びを感じる。

…のか?


「…ん」


布団を片付け、部屋を出た。

洗面所へ赴き、鏡の前に立つ。


寝起きの寝ぼけた顔。ボサボサに乱れた髪。

鏡に映る自分だ。

「ふぁ~」とあくびを上げ、眠そうな自分の姿が鏡に映る。


「寝癖やば……」


蛇口を捻り、水を出す。

バシャバシャと顔に浴びせ、まだ寝ている頭を起こす。


スッキリした所で歯を磨き、髪を整える。

その後は部屋に戻りダボッとした寝間着を脱ぎ、しっかりとした動きやすい服装に着替えた。



一通り身を整えたら、廊下を進みある部屋を目指す。

廊下の一番奥の襖の前に止まりノックするが、部屋の中から返事は無かった。


部屋に居る住人は、まだ夢の中の様だ。

“彼女”を起こすのは少し骨が折れる。


自分で起きてくれれば有難いのだけど……。

……しかたない。


ガッ!!と襖を開け、声を上げる。



「スゥ―――…!ソルフィー!!!起きて!!」


大声を上げると、足元の布団がモゾモゾと動き出した。

中から微かに声が聞こえる。


モゴモゴ…ムニャムニャ……と、言葉になっていない。


「……ソルフィー。朝だよ~?」


私はその動く布団を捲りその正体を暴いた。

中から神秘的な水色髪のエルフの少女が表れる。


「んっ……うぅん…っ…まだ…」


彼女はボソボソと返事を返し、丸く踞ってしまう。

そんな彼女を起こす為、ゆさゆさと揺らし声を掛ける。

しかし、随分と朝が弱いようで……。いくら揺らしても、いくら声をあげても「うぅー……ん…っ」と呻くばかりで微動だりしない。


「…………仕方ない」


私は色白い、そのか細い足に手を伸ばした。

ガシッ…!と掴み、力一杯…っ!!


「ソルフィ~~~ッ!!!!起きてぇ~っ!!!」


彼女の、その足をバタバタと上下に振り回し、叩き起こす。


「…ッ!!痛い痛い!!足つっちゃう足つっちゃう!!」

「はい。んじゃ、起きてね~」

「わかった……!!わかったっ!!!」


激痛に流石に彼女は飛び起きた。

少し涙目になっており、足をさすっていた。

ちょっと力強くやり過ぎたかも。



「いてて…。ちょっとやり過ぎでしょ……!私、体弱いんだから!!」

「…ごめん……。ソルフィ、眠り深いと…本当に起きないから…」

「む~……もう少し寝たかった…」

「寝すぎはダメだよ?」

「……わ、わかったわよ…」


「じゃっ…私は朝食作ってくるから、顔洗ってきな」

「………はーい…」


それを確認して、台所へ向かう。

その後ろ姿を眺め、ソルフィは顔を洗いにのそっと起き上がった。




台所にたどり着き、朝食の準備を始める。

冷蔵庫を開け、食材を取り、まな板の上で刻む。


鍋やグリルを使い、料理を完成させて行く。

その間、洗顔や歯磨きを済ませた、寝間着姿のソルフィが冷蔵庫から牛乳を取り出し、飲んでいた。


「あ。桜~?牛乳なくなっちゃった。」

「ん~。わかった、買っておくよ。」


「………いや、今日はお出掛けするつもりだから、やっぱり私が買ってくる。桜は…今日はお城行くの?」


「うん。今日は時間あるし…大王の所で、調ものしてくる」

「りょ~か~い」



料理が完成し、居間へ向かう。

焼き魚と味噌汁。それに白いお米。

在り来たりな朝食を、卓上の上に並べ、私達は席に着いた。


「いただきます」

「いただきま~す」





――朝日に照らされている居間……。

そこで、間反対の二人が向かい合っている。


『ソルフィ』は水色髪のエルフの少女で、紫と黒を貴重とした大人びた服装に身を包んでいる。


虚弱体質だが、性格は明るく、かわいい物には目がない――。



そんな彼女の首には、氷を模したネックレスが下げられている。

そんなオシャレな少女だ。




朝食を終え、二人は出かける身支度を済ませる。

桜は壁に掛けられたピンク色のコートを手に取る。

軽く振り、羽織る。

大きな裾が、彼女を包み、可愛げのある雰囲気に。

チャックを首もとまで上げ、桜色の長髪を密編みに結って準備は完了。


玄関前へ向かう…前に。



立て掛けていた刀を手に取り、腰に差す。

これで正真正銘、準備完了。


ブーツを履き、彼女は戸に手を掛けた。


「行ってきます…」




戸が開かれ、彼女は光差す世界へ飛び出した――。

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