先輩はかわいいものが好きすぎる

ネコ山

#1休日の先輩

アミ:ねえ、スガくん

なにボーッとしてるの?


ユウト:あ、先輩…すみません


アミ:疲れてるなら今すぐ休憩してきて

ちゃんと休んでからの方が効率良いし、仕事が捗るから


ユウト:そう、ですね…ははは(笑)


アミ:何?


ユウト:な、何でもないです!休憩入ります!



ユウト:(M)昨日、僕は偶然見てしまったんだ

このサバサバした、いかにも仕事出来ますというオーラを纏う…

職場の先輩、ミカドアミさんの休日の姿を


-昨日の昼間、井の頭公園にて


ユウト:(M)近くに大きい公園があるって…やっぱ良いなあ

日曜日だから家族連れもペット連れも多くて賑やかだし

…あ!あの絵本読んでる人、地元にいた時テレビで見た事ある!

あっちはバルーンアートか

大道芸人もいて、本当にいろいろあるなあ〜…


アミ:うう…どうしよう


ユウト:(M)あれは…見間違えじゃないよな…


アミ:迷う…お姉さん、ごめんなさい

私、優柔不断で決めるの本当に遅くって…


ユウト:…先輩?


アミ:え?!す、スガくん?!何でここに?!!


ユウト:驚き過ぎです、先輩


アミ:わわわ!!!


ユウト:え??


アミ:わ、私っ…!


ユウト:このビーズのクマ、すごくかわいいですね


アミ:へ?


ユウト:何、間抜けな返事してるんですか?


アミ:だって…


ユウト:隣にあるウサギと迷ってたんですか?


アミ:……う、うん…


ユウト:何、顔真っ赤にしてるんですか?


アミ:え?私、顔赤い?


ユウト:はい、とても


アミ:っ!!……


ユウト:すみません、このビーズのクマとウサギ両方ください


アミ:え?…スガくん?


ユウト:お会計はこれでお願いします

先輩、このクマとウサギに金具を付けてもらえるそうですよ

ネックレスとチャームの2種類から選んでください


アミ:どうしよう…どっちにどっち付けようかな…


ユウト:どっちにどっちって…(笑)


アミ:そもそもクマとウサギで迷ってたし


ユウト:迷い過ぎです


アミ:まさか両方とは思って無かったし…


ユウト:(笑)先輩、職場とはまるで別人じゃないですか


アミ:わ、…笑わないでよ

そりゃあ面白いよね、スガくんからしたら…

私、仕事中あんな感じだから笑っちゃうよね


ユウト:先輩の様子があんまりにも違い過ぎて少しからかっちゃいました

すみません


アミ:もう…


ユウト:で、ネックレスとチャームどっちにするんです?


アミ:あ、そうだった


ユウト:僕が決めちゃいますよ?


アミ:ちょっと待って!


ユウト:次のお客さん待ってますし


アミ:あー、……


ユウト:両方チャームにしてください


アミ:え!スガくん?決めるの早すぎるよ!


ユウト:両方チャームにしておけば、簡単に

ネックレスにも出来るので


アミ:うん…


-公園横の焼鳥店へ


アミ:はぁ…かわいいなあー


ユウト:かわいいビーズのクマとウサギ見ながら昼間から焼鳥とハイボールきめないでくださいよ


アミ:スガくんだって今、焼鳥とハイボール飲み食いしてるじゃない


ユウト:そうですけど、絵面が強いんですよ(笑)


アミ:これ以上からかうなら、そのお皿にあるつくね串もらっちゃうからね


ユウト:僕はまたつくね串頼むのでどうぞ


アミ:…スガくんって結構意地悪だね


ユウト:先輩がそういうこと言うならこのクマとウサギは僕が買ったので自宅に持ち帰りますよ


アミ:それはダメ!


ユウト:なんでですか?


アミ:私が欲しいから!


ユウト:買ったのは僕なんですけど


アミ:そうだけど…


ユウト:だけど?


アミ:クマとウサギどっちも連れ帰っちゃうのはずるい!


ユウト:僕はずるいんです


アミ:(むくれる)


ユウト:ちょ…(笑)…かわいすぎ…


アミ:…え?何か言った?


ユウト:いえ、とくに何も


アミ:人のことからかい過ぎ


ユウト:すみません、あまりにも職場の先輩のイメージとかけ離れてたので(笑)


アミ:…なんか職場以外で先輩って呼ばれるの違和感しかないんだけど


ユウト:ミカドさん?


アミ:仕事中以外で名字で呼ばれるの嫌


ユウト:アミ先輩?


アミ:それは後輩の女の子たちが使ってる


ユウト:アミさん?


アミ:それが良い


ユウト:何て呼ばれたいかは決めるの早いんですね


アミ:…悪い?


ユウト:いえ、全然


アミ:あ…ハイボール空になった


ユウト:すみません、お会計お願いします

アミ:え?


ユウト:まだお昼です、酔いつぶれたりしたら日曜日がもったいないですよアミさん


-お店から出る、再び公園内へ


ユウト:アミさん、足元気を付けてください


アミ:大丈夫だよ


ユウト:あ、今日ヒールじゃないんですね


アミ:休みの日の公園にまでヒールは履かないよ


ユウト:ま、そうですよね

僕も休みの日だからスニーカーだし


アミ:…まさかスガくんに休日の私の姿見られるとは思わなかった


ユウト:僕、先週から武蔵野市民になったので


アミ:え?


ユウト:今日もここまで歩いてきました


アミ:そうなの?!


ユウト:職場から少し離れた所に住みたくて

ま、通勤電車はしょっちゅう止まったり遅延したりして毎朝大変ですけど


アミ:何時の電話に乗ってるの?


ユウト:僕は9時あたまの電車に乗ってます


アミ:私はその三本前のに乗ってる


ユウト:三本前?


アミ:うん、遅延とか見越して早めに乗ってる

ユウト:さすが、武蔵野市民の先輩


アミ:ちょっと、私の個人情報ばらさないでよ


ユウト:すみません(笑)


アミ:もう(笑)


-笑い合う二人


ユウト:そういえば、この公園ボートも人気でしたね


アミ:うん


ユウト:にしてもすごい数のボートが池にありますね

上手く漕がないとぶつかりそうだ


アミ:…


ユウト:アミさん


アミ:何?


ユウト:ボート、乗ります?


アミ:え、いやいやいや!ボートは嫌!


ユウト:?何でですか?


アミ:私泳げないし!


ユウト:池で泳ぐんですか?ボートに乗るのに?


アミ:ボートとボートがぶつかって、その衝撃で池に落ちちゃったらどうするの?!


ユウト:そんな、大袈裟ですよ(笑)


アミ:万が一ってあるでしょ?


ユウト:そうかもしれないですけど


アミ:怖いからボートは無しで!

というか何で私がスガくんとボートに乗らないといけないの?


ユウト:そんな、決まってるじゃないですか


アミ:…え?

ユウト:アミさんが武蔵野市民先輩で僕が後輩だからです


アミ:…何それ(笑)


ユウト:他に理由ありますか?


アミ:理由がそれでも私は乗らないからね


ユウト:わかりましたよ


アミ:(M)だって…この公園のボートに乗った男女は……


ユウト:…アミさん?酔いがまわりました?


アミ:だ、大丈夫よ!


ユウト:案内してください


アミ:何の?


ユウト:何の?じゃないですよ

この井の頭公園内の案内をお願いします


アミ:へっ?


ユウト:へっ?じゃなくてお願いします


アミ:案内も何も…土日は晴れていればいつもこんな感じだから


ユウト:よく来るんですか?


アミ:まあ、そうだけど…


ユウト:さっきのビーズアクセサリーのお店、アミさん常連っぽかったし


アミ:あ、バレてる…


ユウト:そりゃあわかりますよ

あんだけ悩む人がいたら、他のお客さんの邪魔にならない位置に誘導しますって


アミ:ううぅ…行くたびに長居しちゃうから迷惑かけちゃうんだよね…


ユウト:あんなに迷うなんて、仕事中からは微塵も想像出来ませんよ


アミ:そんなに?


ユウト:はい


アミ:私って職場ではどう見えてるの?


ユウト:そうですね、いつもサバサバしてて判断力もあって…面倒みもいいけど仕事以外に趣味とか無さそうな感じですね


アミ:それ、私がつまらなそうな女って遠まわしに言われてる感じがする…


ユウト:そう聞こえますか?


アミ:うん


ユウト:その返事も違和感しかないです


アミ:???


ユウト:職場では「はい!」って覇気があるのに「うん」って返事されるとえっ?てなります


アミ:そんなに違和感ある?


ユウト:はい、まあ…僕はだんだん慣れてきましたけどね


アミ:休みの日まで気を張ってられないから


ユウト:じゃあ今のアミさんは「素」ということですか?


アミ:「素」…ってなるんだ


ユウト:これだけ違うとそうなります


アミ:(ため息)…いつの間にか…というか気付くまで時間かかっちゃったんだよね…


ユウト:ん?


アミ:私、本当はこんなにビビりだし挙動不審なのに

出社して、社員証ピッてしたら仕事するモード!!ってなるの…

今日も気合い入れてくぞー!って…

…そしたら後輩のみんなからは「アミ先輩かっこいい!」「先輩みたいな社員の見本に私もなりたいです!」とか言われるようになっちゃって…


ユウト:同僚もよく言ってます、それ


アミ:(深いため息)


ユウト:アミさんって仕事スイッチ入るタイプなんですね


アミ:そうみたい…


-再び深いため息をつくアミ


ユウト:(ひと息ついて)、かっこいい先輩ってイメージがついちゃって

いつもの自分になれる時間が減っちゃったんですね


アミ:本音言っちゃうと、退勤した後も社内の人には極力会いたくない


ユウト:あー…この前の飲み会のときもアミさん、早めに切り上げてましたしね


アミ:バレてた?


ユウト:はい、帰り際に深いため息をついてるとこも


アミ:なんで見てたの?


ユウト:あの先輩もため息つくんだなと思って


アミ:スガくんも私のこと「サバサバ系」だと思ってたんだね


ユウト:そうですね


アミ:まあ、私仕事のときは絶対パンツスタイルって決めてるし

髪もピシッとまとめてメガネかけてるし

今日みたいに髪をおろしてカチューシャしたりなんてしないからなあ


アミ:………え?


ユウト:ん?


アミ:スガくん、よく私って気付いたね

今日はメガネもかけてないし、ワンピース着てるのに…


ユウト:今日のアミさんの格好が変装だったとしても、僕にはわかりますよ


アミ:なんで?


ユウト:なんで?って……アミさんって鈍感


アミ:鈍感?…私結構気付く方だと思うんだけど

後輩や上司の体調不良とかさ


ユウト:そういうのじゃないんだけどなあ


アミ:そういうのじゃない?


ユウト:アミさん、そのオウム返しクセなんですね(笑)


アミ:オウム返し?


ユウト:その小首傾げも

仕事中も出てますよ、それ


アミ:あ、ごめん…


ユウト:職場のアミさんとのギャップがありすぎて………(こらえていた笑いが込み上げてくる)


アミ:そ、そんなに笑うことないじゃない!


ユウト:(笑いながら)ビーズのクマとウサギを選んでるときも


アミ:うっ!


ユウト:そのギャップは本当にずるいです(笑)


アミ:私のイメージって…何なの〜


ユウト:かわいいです


アミ:え?


ユウト:アミさんはかわいいです


アミ:ななな、いきなり何言ってるの?!


ユウト:僕の正直な気持ちです

迷惑ですか?


アミ:ぜ、全然そんなこと…ないけど…


ユウト:ないけど、なんですか?


アミ:…スガくんは、私のことかわいいって思ってくれてるってこと?


ユウト:そうですよ


アミ:え、えええ?!!わわわわ……


ユウト:挙動不審(笑)


アミ:やっぱりスガくんは意地悪だ


ユウト:かもしれません

こんなにかわいいところ見せられたら、もう…


アミ:もう?


ユウト:アミさん、また小首傾げてますよ


アミ:うう…もう、なんなのこのクセ!!


ユウト:かわいいからそのままで良いと思います


アミ:また人のことからかって〜


ユウト:今日一日一緒にいたら他にもいろいろ出てきそうです


ユウト:アミさんのかわいいところ


アミ:す、スガくんっ!!


ユウト:では公園散策再開です

武蔵野市民先輩として案内をお願いします


アミ:もう、しょうがないなぁ(笑)


-笑い合う二人


アミ:(M)本当かどうかわからないけど、

この公園のボートに乗ったカップルは別れるってジンクスがあるんだよね

スガくんと私は付き合ってるわけじゃないけど…

そのことが頭によぎっちゃった…


ユウト:アミさん、橋の向こうでバルーンアートやってますよ


アミ:見たい!


ユウト:行きましょう


アミ:うん!


アミ:あの子風船でチューリップ作ってもらったんだ〜かわいい(笑)


ユウト:アミさん


アミ:どうしたの?


ユウト:これ、どうぞ


アミ:わあ…風船で出来たチューリップだ


ユウト:アミさんがさっきすれ違ったこの風船ガン見してたので、

パフォーマーさんに作ってもらいました


アミ:私ガン見してた?


ユウト:はい、それはもう風船を眼力で開けちゃいそうなくらい


アミ:そんなことしないよ


ユウト:例えです


アミ:もう、スガくんったら…


ユウト:これからもこうやって休みの日に一緒に出掛けてくれますか?


アミ:スガくん?


ユウト:僕はアミさんともっと仲良くなりたいので


アミ:あー…うん、いいよ


ユウト:何顔赤くしてるんですか?


アミ:私そんなにすぐ顔に出るの?


ユウト:はい、出てますよ(笑)


アミ:恥ずかしい…


ユウト:そういうところもかわいいから良いと思います


アミ:また私のことからかって!スガくんって本当に意地悪っ!


ユウト:僕、そんなに意地悪ですか?


アミ:うん、私のことからかってばかりなんだもの


—笑い合う二人


アミ:一緒にお出掛けするのはいいけど

職場では私がこんな感じだってこと秘密にしてね


ユウト:はい、アミさんがかわいいものが好きなかわいい女性であることは二人だけの秘密にしておきます


アミ:二人だけの秘密?


ユウト:またオウム返しに小首傾げ!


アミ:わわっ!


ユウト:それ、仕事先で出さないでくださいね


アミ:なんで?


ユウト:僕だけが知ってるアミさんのかわいいところの一つなので


—再び笑い合う二人


#1おしまい

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